8-18 潜行

「戻りやした」


あたいがテリーの機体をカチャカチャやってると、ダンが戻ってきた。


「お帰りー。どうだった?」


「へい。許可は出ました。しかし、条件が」


「そらしゃーない。舐めて掛かったこっちが悪い。で、条件って?」


「3対1のハンデ戦でさ。舞台は水中戦」


「マジか」


「1週間後まで待ってやるから準備しとけとのお達しでさ」


1週間……ちょっとキツイか?

目の前の機体自体は問題無いのだが。


「ダンさんや。水中戦用のパーツって余ってない?」


「パーツとなると業者との交渉ですな。しかし難しいでしょうな」


「と言うと?」


「ここら一体はゴーンファミリーの縄張りでして、ファミリーが鉄錆団には売るなと業者全部に指示を出しとるんです」


ゴーンファミリーはこの海洋都市レヴィアを仕切ってるマフィアであり、反中央政府組織でもある。

テリーがやらかしさえしなきゃ交渉は滞りなくいってたのだが。


「参ったな……マフィア相手に1からじゃなくマイナススタート……テリーが無事なのが不思議なくらいだ」


「ですな。本来なら簀巻にされて海に沈められててもおかしくありやせん」


だよなー。


「呼んだか?」


機体の影からひょっこり顔を出すテリー。

殴りてー。


「テメーのせいでリベンジの難易度が跳ね上がったんだよ。ダン、縄張りが何処までかわかる?」


端末の地形データを空中に展開。


「うおっ!……スゲーの持ってますな。と、それより……此処から……此処までですな」


かなり広いな……半径10km圏内は手が出せねえぞ。

グランドロアに頼るか。

端末のセンサー範囲ならざっくりなら20はいけるからな。


「グランドロア、埋まってるパーツの詳細は分かるか?」


『そうですね………おや?センサー範囲ギリですが、この辺りに発見されてない施設がありますね』


この街の西側、地形的に山ん中だな。


「MA工場か?」


『ざっくりなんで何とも。近くまで行ければ詳しく分かるのですが』


ふむ……じっとしててもしょうがない。

行ってみるか。





レヴィア西20km地点


「さて着いたが……どうだ?」


見渡すとほぼグランドキャニオンなんだが。


『この先に入口ありますね。埋まってるんで土を退かせば』


「はいよっと」


この見るからに壁ってとこだな?

適当なとこに術式の力をギュッとしてドカーンと横に割く。

大量の土が左右に分かれ2mほどの高さのドアが現れた。


「搬入口じゃねーのかよ……鍵は……」


どー見ても錆びまくってるドアノブを掴むとボロッと崩れ落ちた。


「…………蹴るか」


どーんと蹴飛ばすとドアは簡単に崩れさった。

さて、中はどんなんかな〜?


『あ。今入ったら死にますよ。酸欠で』


ですよねー。

こりゃ土全部どかして施設を剥き出しにしないとダメだな。


「………やるかぁ!」




1時間後



「施設どんだけ広いんだよ!」


『兵器開発工場みたいですからね。スキャンで地下はもっと広いですよ』


いくら土石術式でも限度があるわ!


「やべーな……このペースだと1週間後に掘り起こす事になりそうだ」


『中には入れるんでパイロットスーツがあれば入れそうですけどね』


ん?


「それだ!一式予備を端末に……あった!」


メットも入れてたから……酸素残量は……新品同然!


『念の為に入れてたんすね』


「4着買っといて正解だったな。んで……」


い、入口付近なら大丈夫……だよな?


『付近に誰もいないから気にしなきゃいいのに』


気にするわ。

ともかく、サッとお着替え。

メット被ってライト片手に中へゴー!

ふむ……どうやら裏口みたいだな。

半分崩れてるが守衛室が右手に。

念の為に天井固めながら行くか。

このフロアは完全に崩れてるが、エントランスだから無視。


「研究室は地下だよな?」


『格納庫もですね。件のノヴァから隠すのに全部地下でやってたみたいです。スキャンの結果この施設は元から岩山に偽装してたみたいですし』


それが長い年月でエントランス部分が本当に崩落して岩山になったんだな。


「下は無事か?」


『スキャン上は。ただ、年月が年月なんで一部は術式で退かさないとすんなり通れませんし、電源も切れてるんで下まではロープアクションっすね』


「非常階段は?」


『20m以上のフリーホールを紐無しバンジーしたいなら』


そら無理だな。

宇宙だったらパイロットスーツに付いてる姿勢制御用のエアーが使えるんだが。

ともかく、エレベーターシャフトへ向い、ワイヤー引っ掴んでスィーッと降りていく。

もち、ワイヤーに飛び移るなんて危険はしたくないので術式で足場作ったよ。

術式便利!

