0019 悪の水戸黄門による勧誘


「はぁ……」


 十桜はため息が漏れていた。

 たった二人しかいないパーティーメンバー。

 その内の一人が口説かれているのだ。

 しかも自分の目の前で、

 堂々と。。。


(……やっぱこういうことになるのかよ……人気だなぁ……)

『お休み中とはいえ、歌って殴れる現役アイドルでやんすからねぇ……』


 白い鎧の男、タカイシに誘われた莉菜は、


「え……いえ、私はもう、パーティーに入らせてもらっていますので、ごめんなさい……」


 申し訳なさそうに頭をさげていた。


「そうですか。いやあ残念だな……ですけど、お連れの方のレベルと装備だと、これからハードモードすぎませんか?」

「いえ、この方は、すごく……つよいんです……」


 莉菜がおずおずと、しかし、はっきりそう言うと、高石とチャラい盗賊と、あとその後ろにいた僧侶が馬鹿笑いした。


「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハッ――――――」


(あ~……うれしいけど……それは言っちゃだめだ……)

(……ていうか笑い過ぎ……)


 そんななか、


 笑い袋みたいな連中とは対象的に、最後尾の魔術士はずっと興味なさそうによそ見をしている。

 この男だけ周りから異様に浮いていた。


 まず格好からしてちぐはぐだった。

 十桜の眼に映る表示は魔術士となっているのに、なぜか西部劇のガンマンのようなハットを目深にかぶり、魔術士向けのマントを装備してはいるが、中はローブではなく、盗賊が好みそうな軽装革鎧なのだ。


 それに、見た目の年齢も違う。

 パーティー全体の年齢は二十代前半そこそこに見える。

 だが、この男は一周り以上うえの三十代後半に見えるし、レベル・ステータス表示にも違和感があった。


(“熱烈莉菜ファン”に、“胸糞悪い水戸黄門”と、“怪しいおじさん”のパーティーか……)


「アハハハッ……り、莉菜ちゃんって、カワイイだけじゃなくて、ボケもできんだね~! サイコォー!!」


 チャラ盗賊はゲラゲラと腹を抱えながら言った。

 そこに高石が続いた。


「莉菜ちゃん、こっちはリーダーの俺がレベル25だし、いまは適度に狩りをしているから、俺たちのところに来れば楽にレベルアップできるよ? うちは、レアなアイテムもしょっちゅうゲットするから稼げるし、いまのお連れさんといるよりもお得だと思うなぁ」

「そうだよ! うちのリーダー、もう上位職の聖剣士だし、すげーやさしいし、俺たちみんな楽しくやってるからさ、こっちおいでよぉ!」


 高石がひと息つくと、間髪いれずチャラ盗賊がつなぎ、

 また高石のターン。



 0019 悪の水戸黄門による勧誘



「……それと、一番大切なのはダンジョンから無事生きて帰ることですよね? お連れの人との二人パーティーよりも、ボクらと六人パーティーを組んだ方が生存率もグンと上がりますよ」

「ホントそうだよ莉菜ちゃん! 命あっての冒険者ライフだよ~! 痛み耐性とかあっても死ぬのってキッツいよね~!」

「運が悪くなければ蘇生もできます。だとしても、やっぱりダンジョンで命を落とすのは辛いですよね。ボクらと来れば、莉菜ちゃんにはそんな悲しい思いはさせませんよ」


 高石たちは、まるで役者やテレビショッピングのようにスラスラと喋る。


 ただ、


(うさんくさい……)

『同意でやんすッ!』

(それによー、なんで俺といると死んじまう前提なんだよ……)

『やっぱりレベルはもちろん、見た目もだいじなんでやんすかねえ……』

(うッ……オマエ……北斎ジャンパーかっこいいって……)

『そりゃあ最高でやんすけど、冒険者として見れば……』

(ぐうッ……)


 十桜が助手の言葉に傷ついていると、やっと莉菜のターンが来た。

 

「あの、誘っていただいてありがたいです。でも……私は……」


 相手の押せ押せの圧に、莉菜は困惑しているようだった。

 その間に巨漢が割って入ってきた。


「ちょっと待てお前らァッ!! 莉菜ちゃんが困ってるだろォ! あんまりしつこくするなァーッ!!」

「……重田さん、彼女がパーティーにはいったらいいなって言ってたじゃないですか?」


 腰巾着その2(十桜命名)の僧侶がぬるっと入ってきた。


「それはッ! ちがうッ!! 五年後ぐらいに急に冒険したくなってタレント業を円満退職して本当にダンジョンを冒険する冒険者になったとしたらって言ったんだァッ!! だが、そんなことはいい!」


 巨漢は、腰巾着に弁解すると莉菜に顔を向けた。


「……莉菜ちゃん、なんで、いま現在に冒険者なんか……あの、体調不良で入院してるって公式発表は……やっぱり……ネットの失踪したって噂が本当だったんですか? ……でも、なんでッ!?」

