第52話

 この戦役で憲兵隊に摘発された軍内の共産主義者は、宇宙軍「前衛部隊」だけで8235人にも及んだ。時を同じくして、「後衛部隊」や他の艦隊、地上勤務者を含めると、3万人に上る数の共産主義者が反乱罪に問われた。

「アルトナでは出なくて良かった…」

 碧の乗艦・アルトナでは艦長以下の全乗組員がシロと判定された。皇帝の娘として認知されているヴィルヘルミナはともかく、若い碧はかなり疑われた。他の艦でも、比較的若い層が共産主義者として摘発されていたからだ。

「搭乗員からは少なかったらしいけどな」

 先輩のシュナイダーがどこからか聞いてきたところによると、共産主義者は陸戦隊や地上勤務者に多かったらしい。予科練学校でも、これらの職種候補生は生活に対する監視が緩かったのだ。

「搭乗員候補生って、恐ろしいくらい学校内に縛り付けだったんですよ!?」

 碧は監禁生活にも等しい訓練生活を思い返す。決して街に出ることはできず、実家に帰ることを許されたのは2年生の夏のみだった。2年間で1度、4日間だけである。

「そんな厳しいのね」

「俺らは転向組だからかなあ?」

 既に軍人だったこともあり、緩い縛りでカリキュラムをこなした他兵種からの転向組からしたら、予科練学校搭乗員課程の私生活の束縛具合はすごいものだった。

「2年間でアンタぐらい飛べるようにするには仕方ないのかも知れないわねえ」

「いい迷惑ですよ!」

 リーラがしみじみと言うと、碧はとんでもない!と天を仰いだ。

「士官課程が3年間で、ベティちゃんみたいに軍曹待遇で1年早く現場仕事もあるし、予科練学校ってメチャクチャするわよね」

「地球軍は教育がしっかりしているらしいですよね」

「あー、元から素地があるからな」

 地球軍や木星軍では一般兵はともかく、下士官教育には2年かけ、士官教育も高等教育として4年間かけて行われている。

「多分、俺らの軍は詰め込みまくってんだろうな」

 シュナイダーはため息混じりに言う。建軍50年経ってもなお、まだ各部署の人員は不足気味だった。速成教育で人を集めなければならない。

「さて、こないだの攻略戦の詳報だぜ…」

 もう1週間前になる「アルテミスの柱」攻略戦の顛末。


「5個陸戦隊がクリアできました!」

「よし、順次投入しろ!」

 20個陸戦隊の内、シロ判定を受けたのはまだ10隊だった。判定が下る度に投入し、どうにか揚陸艦への逆上陸を阻止していた。

「橋頭保確保地点まで逆襲に成功しました!敵の放送はまだ続いていますが、舞台に動揺がある兆候は見られません!」

 ライプツィヒはこの頃、ようやくパーレン准将との面会を果たしていた。

「申し訳ありません、参謀長…」

「良い、良いのです、准将。あなたは事故に遭ったのだ。それ以上でも以下でもない。時限爆弾を仕掛けられていたのだから、テロとも言える」

 パーレンは意識を取り戻してもなお、指揮が執れる状態ではなかった。参謀の中に共産主義者がいて、軟禁状態にあった。ライプツィヒがそれを突き止め、参謀たちを強制的に排除した。パーレンが輸送部隊の指揮系統を掌握し、混乱を収めてからは一方的な展開だった。

「司令官、これ以上は…」

「ぐぬぬ…」

「司令官、港湾部をなんとか取り戻せ!私を脱出させろ!」

 参謀が降伏を勧め、要塞司令官もそれを認めざるを得ない段階まで来ていることを認識している。要塞付軍事コミッサールのみが、無理な命令を出していた。

 この日、「アルテミスの柱」は陥落し、天王星本星以外の部隊が降伏するか逃亡するかを選んだ。冥王星軍にはそれを追撃できるだけの力は無かったが、天王星宙域には、敗残の艦隊と要塞しか残っていない。

「そこで、後衛部隊と配置換えして俺らは水王星まで帰ってきたわけだな」

「後衛部隊が天王星を攻めるのは10日後ですね」

 超空間ワープ技術があるので、距離はそこまで問題ではない。木星からの妨害は必ず来る。しかし、オリガ・カールスルーエ提督はその状況で名を轟かせた。

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