他の属性だったら詰んでたぞ。

と、最下層に着いた……手と腕が痛ってぇ。


「もー腕力と握力無いぞー降りたくないぞー」


『なんだかんだで100mは降りましたしね。でも、ここからが問題』


「だな」


エレベーターのドアを開ければ、研究室と格納庫のフロアだが、何がどんだけ残ってるのか。





2日後




ちょっと手間取ったがなんとか帰ってこれたんだが、丁度ダンさんが顔を出してたとこたったみたいだ。


「姐さん帰ってるかい?」


「ダンのおやっさんかい。ケイトはまだだな」


「そうか。3日後には試合だ。間に合うのかねえ?」


「今日戻ってきたらギリ間に合うが……最悪このまま水中戦だぁ……トホホ」


廃工場の壁をノックと。


「おーい、帰ったぞー」


「ケイト!……間に合ったー!」


「姐さん、お帰りなさい。結構な時間、かかりやしたね?」


「まー色々とな?とりま時間がもったいない。さっさと始めよう」


端末から戦利品をドサッと。


「うおっ!?姐さん、この大量の物資は一体……」


「この機体用の追加パーツ。接続部分の改良に手間取ったから時間かかった」


あの施設、500年経ってたとは思えないくらい地下の設備と資材は生きてた。

と言っても、半分は錆びてたが。

そんで、使えるもんをグランドロアと相談し術式利用で設計図通りにパーツを作ってた。

それだけじゃねーが、物質を量子化してデータにして収納出来る端末の容量が最大MA3機分もあったのを初めて知ったから、色々やってたんだ。


「いやー、製造工場じゃ無かったが兵器開発工場だったのが良かったぜ」


「そんなもんがあったんで?」


「そっそ。掘りかえしゃあまだまだ使えるからな、ファミリーとの交渉にも使えるな」


「むしろ大枚はたいてでも欲しがるでしょうな」


だろうねー。

とりまとっとと水中用にパーツ付けるとするかね。


「コレはなんだ?人1人乗れるコクピット?」


「あー、そりゃあ海底探査用の小型ポットだ。もち、それだけじゃなくサブシートも兼ねてるから、索敵や地形データ収集も出来るからテリーがそっちに乗るんも有りだな」


「何処に付けるんだ?」


「脚部のハードポイントにサブアーム兼バラスト付けて戦闘時には背面腰部へ、探査時には前面に移動したり出来るようにする」


「こっちのでかい2つの盾は?」


「肩と接続して盾兼大型の推進機として使う。場所次第だが推進機の付替えで宇宙でも使える。武装として中型魚雷と対艦用大型魚雷を装備してる。もちろん、通常のミサイルにもできる」


「スゲー!」


「後……左肩後方に付けてるが、大型水中銃もあるから…なんとかなんだろ」


これ等が無くなるとマシンガンとビームサーベルだけになるからヤベーんだが。

ま、大丈夫だろ。



3日後出場者控室



改造の終わった機体を搬入し、案内された控室で待ってると外からアナウンスが。


『只今より〜!レヴィア自警団対鉄錆団リベンジマッチを〜!開!催!します!!』


……なぁーんでお祭り騒ぎになってんですかねえ?

てか、自警団って……縄張り見て回ってるワンちゃんの間違いじゃねぇの?


『なお本日は、前回赤ちゃんレベルのテクニックを見せてくれた鉄錆団側からの要求という事でぇ、超ハンデ戦となっております』


「良かったな、赤ちゃんレベルはあるらしいぞ?」


「そりゃねぇよ姐さ〜ん」


この3日でテリーまで姐さんって呼ぶようになった……何故だ。


『会場は前回と違い水中ステージ!一部崖の上は陸地ですが、9割は水中。そして!自警団からは3機!それも自警団のトップスリー!対する鉄錆団は1機!パイロットは変更されてますが。現在オッズは1.15対30.5となっております』


