0048 突入開始
謎の拍手に恥ずかしがる十桜は置いといて、
『……現在の状況をお伝えします。……おっと、その前に……
その男、サカガイ ヨウジというのですが、彼に眠ってもらうことはできますか?
いま、そちらに機動隊員が向かっていますので、それまでの間……』
喜多嶋の声はフクロウにつけらえている端末からたんたんと聞こた。
その、紹介されたサカガイ ヨウジに甚五が近づいた。
拳を鳴らしながら。
「サカガイくん、自分眠りたいらしいやんけぇ。
せやったら、わしが自分に子守唄うたってやるやんけぇ」
「な、なにする気だよぉ……」
「なにってぇ、クスクスクスクス……ただの歌や、歌やんけぇ!
千春がええか? 拓郎か? 矢沢か長渕か? それとも三波春夫……」
彼は、青石と玉井がきょとんとする名前を並べ、
ハンマーのような拳を持つ肩をグルグル回した。
ミノムシの男は怯えて「ヒイイ――ッ」と悲鳴をあげる。
次の瞬間、
――バチィィィィ
っと綺羅々さまのいつものが決まり、
「マイコオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ――――ッ」
キング・オブ・ポップの名をシャウトしながら、
乗降口をぶち抜いて、
空に半円を描き、
――ボチャッ
井の頭池に
七色のアーチがきれいだった。
(ラ・ルク・アン・シエル……)
というわけで、
「《良い子も悪い子も普通の子も眠れェ~~》」
綺羅々さまの催眠呪文が決まり、
「あぅ……ス~……ス~……ス~……」
無事、
ミノムシは鼻提灯をつくった。
綺羅々さまはため息をついて編み物に戻った。
「バカだねえ、犯人だからって暴力ふるってもいいわけじゃないんだよぉ~」
(仲間はいいのか……)
「ああ~ドアが飛んでいっちゃった~
ボクちゃんDr.に怒られちゃうよ~~……
も~綺羅々さまったらぁ~~……」
「しょうがないでしょぉ~あのスカポンタンが~」
スリーマンが少々内輪もめをしている。
だが、気を取り直して、
とりあえず、甚五を回収してから喜多嶋の状況説明を聞くことにした。
その前に、こちらも即席 《
「よし、できた~……
じゃ~、みんな、離れてもおしゃべりできるようにしちゃおっかぁ」
綺羅々さまは伸びをすると皆にアイテムを配った。
それは通信魔法の媒介に使う“キララちゃんバッチ”だ。
バッチの絵はかわいい綺羅々ちゃんのお顔。
二年生ががんばって描いたような愛らしい絵だ。
(……味わい深い……)
それは置いといて、
これを身に着けているだけで、
媒介を持つもの同士の《遠隔音声会話》と《思念通信》が可能になる。
フクロウにもガムテで固定。
「十桜ちゃんにはこれよぉ~」
十桜には、綺羅々ちゃん人形。
500円のガチャガチャで出てきそうなかわいこちゃん。
彼女が、座席でずっと縫っていたものはこれだった。
「……急いでつくったから、あんまりかわいくないかもぉ……」
「いや、カワイイっすよ。ほんとうに。上手だなあって思いますし、
顔の崩れが市販品にないアジになっててぼくは好きです」
十桜がそういうと「……そ~お……」と返事はするが、
綺羅々さまは珍しく言葉に詰まった様子。
かと思えば、いつもの調子でゆったりと話しはじめた。
「……あたしくらいになるとぉ、
世界のダンジョン、ダンジョンに男がいるの~。
そういう男たちにあげてるのよぉ~コレ。
あなたはお付き合いしてないけどぉ、
材料あまっちゃったから作ったんだけど~、貰っておいてぇ」
「あ、どうも……」
彼女は、そういってハチミツのような甘いにおいをのこして座席にもどった。
すると、コックピットの平太が近づいてきてしゃがみ込むと、
手招きして十桜も座らせた。
「……いい~? ここだけの話だけど~……」
「はあ……」
「……実は綺羅々さま、
世界のダンジョン、ダンジョンに~なんてこといってるけどぉ、
お付き合いした人数これだけ……」
彼は、そういって片手でチョキをつくった。
「は、はぁ……」
「それにぃ、お付き合いしたひとじゃないとぉ~、
絶対に桃色な関係にならんのよ~~、
ああ見えてぇ~超真面目でうぶなのよお~……!」
「はぁ……」
「ね、意外でしょ~? カワイイ所あるでっしょ~?
