6-6 切り札
「オーナーに連絡は?」
照明が消され、数十名のオペレーターが操作する各モニターやコンソールの光だけが浮かぶフィール工房コントロールルームに、ケイト達を案内し終えたペギーが入ってくる。
「オーナー代理。既に」
ペギーのこの工房での肩書はオーナー代理。
オーナーであるカリンが不在の時、工房の運営を一手に引き受けている。
「状況は?」
「現在、対象はアルファ宙域から一定の速度でこちらへ向かって進行中。約4時間後に工房に衝突すると予測されます」
「対象の大きさは?」
「約15km程です!」
「ほぼ小惑星じゃないの……回避は……無理ね」
フィール工房は、元々スペースデブリの中で浮かんでいたデブリの1つ(デブリと言うには大き過ぎるが)を利用し、居住可能な拠点として売りに出されていた所謂、宇宙空間における無人島であり、購入後に軍と共に移動できる様に改造が施されている。
しかし、稼働にはいくつかの問題があり、その最たるがエンジン点火時の加速である。
工房や同じ様なコロニー群(便宜上コロニーとする)その物は軍の移動にもついて行けるのだが、その時にかかるGは無視できず、前もって固定化などの準備を行い、ゆっくりと加速しなければ設置してある重力発生器ですら打ち消せないGによって地獄と化す。
「仕方ないわね……迎撃準備!ミサイルで砕く!対艦隊用ミサイル準備!」
「了解!対艦隊用ミサイル、セーフティ5番、10番、15番、20番順次開放!照準合わせ!発射可能まで5分!」
「装填が終わり次第発射準備!念の為に直ぐ撃てる様に!」
フィール工房に備えられている対艦隊用ミサイルは、1発1発がエンハンブレ級の戦艦(全長約1km)の艦隊を1発で壊滅しうる威力を持っており、フィール工房において虎の子とも言える切り札である。
ただの服飾工場であるフィール工房にしては過剰とも言える兵装なのだが、オーナーであるカリンが「対艦隊レベル。海賊対策。念の為?」と殺意マシマシで何処かから揃えて持ってきた。
「必要ないと思ってたけど……流石伝説の英雄だわ」
「オーナー代理!準備、整いました!」
「うむ……対艦隊用ミサイル発射!」
「了解!対艦隊用ミサイル発射!」
工房内に振動音が響く。
同時に前面の巨大モニターにミサイルを示す点が表れ、対象に向かって突き進んでいく。
「発射完了……次弾装填!……装填完了!何時でも撃てます!!」
工房内に振動音が響き終わると、オペレーターが発射完了と次弾装填完了を告げた。
「着弾まで約5分です」
「うむ……各員着弾までブレイクタイムよ。工房内の様子は?」
「特に騒ぎも起きていません」
「なら……そうね、棚卸しを理由に今居られるお客様をお帰しして。1時間以内にね?念の為にね。この後来られた方にも同じく。」
「了解。お客様対応に代理から連絡。商談が終わり次第、棚卸しを理由に1時間以内にお帰しする事。この後来られた方も同理由でお帰しする事。繰り返す。商談が終わり次第……」
5分後
「代理、着弾まで1分を切りました」
「よし……効果があれば良いが……」
ペギーはこの5分、正確には1分前から内心焦っていた。
(対艦隊用ミサイルとは言え隕石に対し効果があるのか?3時間もあるのだから拠点を捨てて避難した方が良かったのでは?近場の艦艇や客に協力を仰いだら?)
