0006 名無しさん
サンライズ・スキルとは、
冒険者クラスに準拠する、剣技や魔法などの通常スキルよりも強力な特殊スキルのことだ。
これは、発現した個人個人で、そのスキルの性格が異なり、多様な能力を持つとされていて、希少性もあった。
これを持つものは、冒険者の千人に一人といわれている。
千人に一人の冒険者。
それが三日月十桜だった。
青白くひかる眼は、黒い兜を睨んだ。
ダークナイトは駆けてきた。
女冒険者をドサッと手放して。
ソイツのS字にくねる飾り片手剣、嘆きの剣が十桜の喉元に伸びる。
その動きは、青白い眼にはカタツムリのようにのろく映る。
次々に繰り出される剣をかわし続ける。
しかし、十桜の動きもまた、カタツムリのまま。
ギリギリなのだ。
コイツより、先の【戦斧の男】の方が速い。
しかし、ソイツはレア・アイテム装備で超速く動くことで倒せた。
いまはそれがない。
刃が近づいてきてから避けたのでは遅い。
剣が己に向かうその瞬間、直感で避ける方向を決める。
黒い刃をスレスレでかわす。
ヤツの瞳から驚愕する気配が伝わる。
切り返しもかわす。
驚愕の瞳は、徐々に険しくなっていく。
剣の速さもわずかに上がる。
それが繰り返される。
数秒間の死線。
十桜は、その動きは、徐々になめらかになっていった。
怒気に任せた剣を避ける。
避ける。
避ける。
すると、
「――さまァ! 雑魚がなんで――ッ!?」
ソイツの声が、空を切る剣の音とともに聞こえるようになった。
十桜は意図して壺の効果範囲、半径五メートルから離れていた。
ソイツに聞きたいことがあったからだ。
だが、声をかけようとしたタイミングで、
「オマエは壁の中だァァ――ッ!!」
叫びとともに、四方に半透明な壁が現れた。
かと思えば、それは、くっきりと本物のダンジョンの壁のようになって、十桜を取り囲んだのだ。
次の瞬間、
正面から、壁を透き通るようにナイフが飛んできた。
ソレを左にステップしてかわし、同時に幻術の囲いから抜けだした。
かと思えば、囲いは消え、また、周囲に壁が現れたのだ。
今度は、本物の壁を背中に背負った状態だ。
十桜はひとまずしゃがむと、頭上、左右を一本、二本とナイフが飛んだ。
あっちからは、十桜の姿は見えていないらしいが、こっちからは、ダークナイトがナイフを上方に投げた姿が視えていた。
ナイフは天井の壁に当たり、十桜のもとに落ちて来た。
ソレを避けた刹那、頭上にダークナイト出現したのだ。
なにもない宙空に、まるで、瞬間移動したかのように。
いや、ソレは空中に浮かぶ幻で、実態は、十桜の右側から踏み込んで、横薙ぎの斬撃を放ってきていた。
その時、十桜はすでに、左側に跳んでニセの壁から抜け出し、距離を取っていた。
青白い眼は嘘を視透していた。
幻術の壁の向こうで、ダークナイトが怒声をあげる。
「逃げんじゃね――ッ! ナマゴ――」
しかし、声はそこで途切れた。
ボガァァ――――という爆発音にかき消されたからだ。
しゃがんでナイフを避けたとき、さっき拾っておいたトラップアイテムを二つ設置しておいた。
その一つを、ダークナイトが踏んづけたので爆発が起こったのだ。
床に伏せていた十桜は、すぐさま立ちあがって、息を整えながらつぶやいた。
「だから罠は危ないってあれほど……」
「テメエがなんでッ!?」ダークナイトは幻術を解き、炎と黒煙のなかから出てきた。
しかし、ヤツはたいしたダメージを受けていない。
コイツは、レベル7、8程度の前衛職が、ギリギリ戦闘不能にならない程度の爆炎魔法を仕掛けていたのだ。
冒険者がニセ壁の罠にかかる。
音はなくとも爆発の閃光で確認。
回復しているところをコイツが襲う。
十桜はそんな想像をした。
「オレの罠を――ッ!?」
信じられない!
