第8話
≪チクショウ!堅い!≫
≪いきなり対策万全かよ!≫
全部隊間の通信からは、冥王星軍艦載機隊の苦闘が伝わってくる。碧のアルトナC小隊も、ありとあらゆる対空機銃をかき集めた木星軍第8艦隊の対空砲火を前に、手こずっていた。
≪碧!当たるなよ!次は胴体直撃だぞ!≫
「うわ、わ…!」
コメートはAIでの自動回避機能も搭載している。操縦桿を握っていなくても、大体の回避行動を取ってくれる。だが、その自動回避行動が激しい。
≪あまり、
僚機から必死の呼びかけが続くが、向こうも大変らしい。輪形陣を組んだ木星軍艦隊を前に、初撃以降、艦載機隊は攻撃らしい攻撃ができていない。
「まさに、手をこまねいていると言ったところか」
「提督、艦隊を前に出しましょう」
「ふむ?」
冥王星軍艦隊の参謀長はシュルプ准将。元々は大学で軍事学を教えていたが、4年前にシュトゥットガルト軍事長官が三顧の礼で大佐待遇で迎え入れたという折り紙付きである。
「提督、参謀部が総出で考えていた案があります」
シュライヒャー中佐が説明を始める。艦隊司令部の参謀たちは当然、敵艦隊がハリネズミのように弾幕を濃くすることも念頭に置いていた。では、それにどう対応するか?自明なことが1つある。
「敵は密集しています。では、そこに艦砲射撃したらどうなりますか?」
「む!」
そう、蜂の巣をつついたような騒ぎになるだろう。それも、阿鼻叫喚付きで。
「距離は17000。砲艦の射程はあと2000も詰めれば十分です。提督、ご命令を」
舞台は整っている。ランブルクは決断した。
「良し!
冥王星軍新編艦隊の旗艦「カウシュホルン」。彼女が先陣を切り、戦艦が少ない分、多めに組み込まれた戦闘艦・砲艦8隻を従えて進む。距離はすぐにも縮まる。
「提督!敵艦隊に動きが!」
「何!?」
木星軍艦隊司令部…特にクロパトキンは目の前の敵艦載機隊の相手に全力を注いでいた。それはつまり、主力艦が少なくとも接近すれば砲艦の数が活きる敵艦隊を放置していたということ。
「敵艦隊、距離15000!多数の中型艦が砲を向けています!」
画像解析班からの報告を受け取るオペレーターは半分、泣きわめきながら報告を上げている。まだ若い女性少尉だ。
「アレクセーエヴナ少尉!泣くな!
クロパトキン中将は確信していた。尚武の気風が非常に強いことで知られる冥王星の宇宙軍艦隊なら、指揮官先頭にこだわるだろうと。報告に上がって来た解析画像にも大型艦が先頭にあるように見えた。
「主砲斉射!」
「放てぇ!」
提督たちの号令一下、両艦隊が砲撃を浴びせ合う。どちらも、敵旗艦を狙ったものだが…
「被弾!」
冥王星軍旗艦カウシュホルンが直撃弾を食らい、主砲を破損した。幸い、主砲の砲身にかすった程度でその周りの装甲に当たったので大きな爆発は無い。しかし、2門ある主砲の片方が撃てなくなった。
「旗艦の健在を知らしめよ!砲撃の手を緩めるな!」
先頭にいる旗艦が攻撃を受けたことで、周りの砲艦たちが怯んでしまった。冥王星軍の1斉射目は至近弾とはなったが、その間に木星軍が態勢を整えようとしている。
「させるかよ!」
主砲の射撃体勢を整えるために対空砲火の密度が緩み、防衛線に隙が出始めた。各飛行隊長がそれぞれ、本隊に注意が移った木星軍に対して突撃をかけ始めた。
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