様々な考えが脳内に渦巻き、考えれば考えるほど自身の判断が間違っているのではないかと思い始め、いや大丈夫だ、間違ってない、後3時間もあるのだからと持ち直し、再びやはりと落ち込み始め、また持ち直す。
その繰り返しだった。
だが、それはもうすぐ終わる。
「着弾まで5秒!3…2…1…着弾!」
ミサイルを示す点と隕石とが重なる。
「対艦隊用ミサイル着弾確認」
「効果は!?」
「計測中……………出ました!対象の体積3%減!!速度変わらず!!進路も変わってません!!」
「なっ!?」
ペギーは数値を聞き驚愕する。
工房が保有する対艦隊用ミサイルの総数は20発。その1発が削ったのが3%、速度に至っては減ってもいない……例え保有する対艦隊用ミサイルを全弾放ったとしても、60%しか隕石を削れない。
進路は変えられるかもしれないが、残りの40%部分が阻止限界点を越えるかもしれない。
特に速度が問題で、速度が少しでも減っていたのなら手は打てるが、現状どこまで減速できるか未知数。
だが。
「急ぎありったけの対艦隊用ミサイルを発射!少しでも削る!同時に槍騎士隊全機発進!隕石に対しサイドから挟み込んで分断を仕掛ける!最大望遠で対象の詳細を!」
「「「了解!!」」」
「槍騎士隊全機発進準備!」
「カタパルト全開放、システムオールグリーン」
「対艦隊用ミサイル順次発射、槍騎士隊は対艦隊用ミサイル発射後、ミサイルに追従してください」
『ちょっと待って』
オペレーター達が次々と指示を伝える中、オーナーであるカリンからストップが入る。
「オーナー!?」
前面の巨大モニターにデカデカとカリンが映し出された。
『今、起動中。1時間待って』
「起動中…ですか?」
『そ。だから待つ。後……』
モニターに映るカリンが横にずれ、カリンが作成した対隕石用のシュミレートが表示される。
「こ、これは……!」
『理論値ならできる』
「いえ……!でも……」
『隕石を砕くのは旗艦クラスか本隊が必要。でも逸らすなら?』
「た、確かに……」
確かに砕くのではなく逸らすなら可能だろう。
だが、その為には隕石の側面に対し、ピンポイントで的確に膨大な質量の攻撃をしなければならず、なおかつ、
「可能…でしょうか?」
『ミサイルだけなら不可能。全弾使っても足りない。後ろ半分減速してもごっつんこ』
元々、工房は戦艦では無い。ただの小惑星だ。
が、MA(だけでは無いが)製造工場である為、そこかしこに
採算度外視で投入すれば、そこらの軍隊程度は余裕で蹴散らせる。
しかし、隕石用…対艦隊用ミサイルはそれこそ物が違う。
1発辺り約40億は下らないお値段に見合うだけの威力が有り、着弾すれば地上であれば1つの国を丸ごと吹き飛ばせる威力がある。
ソレを既に1発を放ち、全弾放ったとしても計算上60%しか隕石を削れないと結論付けられている。
『残り19発。りーむー?』
「何故そこで疑問形……!」
『逸らすしかない。てことで……』
『カリンさん!ピフピヘットです!起動完了しましたのです!』
カリンとの通信にピフピヘットが割り込み、巨大モニターにピフピヘットが映し出される。
『ん。ケイトはどう?』
『バカみてぇにでかいデータがまだ終わってねーけど別枠だからな!それ以外は終わってんぜー!!』
更にケイトも映し出され、モニターが3人の顔で埋め尽くされる。
『1時間いらなかた。直ぐに出す』
『おうさ!………………いや作戦は!?てか何が起きてんのか知らねーんだが!?』
大方、オペレーターからの連絡後直ぐ、カリンは2人に説明せず新型に放り込んだのだろう、とペギーは考え、簡単に纏めたレポートをケイトとピフピヘットに送った。
「これでどう!?」
『おん?…………ま、まあ、把握した』
『こっちも把握したのです!』
「では御二人に託します!!」
――――――――――――――――――――
補足
対艦隊用ミサイル
宇宙での戦闘において、ミサイルと言うのは何時の時代、どの文明においても中〜超長距離で別格の破壊力を持つ兵器である。
ケイト達がいるこの時代、特に宇宙を1000年以上旅する軍が保有するミサイル群は、地球のソレとは異なり、戦闘機やMAが使う誘導弾や通常艦艇(エンハンブレクラスまでが通常艦艇として扱われている)が使用する対艦ミサイル(対艦隊用とは違う)までが通常兵装として扱われており、フィール工房が保有する対艦隊用ミサイルは通常戦闘における決戦兵器であり、1発当たるだけで1000m級含む艦隊を(密集しているなら)消し飛ばす威力がある。
それこそ、地球上で使用された場合、音の伝搬の関係上威力が増し、大都市が簡単に吹き飛び、それでいながら環境への被害が少ない(天候不良除く)
この大陸弾道弾も真っ青な対艦隊用ミサイルは本来出回らないはずなのだが、カリンは自身のコネを使い、何処からか購入してきた。
※形状ぐらい先に確認するのだ………
稚拙な作品をお読み下さり有難う御座いますなのだ!
スパ○ボOG観てたら50000PV突破してた!感謝なのだ!
止まらない通知音に震えて眠ってるのだ!
少しでも笑ってもらえたら大変嬉しいのだ!
そしてより多くの方に読んで頂けるように☆とかツッコミとか下さるともっと嬉しいのだ!!
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