第13話
「主力部隊の動きは完全に掴まれているな」
静まり返った執務室に、ランブルク中将の声がこだました。
「そのようです」
パーレン少将はもっと早く、シュライヒャー中佐と話していれば…と臍を噛む。今は彼の第2艦隊の内、砲艦を中心とした部隊10隻ばかりが警戒しているに過ぎない。さっさと追撃しないと、どこまでも攻め込まれることになる。
「敵艦隊は非常に広く展開しています」
「むう…!」
コメートにとって、的となる敵艦隊が密集していると弾幕が厚くなって突入しずらいが、逆に艦同士の間隔を広く取られ過ぎると、それはそれでやりづらいことになる、とシミュレーション結果から予測されていた。
「各艦が自由に運動できるほどに距離を取り、各艦の戦闘力を最大限に発揮されると、被弾率はどうしても増大します」
結果的に艦隊を打倒することはできるだろうが、それに対する艦載機戦力の損害も相応であることを覚悟せねばならなくなる。
「加えて、敵が迎撃する側であること。今までこちらが戦域を選び、優位に立って開戦して来たものが敵に主導権を握られました」
積極的に動いて戦域を決める主導権を木星側が握った。広く展開した陣形を最大限に活かせる戦域での開戦を望むだろう。
「ならば、補助艦艇を狙うのは」
「危険でしょう。回廊で挟まれます」
「どうも上手く行かんな」
結局、冥王星方面に侵攻する敵艦隊を叩くことになった。
「さて、あちらに行くか。ナボコフ中将のお手並み拝見だな」
クロパトキン中将は撤退する補助艦艇の艦隊を率いていた。そもそも、召喚命令が出ている彼の立場からすれば、主力艦隊を指揮するのは造反とすら捉えらえかねない。そのため、ナボコフ中将から委託された「補助艦艇の指揮」任務に限って行っている。第8艦隊で唯一残った戦艦である旗艦ウスリーもナボコフに明け渡し、雷撃艇母艦に将旗を掲げている。
「『トロヤ群の魔女』ですか…」
対地球戦線で活躍し、軍功を挙げて来たロリータ・ナボコフ中将。その麾下部隊は小惑星帯、アステロイドベルトの一種、「トロヤ群」で鍛えられ隕石群をもろともしない、一糸乱れぬ艦隊運動が得意なことで知られる。
「私には到底真似できぬ、緻密な運用だ」
クロパトキンは艦隊を急速に接近させての強襲などを得意としている。その戦術は、コメートの航空戦術に相性が悪い。
「さて、行くかね」
クロパトキンは密かに、雷撃艇母艦4隻だけを率いて反転を開始した。
「来たわね?」
ナボコフ中将の戦闘艦艦隊は海王星から6時間ほどの距離にいる。彼女は広く展開した各艦に「G字」運動を取らせ始めた。その名の通り、G字に沿って艦隊を運動させることで、各艦が複雑に絡み合い、密集したり展開したりを繰り返している。彼女の木星軍第5艦隊はそれを、無数の隕石が漂う小惑星帯で行える。
「さて…では帰りましょうか?」
ナボコフは艦隊をして海王星方面、ひいては木星方面を指向させる。元々、こんな少数の艦で攻め込むつもりは毛頭無かった。
「スコベレフ参謀長」
「はっ!プリンツェーサ!」
彼女は殊もあろうに配下の将兵に自身を「お姫様」と呼ばせ、配下たちもそれを肯定していた。それほど、ナボコフの容姿は優れているのである。
「火星圏での戦い方を、彼らに教えて差し上げなさい」
「ラー!」
距離80000。クロパトキン中将らの報告によれば、もう数分もすれば敵新兵器が姿を現す。それに一撃食らわし、急速撤退がナボコフの目論見だった。
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