第9話
「敵搭載機隊、距離を詰めて来ました!距離3000…もう2000!?」
「追い払え!弾幕を厚くしろ!」
そうは言うが、少ない戦闘艦が砲を存分に活かせるように陣形を組み替えている最中である。対空砲火に参加していた砲艦たちが動いている中では、護衛艦群の対空砲火に隙間はどうしてもできる。
≪そこを突く!≫
「う、うわあ!」
碧はドキドキしながら、先輩たちに続いて銃弾飛び交う中に機体を突っ込ませた。自動回避機能がこれでもかと操縦桿をかき混ぜる。
「そ、そんなに大きく旋回できない!」
無理やりに動きを封じて、できる限り真っ直ぐ飛ぶように操縦桿を押し倒す。先輩たちがやっているように飛ぶのだ。警告音が発される。
≪アオイ!警告音うるさいから切って!≫
「は、はい!」
ビーッビーッ!とコンソールから発され続ける警告音は、通信に乗っていたらしい。大慌てで音量を下げた。
≪言ってる内に、来たわよ!≫
レールガンの射程まで銃撃を掻い潜ってやって来た。他の隊が攻撃を仕掛けているのであろう、爆発が響いて来る。
≪勝手に狙え!落とせよ!≫
「そんな無茶な!?」
シュナイダー小隊長からの無茶な命令を受け、とにかく碧は引き金を引く。レールガンが戦艦をかすめた。
「外したあ!」
≪いえ、当たったわ!左舷よ!≫
右舷と艦橋をかすめた碧機レールガンの一閃は、左舷の主砲部に命中弾となっていた。
≪俺たちの弾も何か当たったか!?≫
≪護衛艦に当たったわ!≫
≪良し、とにかく距離を取る!いや、待て…!≫
シュナイダー機からの通信には緊急通信が入ったことを示す警告音が響いている。
≪…お前ら、撤収だ≫
「え…!?」
≪なに?何があったの?シュナイダー!≫
事情が分からない帰投命令。碧のみならずリーラも反発する。
≪分からん。しかし、提督から直に、各級指揮官に向けて命令が出た。帰るまでが戦争だぞ?≫
その少し前、正に旗艦カウシュホルンの主砲が潰された直後まで、時間は戻る。
「そうか、後詰が」
「は…!」
画像解析班長直々の報告に、ランブルク提督が苦虫を噛み潰したような表情になる。木星軍の援軍が、α回廊の入り口を通過する姿を、監視衛星が捉えたという。
「参謀長、我々の後詰は?」
「はっ、第2艦隊があと1昼夜中には」
「むう…」
ここで木星軍第8艦隊を壊滅まで追い込むことは可能だろう。しかし、それはこちらの艦隊も壊滅まで持って行くことに等しい。
「戦えはするだろうが、荷が勝ちすぎる」
「提督、これでは」
航空参謀シュライヒャー中佐らを筆頭に、皆一様に冷や汗を浮かべている。
「潮時か。我々が無傷で海王星に在れば」
「まず、木星軍は攻め込まぬでしょう」
司令部の意見は満場一致を見た。
「各機、撤収。カウシュホルンが殿を務める。A2156宙域に集合」
「そうか、第5艦隊が間もなくか」
クロパトキン提督の元にも来援の報せは届いていた。
「ごきげんよう、おじ様」
「これはこれは。相変わらずお若いな」
クロパトキンに惑星間通信を送って来たのは木星軍第5艦隊司令官、ロリータ・ナボコフ中将。彼女も中将なら少なくとも50歳は越えているはずだが、それにもかかわらず見かけが若い。この時代はアンチエイジングどころか、脳移植による人格の延命手術が行えるため、若い時に取っておいた遺伝子を用いてクローンを作り、乗り換えているのだとか。もちろん、合法技術だ。
「ご無事で何より。一度、仕切り直しましょう」
「旗艦の艦橋まで追い詰められた。致し方なし…」
応えに満足し、柔和な笑顔を見せるナボコフ提督だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます