1-2 目覚めた全裸幼女

※2話連続投稿ですよ。

コレは2話目なので1話目を先にお読みくださいな。



海賊襲撃数時間前




「………ん……ここは…?」


頭が痛い。

そして体も重い。

ゆっくりと辺りを見回す。

あたいはベッドに寝ているのか?

目の前には薄い緑のガラス?

不思議に思い、そのガラスに手を伸ばそうとした時、光が射し込む。

あまりの眩しさに顔を背ける。

慌てるような声が聞こえるがくぐもってはっきりしない。

その声を聞きながら、あたいは、再び意識を失った。


――――――――――――――――――――

『博士!!検体30005号に反応が!!!』


『騒ぐな。見りゃ分かる』


透明な球体のヘルメット越しにゴワゴワしたオレンジ色の宇宙服に身を包んだメガネの研究員がモニターに映された反応に声を荒げるも、隣で憮然と立つ、同じく宇宙服に身を包んだ「博士」は反応があったカプセルを見つめ「ふむ」と何かを考え出す。


『ハァイ、博士。あら?お取り込み中?』


扉が開き、ボディラインがくっきりと浮かび上がるピッチリとした全身を包む紫色のスーツを着た一人の女性がスーッと宙を飛び、博士に抱きつき、肩越しにモニターを見る。


『パイロットスーツを着てるとはいえ、あまりくっつくな「グロリアス」マリア。一人反応があった。』


『どの子?この子?……う~ん、霜で顔が見えないわね』


『また寝たがな。しかし……』


博士が周囲を見渡すと、夥しい数のカプセルが壁一面に並べられ薄く緑に発光していた。


『そんな薄い「防護服」で破れたらどうする?無重力で空気の無い世界だぞ?』


『バトル用だからよゆーよゆー!てか、未だに旧時代の宇宙服着てんの博士達だけだけど?」


「かーっ!そんな薄っぺらもんが役に立つかってんだ!それに……』


博士は無重力でふわふわ浮かぶマリアの全身をちらっと見る。


『ジジイとひょろもやしのモッコリにどんな需要があるっちゅうんじゃ!?男のパイロットもで十分!』


博士は自身の着ている宇宙服をパンパンと叩く。

オレンジ色のその服は、布地が分厚く固い。それ故、指先も分厚く細かい作業がしにくく多くの作業員には不評だった。

一方、マリアが着ているパイロットスーツは生地その物は薄くボディラインがくっきり出るので女性パイロットを中心に不評だが、指先に滑り止めが付いており、薄い布地の為、細かい作業がやり易く、パイロットよりも作業員に人気の最新スーツだった(ただし値が張る)


『いや、旧式の宇宙服じゃMAの操縦出来ないからね?』


『ハッ!連合の量産機なんぞ……』


『それに乗って来たんですけどね、僕ら……それより、この子だけみたいですね』


研究員がモニターを確認すると、他のカプセルは何れもエラーを吐いていた。

つまり、カプセル内で眠る人々は、ある者は解凍後カプセルが開かず餓死、またある者は冷凍処理がきつすぎそのまま凍死していた。

中にはカプセルが開いている物もあったが、開いた時期が悪かったのか、全裸で真空の世界に放り出され死んでいた。


『………可哀想だが、一人だけでも御の字じゃな。回収するぞ。マリア、ソルジャー持ってこい』


『あいよ』


マリアは来た道を戻りながら無数のカプセルをみる。


『世知辛いねえ………』




――――――――――――――――――――

ヒートヘイズ出現30分前




何処か遠くの方で音が響く。

暗闇の中で何かが抜ける音がし、徐々に体に感覚が戻ってくる。


「……寒っ……てかうるさい……」


固まった体をゆっくりと起こす。

全身バッキバキになってて上手く動かない。


「全身筋肉痛………いや、冷凍痛か?」


ぼんやりとした視界で周りを見渡すと、薄暗い医務室っぽい場所で、ビービーと警報みたいな音とピカピカ赤いランプが点滅を繰り返している。


「ガハッ!」


何か、いや、誰かの噎せた声に驚き辺りを見回すと、あたいが眠っていたカプセルの側に黄色い防護服?を着た誰かが倒れていた。

あたいは恐る恐るカプセルから出てそいつに声をかける。


「お、おい………」


「………くっ……成功……した…良かっ……ガハッ!」


噎せると同時に血を吐くソイツをあたいは仰向けに起こす。


「おい!どうした!何があった!?」


「…………ゴホッゴホッ!……目が……覚めたんだね……ゴホッ!……ハァハァ…き、君は逃げろ………格納、庫に、だっ…出ポットがある……ゴホッゴホッガハッ!……い、生きて……く……」