「ごめん、なさい……」


 莉菜は、憤る巨漢に謝るとうつむいてしまった。

 そのちいさくなる姿の横に、十桜は立っていた。


「彼女が体調不良ってのは本当だ。そこから回復していまこうしている」

「あなたは……ギルドの職員さんですか?」重田が困惑した顔をしている。十桜、必殺の【北斎拠点ジャンパー】を見てのことだろう。

「えっ? ……あぁ~いや、違います。俺はただの冒険者です。北斎拠点ジャンこれパーはもらったものです」

「じゃあ……あなたは……誰なんですか!? 莉菜ちゃんのなんなんですかァッ!?」


 重田は十桜の肩に掴みかかって揺すった。

 首を締めかねない勢いだった。

 十桜は、がくんがくんなりながら、


「ちょ、待て! せつめいすッ……!」


 となんとか声を出すが、止まらず、


 莉菜の、「やめてくださいッ!」で腕が止まった。


 巨漢は「あぁ……すみません……!」と頭をさげる。

 彼のパーティーメンバーからは笑いがもれていた。

 十桜は、ため息をつくとまた話しはじめた。


「俺は、日向さんの友達の兄です。三日月といいます。よろしくお願いします」


 本当は、たまたまだが、

 命を救った、救われたの関係で、

 一緒にご飯を食べた間柄で、

 お風呂をアレしてしまって、

 夜、なでなでしてやりながら添い寝をして、

 朝、着替えをアレしてしまった関係だったし、

 先輩後輩を絡ませるとややこしく、話すと長いので、


「莉菜の友達の兄」だと説明した。


『わかります』助手はうんうんうなずいていた。


 しかし、嘘は(そんなには)ついていなかった。


 莉菜とそらは、

 きのうの夕食後もきょうの朝食後も一緒に皿洗いをしていた。

 台所からは、きゃっきゃっうふふと穏やかな笑い声が聞こえていたのだ。

 これはもう、友達と呼べた(十桜の中では)。


「あ、そうでしたか! これは失礼しました! ご友人のお兄さん!」


 巨漢がかしこまり、これでもかと頭をさげると、チャラい声が割ってきた。


「ちょっとぉ~重田く~ん、莉菜ちゃんうちに来るんだよ~もっと楽にいこ~よ~!」

「まあ、莉菜ちゃんも決めかねてるようだし、俺から提案があるんですけど」


 チャラ男に高石が重ねる。


「莉菜ちゃん、うちのパーティーに、お試しで、気軽に遊びに来るってどうですか? 莉菜ちゃんが欲しい素材、アイテムを一緒に協力して採りにいきましょう」


 さわやかに、気兼ねなく、敷居低く。こういうのが高石のやり口なのだろう。


 それに対して莉菜は、


「いえ、私は、目標があるので、お断りします」


 とハッキリといった。


 しかし、


 「目標があるってステキですね。俺も目標があるんですよ。よかったら、莉菜ちゃんの目標を聞かせてくれませんか?」


 高石はくらいつく。

 穏やかに、あくまでも友好的に。


『こいつ! ひつこいでやんすねェ!』

(ああ)


 助手はぷりぷりしていて、十桜は、(話なげーなー……)と飽きていた。それでも、莉菜の声には耳をすませていた。


「私の目標は……」

「目標は?」

「……秘密です!」

「ああ~、そうですよね~、秘密にしたほうがいい人もいるよね。じゃあ、俺は公表してるから言っちゃおうかな、俺の目標はね、みんなと楽しくやりながら、最強の冒険者になることなんだ。そこで、そのお連れのお兄さんって、強いんですよね? よかったら、俺に腕試しさせてもらえませんか? 俺、目標のために学びたいんです」


 高石は、ずっとやわらかな物腰だ。

 なのだが、


『こやつ、臭えっす、臭えっす、曲者っすよ旦那ぁ!』


 十桜の番犬が吠える。いや、猫か。


(ああ、視えてる)


 ヤツが語りモードに入っている間に、青白い片目はソイツの特徴を視通していた。


 ・

 ・

 ・

『オレって丁寧だよなあ』

『女性が好感を持つ態度と外見だし』

 ・

 ・

『がんばってる女性って素敵ですよ』

『女性大好き!』

『女大好きィ!』

『女・女・女・女・女ァァアア――ッ!!』

『ド畜生ォォッ!! 投資爆死したああァァ――!!』

『金・金・金・金・カネェェエエッ!! なんとしてでも金ェエエエ!!』

 ・

 ・

 ・


「……で、俺がもし勝ったら、あくまで、お試しで、莉菜ちゃんがうちのパーティーに遊びにくるってのでやりませんか?」

「そんなのダメです! 私はそんな勝負で決められてもいきません!」

「いやあ、まあそうですよね、ごめんなさい。でも、お兄さんは、勝負はできませんか? 莉菜ちゃんを賭けるとかナシで、それでも、勝負するのは怖いかな?」


 口にしていた「腕試し」が「勝負」に代わっていた。

 高石は、自信満々の笑みを見せて数歩前にでた。がんばれば、十桜とキスができる距離だ。高石は見下ろし、十桜は見上げていた。そこにチャラ男が、


「あぁ~この人は無理だよ~高石くん! バイクのメットにギルド職員アウターにスウェットにスコップって~! 本格作業員じゃ~ん! でぇ、でぇ~、まさかのレベル1はないわぁ~! いくらなんでも~! 逆によくココまでレベル上がらずに来たよね~! 高石くんレベル25の上位職聖剣士だよ? ムリムリィ~!」


『チャラ男うぜ~わ~!』助手はキャラを忘れていた。


 ずっと黙っていた十桜は、ポーカーフェイスで口を挟んだ。


「俺はさ、彼女が自由にどのパーティーにいってもいいと思っているし、こういうことを他人がどうこう言うことでもないって考えている」

「先輩……あたしはッ……!」

「おぉ~、莉菜ちゃんのお兄さんのお墨付きいただきましたァ~!」   


 チャラ男が、二人の間柄を誤解しながらはしゃぐ。

 だが、

 十桜は意にかいさず、


「ただ――」更新される高石の情報を……

 ・

 ・

 ・

『野郎は俺のお馬さん』

『女は俺のアクセサリー』

『つかえねーヤツはポイッと捨てる』


 その眼で視切っていた。


「――お前にだけには渡さない」

「……せんぱいっ!」


 莉菜は泣き出しそうな顔になった。


「それって、勝負初めってことだよね?」


 高石は腰の剣に手をかけていた。






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