0039 激闘
「三体残ってる……!」
広場に近づく十桜が見たのものは、
デカイモンスター三体と冒険者たちの激しいバトルだった。
至るところから煙が出ていて、樹木や地面がところどころ燃えている。
そして、獣の咆哮が轟き、怒声や悲鳴があがっていた。
だが、それが十桜には意外なことだった。
ダンジョンはじまりの地、新宿は上級冒険者が集まるのは有名だ。
なんならもう片が付いているのでは、と期待した。
しかし、十桜が広場を離れる前に召喚されたモンスターが
丸々三体残っているのだ。
体躯が中型以上にデカイモンスターとはいえ、
警備部と冒険者が三十人以上いても苦戦しているように見えた。
(アイツッ……ひとを……!!)
十数は広場を観察しつつ、その広場の外縁から露店の集まる場所に近づいていた。
(捕まってるのか……!?)
モンスターがその腕のなかに冒険者を抱きかかえていた。
ソイツは、ゴリラのようなフォルムの大猿モンスター【大岩猿】だ。
そのゴツゴツとした野太い腕に抱えられていたのは、
「プリーストのひと……!!」
それは悪漢に絡まれていた女冒険者だった。
警備部、冒険者たちが苦戦する理由の一つはこれだろう。
それに、決定的な理由は、やはり魔法がつかえないということだろう。
この広場は、ダンジョン周辺地域防衛のために
《
しかし、これは防衛する側の自分らも魔法が使えないということになるのだ。
そして、ご丁寧にこのモンスターたちは物理攻撃に強い部類だった。
ライオンのモンスター【キメラ】は、
十桜の見立てでは四種類のモンスターが合成されていた。
それは、
ライオン、
巨大コウモリ、
大蛇、
そして、全身を覆う“金属っぽいなにか”。
ここに召喚された二頭の体は、“輝く薄黄色の鎧”というような
鱗で覆われていて、体毛はその隙間隙間に見える程度にはあった。
ソレは、急所となる額や鼻あたりと、頬まで覆っていて隙が少ない。
おそらく、タテガミも硬くしなやかなのだろう。
あともう一匹、【大岩猿】の方は、名前のまんま、
大猿が灰色の岩のような鎧を纏っているモンスターだ。これも物理攻撃に強い。
このモンスターたちを、打ち破れる実力者が不在という不運も重なり、
いまだ新宿広場は戦闘の真っ只中だった。
そして、
《ブレイズ》というパーティーのカキノキと名乗った魔術士は、
確実に狙われているはずだから、
彼らがとんでもなく苦戦しているのはあきらかだ。
(目の前にいるのに……)
十桜は青白い眼が届かないことが歯がゆかった。
モンスターを視認できるのに情報を視ることができないのだ。
(……しょうがない……やれることをやろう……)
しかし、地上での射程距離10メートルでやるしかない。
まずは武器を調達して、ヤツラの近くに行かなければならい。
十桜は、露店に近づきつつ、リュックから《
なのだが、すでに見えている武器屋にひとが一人も確認できない。
この一角にはバラけて三つの武器屋があるが、
どこの店主も逃げたのか、モンスターと戦闘しているのか……
飾られている剣や槍、ナイフはある。
これを拝借したい衝動に駆られる。
しかし、どれもレプリカなので攻撃手段としてはつかえない。
「……あ~、武器屋さんアッチにいるよ~!」
三つとなりの店から声をかけられた。
道具屋の主人らしきひとだ。
彼は中央の戦闘現場を指差していた。
「スピード・ポーションありますかァッ!?」
十桜が返事の代わりにアイテムをオーダーすると、
「はいよ~ッ!」
ソレが弓なりに飛んできた。
「お代は後でいいよォ! ヤルんだろォ?」
「はいッ! どーもォ!」
十桜はパックジュースのような容器のスピードアップアイテムに口をつけ、
ノドを鳴らしながら店主を探そうと戦闘現場へ歩きだした。