という声を出したヤツは、なぜ、低レベルのはずの十桜が、トラップの解除方法を知っているのかが疑問なのだろう。
「趣味なんだよ。ダンジョンが。生まれたときから」
親切に答えてあげた。
ダークナイトは飲み込めない、という目をしていた。
十桜もここぞとばかりに訊いてみた。
「あのさ、訊きたいんだけど、あんたネットに俺のこと書いたでしょう?」
その問いに、男は、
「……ッせぇ黙れッ! ド底辺は餌なんだよォォオ――――ッ!! テメエみてえな役立ずのゴミは犬の餌が世のためだろがァァ――――!!」
と怒声で返し、突進してきた。
十桜は袈裟斬りを避けながら返事を口にしていた。
「サンキュー名無しさん」
「ッゥ――――ッ! 貴様はミンチだァ――――ッ!! 挽きニケェェェ――――――ッ!!」
ソイツの剣の握り手は、腰の右側にあった。
同時に、ソイツの左肘は広がりかけている。
激情した男の次の手は、突きだろう。切っ先をどこへ運ぶかは目線でわかる。
喉だ。
喉への突きだ。
十桜の腰と首はすでに動いていて、移動させた首スレスレに剣先が通過した。
刹那、男の、つま先立ちする右の足元に光が生えた。
瞬間、ソイツの足を引っ掛けた。
その先も視えていた。
それは、いま足元に出たものや、魔犬のときの黄色い光ではなく、赤い光の線だ。
戦斧の魔物に止(トド)めを刺したときのと同じソレだった。
男はお辞儀している状態で、首とそこを守るアーマーの襟部分との間に僅かな隙間が視えていた。
ブレイクスルーポイントを赤い線が誘導していたのだ。
『ここにスッとスコップを差し込め』
そういう事だ。
前のめりに倒れかかっている男の、ソコに――
スコップを――
手放して――
むしり取った半キャップのヘルメットを――
ボコンッとかました。
男は、顔からグシャリと石畳に倒れ込んみ、それからまったく動かなくなった。
「ハァハァ、勝手に転んで……脳震盪だなあ、ハァハァハァ……うちの、猫のほうが、強かった……ハァハァ――」そういうことにした。
実際、男のステータスには『強烈な気絶』と表記されていた。
それと、新しく『スウエット恐怖症』も追加された。
それは置いといて、赤い光が指し示した通りスコップを使えば、確実にクリティカルが出ていただろう。
それは『死』を意味する。
レベル差など関係ない、生きとし生けるものにうまれる命の『隙間』なのだ。
その隙間に、死は吹き込まれる。
しかし、十桜はスコップを使わなかった。
こんなヤツに殺されるのもゴメンなら、また、殺すのもゴメンだった。
「はぁはぁはぁ~~はぁはぁ、ハァ~~~……――いや、マジでさぁ……ハァ~、マジかよさぁ……」
男から数メートル離れた所で座り込んだ。息を乱し、顔中体中汗だくだった。
(なんだよこれ……なんなんだよコレ……)
二回連続で《半殺しになろうよ計画》が失敗した。
「ハアァァァ~~~~~……」深い溜め息が漏れる。
それには二つの意味があった。
一つは、計画の失敗。
もう一つは、袋小路の端っこでうずくまる女冒険者の存在。
《救援の狼煙》を使って助けを呼べばいいのだが、なんとなくソレができない。
彼女は、こんなところに一人でいるのだ。
いや、そこで伸びている男と痴話喧嘩でもしたのかもしれない。
(それは絶対ないだろうけど……)何にしてもわけありなのだろう。
(もしかしたら……)このまま救援を呼んでしまえば、彼女の事情を知ることなく別れることになるだろう。
聞きたいこともきけない。
十桜は彼女を一旦回復させて、すこし話を聞いてから救援を呼ぶことにした。
0006 名無しさん
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