わお、すんげー倍率。


「ダンさんや、自分に賭ける事できるよな?」


「そりゃあ、まあ」


「じゃ、テリー!有り金全部賭けといて」


「嫌だよ!」


チキンめ。

しゃーない。


「ダンさん電子マネーでもいける?」


「ファミリーが運営してやすからね。えっと…この端末から賭けれます」


ほうほう、壁に設置されたやつね。

ポンポンポン……と。


「しょ、正気ですかい!?」


「ダンさんも賭けときな?もし負けてもあたいが返してやっからさ」


「む……ええい!ままよ!!」


お?割りといったねー。

ま、3000万賭けたあたい程じゃねーが。

あ、これ、所長から機体が壊れてた時の資金で用意された3000万だから痛くもなんともない。

0か9億か。

ファミリーに吠え面かかせるのが楽しみだ。


『あ。今、所長さんから問い合わせが……』


「無視無視!さ、乗り込めー」


まー勝ちゃいいんだ勝ちゃあ。

さて、GROUNDフォーマットもインストールしてるし行ってみるか。

こっちは崖の上からのスタートなのはオマケみたいなもんだな。


『それでは!!試合!開始!!』


って、相手の姿が見えねえ………水中スタートか!?


『対地ミサイル、来ます!』


海中から4発のミサイルが飛び出してきた。

こんなんに当たりゃしねーが、撃たれっぱなしになんのも癪だしな。


「いいぜ〜そのお誘い乗ってやんよ!」


ブースターで上空へ飛ぶと再び海中からミサイルが。


「来たっ!そこっ!!」


ミサイルが飛び出た場所めがけ左手の水中銃を上空から撃つと、会場のモニターの相手チーム数が1つ消えた………。

え?マジで?

今の直撃したの!?

呆気にとられはしたがミサイルの誘導は生きてるからな。

右手のビームマシンガンを使って迎撃。

水中に入ったら使えないから今の内に撃ちまくれー。


『鉄錆団、ミサイルを迎撃ー!……全部落とすのかよ。そのままダーイブ!ステージが水中へと移行!』


さてさて……うわー透明度ひっく。

やっぱ、人が住んでんだし環境がどうとか言ってらんねーんだろうな。


「環境がどうとか言うのはもっと先なんだろうなぁ……さて、後の2機は何処だ?」


昼前だと言うのに、海底に行くほど暗くなっていく海中を、あたいは進んでいくのだった。


————————————————————

オマケ


その頃の鉄錆団

団長「ケイト女史、機体のこの部分について聞きたいのだが」


ケイト姉「ほいほい……あー、此処は腰アーマーの内部シャフトにワイヤー巻いてこっちに流すんだな」


団「なるほど。巻く方向が逆だったのか。道理だな」


姉「本来なら妹が得意だから違ってたらスマン」


トニー「そんな事無いっすよ!自分の見立てでも間違いないっす!」


団「ふむ……以前以上にマッシブアーマーについて詳しくなったトニーがそう言うのなら間違いないな」


所長「なんじゃこら〜!?」


団「どうした?」


所「これやこれ!なんやこれ!」


姉「3000万の支払い?支払い先は……闘技場運営委員会?」


団「ゴーンファミリーの子会社だな。レヴィアはファミリーが仕切っていて、開けた土地ゆえにマッシブアーマーを使った闘技場を運営している。ふむ……賭け金か」


所「しかも賭けん対象はケイト・アーカイブになっとる!自分で自分に賭けたんか!?3000万も!!」


姉「……あー……それぐらい普通だな」


所「普通ちゃうわ!」


団「いや普通だ。自分に自信があるならな」


ト「姐さん達強いっすから」


所「そう言う問題ちゃうてぇ……」


姉「まあまあ。アイツの事だ。多分10億ぐらいになって帰ってくるって」


所「それはそれで怖いわ!!」



※(ちゃーらーらーらっらーちゃーららっらーらー)光刺さぬ海底で、己が存在意義を示すケイトは、有り得ぬ存在と有り得ぬ出会いを果たす。

それは多次元宇宙の証明か。

それとも神の気まぐれか。

次回「Mr.E」

天使は完全なる兵士と邂逅する。

(ちゃんらーちゃん!)


稚拙な作品をお読み下さり有難う御座います&80000PV突破感謝なのだ!

少しでも笑ってもらえたら大変嬉しいのだ!

そしてより多くの方に読んで頂けるように☆とかツッコミとか下さるともっと嬉しいのだ!!

本編よりオマケと予告5分で書き終わるってどうなん?

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