「おい!寝るな!起きろメガネ!!くそっ!何か、何か無いのかっ!?」


意識を失ったメガネの着ている防護服を確認すると、左腕部に取り付けられた端末見つける。

見た事が無い端末機だけど、幸いにも文字は読め、端末の表示では幸いな事にまだ死んではいない。

だが、それも時間の問題。


「出血が酷い……」


辺りを見回す。

どっからどう見ても医務室だが、よくわからんでかい箱があるだけで、使い方もわからん。

だが。


「他には何か、何かあるはずだ!………これだ!!」




――――――――――――――――――――

「えぇい!海賊共めが!」


格納庫の小さいモニターの前で博士が叫ぶ。

数時間前、唯一反応があった検体を回収し、解凍処置に入った博士達は、この宙域に漂うデブリを集める作業を開始した。


「少しでも研究費の足しにと欲張ったのが運の尽きっちゅう事か……!」


開始から3時間程は良かった。

なかなかレアな部品やら資材、果ては生活雑貨まで幅広く回収できた。

だが更に2時間ほどして………そのデブリの多さを利用され、気がついた時は無数の海賊達に囲まれていた。


「マリア!持ちそうか!?」


『ボケ共の狙いがソッチの艦じゃなかったらとっくに降参してるよ!!』


通信機からマリアが叫ぶ。

1時間もの長時間(大規模な戦争以外では通常長くても30分以内には決着する)におよび未だ戦っていられるのは幾つかの幸運が重なったからだ。

その一つがマリアは何人かの護衛と共にデブリの回収作業を行っていた事だ。

他の護衛も決して弱くはなかったが、その中でもマリアは二つ名を冠する凄腕だった。


「マリアが「グロリアス」でなければもっとらんかったが………こちら4番ドックじゃ!ブリッジ!救援はまだか!?」


博士がブリッジに回線を開くと、肩まで伸びた髪をオールバックにしたガタイの良い30代の男性が写し出された。


『医療ブロックの消化急げ!左舷にもっと弾幕を張れ!!ジジイか!さっき軍に出したが無理だ!こんな小さな船を助ける義理は無いってな!5番隊、2番隊を全面に出せ!残りの弾切れ機体は順番に補給に戻れ!後どんだけ物資あんだよ!』


『残り10%ってとこっス!!』


「ワシの名を出してもか!?」


『10%ってマジか!?……変なモンばっか作る頭のイカれたマッドサイエンティストはどうでもいいってよ!!マリア1人いりゃあ海賊程度は問題ないだろうって事だ!!嬉しくて涙がちょちょ切れそうだぜ!!10%なんて持つか!!総員白兵戦準備!いざとなったら艦に引き込んで直接ぶん殴るぞ!!』


『『『了解サー!!!』』』


「クソがー!!」


博士が叫び壁を叩く。


「軍の無能共め!いくらマリアと言えど量産機ソルジャー1機と旧式ファイター20ちょいで50以上は無理じゃ!せめて、せめてを動かせるパイロットがおれば………!」


相手は旧式ゴブリンとは言え、性能その物はファイターと大した差はなく、戦力で考えるなら数が倍以上の相手に分がある。

2倍近く性能差があるソルジャーが1機しかないこの状況では、状況打破は不可能に近かった。

叫びながら格納庫の奥に目を向ける。

そこにはシートを被せられた機体が鎮座していた。


「おいじじい!!」


博士がその声に振り向くと、そこに居たのは全裸の幼女。

どう見ても10歳ぐらいにしか見えない青い目の彼女は、金に輝くショートカットを靡かせ、威風堂々と腰に手を当て立っていた。


「お、お主は………!」


「御託はいい!!説明しろー!!!」



――――――――――――――――――――

補足


MAの編成

MAは通常3機一纏めで運用される。

軍での編成数は以下の通り。


3機で1個小隊

3個小隊で1個中隊

3個中隊で1個大隊

3個大隊で1個連隊

3個連隊で1個旅団

3個旅団で1個師団

3個師団で1個軍団


また、地上戦に限り各小隊に支援車両を1台配備し、作戦行動を行う。

今回、アドラメルクが指揮していた海賊達の機体数は自身も含め60機であり、2個大隊もの戦力を投入した事になる。

一海賊が輸送船を襲うのに過剰投入であり、マリアがキレるのも当然である。

しかし、マリア達の機体数も27機であり1個大隊を擁している為、輸送船の護衛レベルを遥かに超えていたりするので他人の事は言えなかったりする。

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