第14話

「敵戦闘艇、見えました!通常雷撃艇の3倍の速さで接近中!」

 ナボコフ中将の第5艦隊戦闘部隊は冥王星軍のコメートの姿を捉えた。船体の小型化のために低性能エンジンしか使えない雷撃艇からすれば、3倍近い速さで機動できるのだ。

「早いわね。各艦、撃ち方始め。上手くおやりなさいな」

 ナボコフ艦隊の主要戦術は司令部が行う大規模な砲火管制による、全艦の十字砲火である。

≪なんだ!?妙に対空砲火が厚い!≫

≪こっちはそんなことないぜ!行ってやる!≫

「かかっているわね…」

 冥王星軍艦載機隊の陣形が崩れ始めた。ナボコフからすれば、面白い程に術中にはまってくれる。孤立した小隊1機1機に、戦艦部隊が照準を定めた。

「放て」

 何の気なしに短く号令すると、木星艦隊戦艦部隊の各艦から5条の砲弾が放たれ、冥王星軍の艦載機たちに命中、爆発四散した。


「提督、ハーフェンB小隊が消息を絶ちました!」

「全機か!?」

「はい!」

 冥王星軍艦隊司令部にて、この事態は驚きを持って迎えられた。コメートは敵艦隊の砲撃に当たらないことが前提の兵器なのだから。

「ミッテA小隊、隊長機喪失!」

「ノルドからも1機被撃墜の報告です!」

 相次いで入る被害報告。ランブルク中将は航空参謀に意見を求めた。

「想定していたシチュエーションとしては…射線に誘導されたものではないかと…」

 シュライヒャー中佐は驚きを隠せていない。彼女にとって、木星軍を相手取っての本格的な艦隊戦はこれが初めてだ。宇宙海賊程度しか相手にしてこなかった彼女のような冥王星軍人は多い。

「なるほどな…」

 ランブルクは己の不明を恥じた。敵を知り己を知れば…というが、敵司令官の特性を知るという基本的なことを徹底できていなかったのだ。

「諸君、敵は第5艦隊…急な編成替えさえ無ければ、ロリータ・ナボコフ中将の部隊だ。彼女は艦隊運用に熟練している。いくらコメートが捷かろうと、射線に誘導して撃つくらいはやって来るぞ」

 ランブルクと別に経験がある参謀長以外は、木星軍との正面衝突を経験していない。そのことを念頭に置いた指導をしていなかった手落ちだった。

「そ、そうでしたか…つまり、こちらも解散して攻撃すれば」

「いや、シュライヒャー君。今回は陣形をしっかりと組んで、1隻1隻を確実に狙うべきだ」

「参謀長の言う通りだろう」

 参謀たちは未だに浮足立っている。これはいけない。

「パーレン少将に連絡を取る」

 ランブルクは後続のパーレン艦隊を頼ることにした。


≪碧!離れるんじゃねえぞ!これは罠だ!≫

「わ、罠ですか!?」

≪そうよ!逸れたら最後、集中砲火よ!≫

 B小隊から僚機を2機やられたアルトナC小隊は、敵の狙いに勘付いていた。しっかり敵砲火の方向を見極め、弾幕の厚過ぎないところを狙って飛ばなければいけない。

「キツイな…」

 見極めを一身に背負う小隊長のシュナイダーにかかる重圧はかなりのものだった。消耗したらしたで、疲れはミスを招く。

≪…よし、あの護衛艦だ!突入するぞ!≫

 慎重に見極め、それほど弾幕で守れていない護衛艦を見つけた。罠かとも思われるが…

≪そうね、行けるかも!≫

「ど、どう違うんですか!?」

 全く違いの分からない碧である。戦艦を見ろ、と言われて分かった。

「あ、艦首が向いてない…」

 周りの艦首=艦橋が向いてないなら、砲からも警戒が薄いということだ。

「よ、よーし!」

 すごいなあ、と先輩たちへの尊敬を強め、砲火の真っただ中にも付いて行くのであった。

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