すると、小走りしてくる男に声をかけられた。
「速く逃げた方がいいですよッ!」
彼は槍を持ち、あたまにはターバンを巻いていた。
顔からしたは革鎧に前掛けという装備だ。
この露店の店主だろう。
十桜は《
「冒険者です! 武器をください!」
「得物は?」
「ナイフ! 二つ!」
注文を言い終わるまえには、店主の男は動いていた。
アイテムディスプレイしている絨毯を迂回。
宝箱を開ける。
箱のなかからラクダ色の布を引っ張った。
それは、モノを大量に収納できる《商人の袋》だ。
彼はそのなかに両手をつっこむと、ナイフ二本をひょいっと持ちあげた。
そして、得物の鞘を指で叩く。
キー入力するかのように。
その動きは、《
《
「――金もカードもいいから持ってきな!」
「はいッ!」
十桜は店主から二本のナイフを受け取ると、戦闘の現場へと走った。
(……あのひとが先だ……)
プリーストを捕まえている猿の周囲は、冒険者、警備部の数が一番多かった。
彼女は気絶しているようで、抱えられた状態でうなだれている。
そこまでの距離が15メートルに近づいたとき、
見知ったひとに声をかけれた。
「おいッ! アンタ! 三日月さんッ!」
それは、おとといのガチムチ戦士だった。
十桜は名乗っていないのに、彼は十桜の名前を知っていた。
例のランキングサイトなどで知ったのだろうか。
「あっ……どうも……」
「こんなところでかよ! 奇遇だなァッ!
いやあ、アンタホントに凄いやつだったんだなあ~!!」
彼は、手には戦斧と盾。
身体には鉄の鎧を着ていたが、
しかし、下半身はジーパンとスニーカーだけ、というちぐはぐな格好をしていた。
「……いやあ、ダチと新宿でカラオケしてここ寄ったらよぉ、こうなったんだよ!」
どうやらガチムチ戦士は、十桜のように即席で装備を整えたようだった。
十桜にいたっては、
ロングTシャツとジーパン、スニーカー、リュックという出で立ち。
その普段着でナイフを二本構えていた。
「……まったく……冒険者ってのはおかしな商売だよななあ」
そして、彼は話しながらも、とっくに十桜の方は見ていない。
その足は、冒険者と格闘する大岩猿へとニジリ寄っていた。
(これも縁かな……)
十桜は彼のうしろから、腰を低くしてヤツへと近づく。
しかし、猿モンスターの動きは速く、
多様な動作の攻撃で冒険者たちを翻弄していた。
(近づいたら、離される……)
なかなか10メートル圏内に近づけない。
だが、大岩猿がこっちに向かう動作をすると、
それはそれで体はビリッとしびれ鳥肌が立つ。
ヤツの元には行きたいが体は重い。
敵は大人数の冒険者相手に立ち回るモンスター。
十桜は一撃でも喰らったら終わりなのだ。慎重に行かなければならない。
(このひとがいてくれて助かったかもしれない……)
ガチムチ戦士は、十桜の前衛になるように動いているように見えた。
彼は、なにも言わずとも戦士の役割をまっとうしているのだろう。
(もう少しだ……)
目の前で、冒険者と警備部十八人が、モンスターと激しくヤリ合っている。
その10メートル圏内に近づく。
そのとき、青白い眼に影が映った。
「危ないッ!!」
十桜は戦士の彼を背中から突き飛ばしていた。
その刹那、
――ドオオォォォォォォォッ
5メートル横で火球が着弾。それは遠くの向こうへと跳ねていった。
(あっぶなああああ――!!)
「うおおおおッ……何が起こったァ――」
転がった戦士が叫ぶ。十桜は転がりながら起き上がろうとしていた。
そのときには、大きな影が二人に近づいていた。
0039 激闘
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