どう? 十桜くん、このさい、
綺羅々さまと
平太がうれしそうにひそひそしていると、甘ぁ~い声が聞こえた。
「平太ぁ~なぁにこそこそしてるのぉ~?」
「いえ~なんでも~~……綺羅々さまは蝶のようにお美しいってお話ぃ~」
「そぉ……ちょうちょねぇ……その割にくしゃみはしなかったわぁ」
という、なんだか分からない話をしつつ、
みな、通信魔法使用の準備はできた。
わんわん号で待機の平太以外は、
井の頭池のふちに降り立った。
ずぶ濡れで腕立てする甚五を回収。
甚五がもともと持っている綺羅々ちゃんバッチに魔法をかける。
そのあと、綺羅々さまはドライヤー代わりに彼に風魔法をかけていた。
――ふおおおおお~~
「わし、泳ぎ足りないんじゃ~」
「あんた泳げないでしょぉ~」
送風していると第十一機動隊の隊員と合流。
ぐるぐる巻きのサカガイ ヨウジを引き渡す。
それから、フクロウくんとともに徒歩で吉祥寺第三ホテルに向かう。
四つの交差点を渡るとそのホテルはあった。
そこにつくまで間、SOUND ONLYの喜多嶋が状況と作戦を軽めに語った。
《冒険者パーティー・ロウゼキ捕獲作戦・状況》
・作戦参加メンバーは、
第十一機動隊隊員二十四名。喜多嶋探偵事務所六名。
三日月十桜。スリーマン・リスペクト三名。青石菫。玉井紅の三十六名。
・ホテル内での、攻撃魔法使用許可は出ていないため、攻撃魔法の使用は禁止。
・只今、彼らが潜伏する第三ホテル403号室のある四階の利用客は全員退避中。
・念のため、403号室の真上の階、三部屋と真下の階、三部屋の利用客も退避。
・403号室のある廊下左右に機動隊員六名ずつと喜多嶋探偵事務所三名ずつを配置。
・第三ホテルの客室には内窓しかない。
・各部屋の内窓は、ホテルロビーの大きな吹き抜け空間に繋がっている。
・内窓からの逃走防止策として、ロビーに機動隊員十二名を配置。
・十桜たちもロビーで待機。
「……喜多嶋さん、ぼくらは……」
十桜は自ら願い出て、403号室隣の402号室での待機に変更してもらった。
青白い眼の射程範囲にヤツラを捉えるためである。
《冒険者パーティー・ロウゼキ捕獲作戦・実行》
・第十一機動隊員がスペアキーで403号室のドアを開ける。
・ドアを開けた隙間から《煙幕筒》を投げ込む。
・ドア口から《催眠魔法》を使用。室内の四人を眠らせる。
・403号室に機動隊員突入、《ロウゼキ》の四人を確保。
十桜たちは吉祥寺第三ホテル四階に到着。
喜多嶋探偵事務所の面々と軽めの自己紹介をしあう。
フクロウくんは喜多嶋の元にもどった。
十桜たち五人は402号室で待機する。
平太はわんわん号でホテル上空を旋回中。
《 いま、機動隊員が403号室のドアを開けます 》
廊下にいる喜多嶋の声が脳内に直接響く。
402号室のドアは閉じているから、
外の様子は一切見えないが、
(視えている)
半径10メートル圏内は十桜のエリアである。
隣の403号室では、
男たち四人中三人が貧乏揺すりをしている。
騎士はベッドで仰向けになって眠っている。
魔術士は爪を噛んでいるようにみえる。
僧侶は酒を飲んでいるようだ。
剣士はタバコを吸いながらスマホを見ている様子。
召喚札は四枚視える。
魔術士と僧侶は握りしめ、寝てるヤツは枕元に。
スマホのヤツは腰掛けているベッドの上に置いている。
それら召喚札の内容も把握できる。
しかし、一枚だけ読み切れない札があった。
(クソッ……!)
《……喜多嶋さんヤバイですッ! 騎士の枕元にある召喚札が……!》
《……三日月さん……》
十桜が魔法通信で喜多嶋に話しかけたときには、
――ガチャッ
ルームキーが差し込まれていた。
その時、
「……ルームサービスです」
十桜たちのいる部屋の外から、従業員らしき人間の声が聞こえた。
皆、そっちを見る。
青白い眼には、彼が突然現れたように視えた。
その彼には魔法反応があった。
「……いけないッ! 彼は操られてます!」
「……どうして、ここに……?」
喜多嶋と隊員の声が重なった。
次の瞬間、
「ルームサービスをお届けに来ました」
その声とともに魔法反応が増幅。
同時に、隊員たちの怒声と唸り声が響いた。
「オイッ!!」
「ウワァッ!!」
「賊だ――ッ!!」
「煙幕ッ!?」
ソイツは、持っている皿のフタを開ける動作をした。
そのときに、アイテムと魔法が使用されたのだろう。
その皿らしきものの上に《煙幕筒》と《召喚札》の反応が視えた。
しかし、
この男が押さえつけられたときには、すでに手遅れだった。
――ゴアアアアアァァァァ――ッッ
部屋の外で獣の咆哮。
ソイツは、六種類の生物を合成したモンスター。
「……一旦退避! 退避ッ!」
怒声、悲鳴は続く。
「なんだッ!?」
「グアッ……!!」
ソイツは煙幕のなかで最初にヒーラーを攻撃した。
(……なんだこいつッ!? 見えるのか!?)
――グルルルオオオオオオォォォォ――ッ
咆哮は、次々とあがっていた。
403号室のヤツラがモンスターを召喚したのだ。
二体のキメラを。
その内の一体は窓口から召喚されて地上一階のロビーに飛び出していた。
――ドゴォッ
十桜たちの部屋からも破壊音があがる。
部屋のドアが打ち抜かれたのだ。
白くドデカイハンマーで。
その背中は、赤い戦士の鎧をまとっている。
そして、さっきまでは、
茶色がかった長い髪を後ろでまとめていたのに、
いまは、変身したかのように燃えるような赤い髪が暴れるようになびいていた。
「玉井、紅さん……」
十桜は、彼女の名をつぶやいていた。
0048 突入開始
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