0029 日常

 

 ――戦闘終了後。


《救援部》が駆けつけてきた。


 フラフラの十桜と戦闘不能の二人は、

 救援部に回復してもらい復活した。

 目眩はうっすらと残っていたが、すぐになくなった。


 なんと、その救援部のパーティーメンバー六人のなかに、

 紀之国部長と三徳副部長がいた。


「……遅れてすまないね。しかし無事でよかった。少量でも回復するひとは遠慮なく言ってくれよ」


 紀之国部長はほほ笑む。

 彼は、十桜と莉菜に、

《北斎拠点特製ジャンパー》と《北斎拠点特製スウエット》をくれた聖人だ。

 実際、

 自身のクラスも白銀の鎧に身を包んだ《聖騎士ホーリーナイト》だった。

 面長な顔に口ひげも似合っている紳士だ。


「ぴゃ~ッ! またキミかあ~! 二日連続で危険な現場にいるとはあ! 部長、彼は怪しいですよォ! レベル1で生き残っているんですからあ~! なにか非合法なアイテム所持の疑いがァ~!」


 ピャ~ピャ~、ピャ~ピャ~うるさくツバを50メートル飛ばす小男。

 それが、三徳副部長だ。

 クラスは《高位僧侶》。信じられない。

 猜疑心の塊のような彼が聖職者なのだ。信じられない。

 だが本当だ。

 

「……まあまあ、三徳くん。彼らも疲れているだろう。いまは――」

「……そうですか~? ……それにしても変ですねぇ。こんなにエクストラ・モンスターが――」


 この数時間のあいだ、この地下一階にエクストラ・モンスターが複数出現した。

 そのため、救援部員の手が足らなくなった。

 なので、スーツ姿でハンコを押してそうな彼らが駆けつけたのだった。


 救援部と冒険者たちが話をしている間、

 十桜は宝石とドロップアイテムを回収してスッと帰ろうとした。


 すると、


 共に戦った冒険者たちに気づかれ、

 何度も礼を言われた。


 十桜は救援部に回復してもらったあと、

 すぐに借りたアイテムを返した。

 そのとき礼を言われたのだが、

 彼女らはまたお礼を言ってきたのだ。


「本当に助かりました! ありがとうございます……! あの、目は大丈夫ですか? ……そうだったんですか、良かったぁ……あの、おかげでエイミー……この娘も私たちもたすかりました……!! 本当に、本当にありがとうございました!」


 真面目そうなポニーテールの剣士は、

 深々とあたまをさげてきた。

 その彼女の陰に隠れて、

 小柄な魔術士がこちらをおずおずと見ていた。


「あのぉ……あたしのアイテム……役に立ちました? ……それなら、よかったです……今日は……ありがとうございました……!」


 ショートカットの盗賊には、

 堂々としてそうな雰囲気を感じていた。

 しかし、テレ屋なのか、

 なぜかもじもじとして、伏し目がちに礼をいってきた。


「じゃあ、わたしの番、いいですか? ……本当にありがとうございました。おかげでたすかりました。わたし、MPもなくなってしまって、心細かったんです。あなたに来ていただけなかったら、わたしたち、どうなっていたか、わからなかったです。本当に、ありがとうございました」


 母性のつよそうな僧侶は、

 終始ゆったりとにこやかでいた。

 十桜としては、

 そのダイナミックで爆発的な胸部に目が奪われないようにするのがやっとだった。

 何回か見てしまったけど。


 そして、ガチムチ戦士は、


「……俺はッ、あんたに舐めたことを口走った! 本当にすまなかったァ!! このとおりだ! 許してほしいッ……!! お詫びとお礼に、これから……」


 そう、言って女剣士よりも深々と頭をさげてきた。

 ちょっと酒臭かった。


 彼は「これから一杯どうだ?」などと言い出しそうだったので、

 一刻も早くうちに帰り、アイスを食べたかった十桜は、


「無事でよかったです!! じゃあ、おれはこれで……!!」


 といってスタスタと歩きだした。すると、


「……あっ、せんぱ~い! 待ってくださ~い!」


 女子たちと話していた莉菜もあとをついてきた。


 十桜は宝石の換金はせず、

 喜多嶋と合流することもなく、

 莉菜とともに帰宅した。



 0029 日常



 うちの玄関にはいると、


 ――ぼふっ


 タックルするかのように抱きついてきたそらを撫でてやった。


「おかえり……」

「おまえ、毎回こうするのか?」


 十桜はあきれつつも、口はゆるんでいた。


 店番をするじいちゃんに折れたスコップのことを話すと、

 じいちゃんは、


「ああ、別にいいさ、十桜が無事でよかったなぁ!」


 と笑っていた。


 その言葉が、頭を殴り、胸を刺した。


 昨日、もし、

『計画』通りに大怪我をして、

 うちに帰ってきたとしたら、

 じいちゃんばあちゃんが、血だらけの孫の姿をみたなら、

 どう思うだろうか。


(寿命を縮めかねない……)


