第10話

「被害は?」

 見事に殿を務めて集合地点にたどり着き、各部隊から上げられる報告を求めるランブルク中将。通常戦闘艦や補助艦艇はほぼ損害無し。

「艦載機は1割の損害か」

 各宇宙母艦の飛行隊からの報告で、おおよそ14%に当たる10機撃墜の損害だと取りまとめられた。機体や人的損害を考えればほぼ1割の損害と見られていた。

「1個艦隊を玉砕、もう1個艦隊は壊滅寸前まで追い込んだ戦果を考えれば、望外です」

 シュルプ参謀長の言は自分を納得させるかのような台詞だ。つまり、彼もまた、この損害は痛いと考えている。

「もっと大勝利できる、革新的な戦術だと感じていた」

「そうそう、上手くは行かぬのですな…」

「いえ…と言うより、有効な対抗策を早くも発見されたのが、痛いです」

 シュライヒャー中佐。彼女にとって、飛行兵科は無敵ではなくとも、よほどの発想力を備えた名将と呼ばれるような提督が出てこない限り、破られようがないと思っていた。つまりは。

「敵艦隊の司令官がよほどの人物だった可能性もあります」

「第8艦隊。クロパトキン中将か」

 初戦に倒した敵は第3艦隊、その次が第8艦隊であるとは調べがついていた。また、敵増援である新艦隊は第5艦隊とも。

「どの提督も知恵者で有名な、良将です」

「クロパトキン中将…厄介な男が生き残っていたものだ」

 幸先は良いのだが、十分な対抗策を見つけられてしまった。この失点がどう響くか、思い悩みランブルクは瞑目した。


「被害は…?」

「もう!手ひどくやられましたわね?」

 戦闘宙域から少し引き返し、木星軍側でも被害の取りまとめが進んでいた。定数23隻の木星宇宙軍第8艦隊は予備艦などを集めて31隻の大所帯であったが、5隻の戦艦は4隻を喪い、8隻の護衛艦は2隻まで数が減り、海兵隊などを収容した補助艦艇も10隻しか残っていない。

「フフッ…これはもう笑うしか無いな」

「そうでしょうね…」

 目を隠しているクロパトキン中将。声に若干震えが混じっているのを、理解しないナボコフ中将ではない。そっと背中に手を添えた。

「仇は取る…と言って差し上げたいけれど、戦力が足りないようですわね?」

 クロトワ中将があっという間に葬り去られ、クロパトキンも艦隊の半数以上を喪った。クロパトキンの取った戦術は有効であるとナボコフは賛成しているが、それをまともに運用するには、彼らの持つ戦力は過少に過ぎた。

「護衛艦が20隻あれば」

「3個艦隊分に匹敵する数だな」

 持ち直したクロパトキンは冷静に勘定する。通常、1艦隊には6隻程度の護衛艦が付く。3個艦隊が定数であれば…

「クロトワ…クロトワと最初から同道していれば良かったな」

「それではおじ様も死んでいたのではなくて?」

 クロトワ提督の犠牲の上に見つけたコメットへの対応策である。それに、敵はただ本隊が引っ込んでいるだけでもない。

「敵新戦力を知っている木星の提督はおじ様だけよ?なんとか気張ってくださいな?」

「うむ…」

 勢いで進退伺をナボコフに渡そうとまで考えていたクロパトキン。確かにそうだと思いとどまった。自分がやらねば、親友だったクロトワ提督の仇は取れない。

「しっかりしてくださいね?わたくしがしっかり弁護しますから」

「頼む」

 木星国家…ジュピター資源採掘共同体は共産主義が強い国だ。軍官僚はエリートとして新兵時代から大事にされるが、その分、信賞必罰が激しい。一度敗けた提督が再び、艦隊司令官の職に就くのは難しいのだった。

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