頭脳労働

エリー.ファー

頭脳労働

 およそ、嘘に近いもの。

 きっと、水色に似ているもの。

 たぶん、椅子の形をしている何か。

 おそらく、透明のはずのもの。

 いずれ、地球になる何か。



「推測は、一番簡単な問題であり、最も質の高い頭脳が要求されます」

「なるほど」

「未来予知なんて言葉がありますが、まさにそれをやるということです」

「超能力のような感じがしますね」

「そう、超能力と呼ばれるものは、これで片が付きます」

「よく当たる占いなんてのもそうですよね」

「仰る通り」

「ところで、この手錠を外して頂けませんか」

「何故」

「体を上手く動かせません」

「頭脳は自由でしょう」

「いえ、頭脳も自由ではありません」

「身体の自由と頭脳の自由が繋がっているということですか」

「そういうことではなく、もう一つ私を不自由にしている制約がありますよね」

「気の持ちようですよ」

「この首に巻かれた、光っている、この、無機質な音を鳴り響かせている、なんでしたっけ」

「スイス型のSS20です」

「そう、そのスイス型の爆弾ですよね」

「スイスに拠点を構えるテロ組織が開発した爆弾」

「そうテロ組織の爆弾。もう、なんでもいいです。これを外して下さい」

「問題に正解できたら外します。大丈夫です、安心して下さい。約束は守ります」

「約束を守るかどうかではなく、問題に正解できなければ生きて帰れない、この状況を拒否しているんです」

「気持ちは分かりますが。まぁ、問題を解きましょう」

「まぁ、素直に話を聞いてくれるとは思っていませんから。さあ、問題をどうぞ」

「問題は全部で三つです」

「難易度の低い順にお願いします」

「第一問。世界中にある本の一冊あたりの平均ページ数を求めなさい。ただし、これは同じ本が百万部刷られていた場合、同種類のため一冊として考えるのではなくそのページ数の本が百万冊あると考える」

「無理です。不可能です」

「少し考えれば分かるかもしれません」

「あなたは分かるんですか」

「まぁ、なんとなく。冷静に考えて、誰にも調べられない数値だから許容される最小値と最大値が広めに設定されているだろうと推測できる。その上で、異常にページ数の少ない本を大量に読み、異常にページ数の多い本を大量に読んできた人生を送ってきた憶えはないので、自分の読書経験をそのまま活かせるだろうと考えられる。もし、例外があったとしたら聖書かもしれないが、ノイズとしてどう組み込むか」

「二問目をお願いします」

「第二問。あなたが1月1日の午前0時きっかりに日本中の人と友達になった時、そこから1年間、飲み食いもせず、病気にもならず、排せつもせずに、一切寝ないまま本州の最北端から最南端まで歩き続けて、誰にも挨拶をされずに済むのは何日間か求めなさい。ただし、山の中、湖や川の中など一般的に人が住めない場所を歩くことは想定しないものとし、最南端に到達したら、また最北端に向かって歩き続けるものとします」

「どこから手をつければいいのか」

「日本の人口や、地方ごと、町ごと、村ごとの人口については幾らでも質問して頂いて構いません。すべて教えますので。あと、必要であれば地図も」

「教えて欲しいのは、人口密度ですね。えぇと、1分約100m進むと仮定すると」

「あ、考えていますね」

「いや、先に三問目を教えてください」

「第三問。年齢と性別を教えてください」

「それは、その」

「何か」

「推測というか。私はその本人なので、分かって当たり前なんですが」

「あなたの年齢と性別を推測する必要はありますが、回答しなければならないのはあなたではありません」

 あなたですよ。

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