 バカな計画が失敗してよかったと、心底思う。

 これは、薬草で傷を癒やしてくれた莉菜のおかげなのだ。 


 十桜と莉菜は順番に風呂で汗を流した。


 十桜がネットでダンジョン情報を仕入れていると、

 居間に湯上がりの莉菜が現れた。


 熱気と、いい匂いがふわっと鼻をくすぐる。

 彼女はTシャツとぴっちりしたスウエットパンツに着替えていた。

 どことは言わないが、Tシャツの一部もぴっちりしている。

 胸元の、たぬきのキャラクターが苦しそうだ。


 それは置いといて、


 二人で棒アイスで乾杯した。


 それからノートパソコンでアニメ、喰いしんぼをみはじめた。

 今日は『究極の献立 対 至高の献立』回だ。

 莉菜もとなりでみていた。


「トリュフってどんな味するのかなあ?」

「味はあんまりしないかもしれません」

「食べたことあんの?」

「はい、ドラマの打ち上げで。ポテトサラダとかパスタにはいってました」

「アセチレンガスのにおいなの?」

「えせちれ……あせちゅ……えせちゅれん、ガスですか?」

「ふっ……」

「うふふふ……」

「ドラマのセリフ言えた?」

「言えましたよ~!」

「そっかそっかぁ」

「なぜかセリフはあんまり噛まなくて」

「本気だした?」

「本気だしました」

「じゃあ本気だしてみて」

「はい……す~は~……」

「……」

「いきます……」

「おねがいします」

「えせちっ、れ、えす……」

「あはははッ……どんなだよぉ……あ、喰いしんぼぜんぜんみてなかった……」

「うふふふっ」


 喰いしんぼとがきんン子モモエを視聴後、夕飯を食べた。

 今夜はすき焼きだった。

 なぜか食卓には白飯だけではなく、謎の赤飯もあがっていた。


「ほら、莉菜ちゃんお肉いっぱい食べてねえ!」


 母は昨晩のようにはりきっていた。


「いやっほおおおお~~ぅ!!」


 いや、昨晩以上に嬉しそうだった。


「母ちゃん盛りすぎだよぉ、山じゃねえかよぉ、やっほーってなんだよ」


 十桜は、肉に食らいつきながら母の肉山に苦言をし、


「ほら、十桜は日本のトリュフ食べな!」

「しいたけで埋めるなよ! 俺は肉なんだよ!」

「あんたは肉じゃないだろ!」

「俺は肉なの!」


 昨日の再放送をしていた。

 その同じ卓で、ほのぼの家族たちもほのぼのしていた。


「莉菜ちゃん、いっぱい食べなね」と、ばあちゃん。

「野菜も食べないとな」と、じいちゃん。

「親父も野菜食べなよ」と、父。

「おれは肉あればいいんだ……」と、じいちゃん。

「そう、おじいちゃんは野菜! 莉菜ちゃんは肉と野菜と肉ね! 育ち盛りなんだからこれぐらい食べられるわよね、莉菜ちゃん!」

「あ、はい……」


 莉菜は一応ほほ笑んでいる。


「18歳はそんなに育ち盛りじゃねーだろ!」


 十桜はそういいつつ、ついとなりを見てしまった。

 まだまだ育ちそうなふくらみに目がいってしまう。

 Tシャツのたぬきは相変わらず苦しそうだ。


 すると、


「お父さんビールもってくる?」

「お、ありがとう……親父、ほら、ネギ……」

「おれは肉だけで……」

「せんぱい……?」


 家族の会話が聞こえるなか、莉菜の向こう隣に座るそらと目があった。


(うおッ……!!)


「お兄ちゃん、莉菜ちゃんのは見ちゃだめよ、そらのはいいけど」


 そらがささやいた。


「十桜! 何を見たんだい!?」


 母はハッスル。


「うるせーなッUFOだよォ!」

「お兄ちゃん、そらのUFOをみるといいよ」

「せんぱい、あたしのお肉どうぞ……」

「十桜ォ! 莉菜ちゃんの何を見たんだい~~ッッ!?」


 母がよくわからないテンションになり、 


「十桜、UFOみたのか!?」

「お父さんはネギくいな! ほら、春菊!」


 じじばばの小競り合いもはじまっていた。


(どうでもいいけど莉菜ちゃんの前に赤飯おくなよ……)






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