第7話
《皆さん、ご武運を!》
3個小隊10機のコメットが母艦から射出されていく。もう1隻の宇宙母艦『ノルト』からも4個小隊13機が射出されている。都合23機が、敵艦隊の虚を突くべく前進していく。
「さて、どうなるか」
「私の理論は完璧です」
ランブルク提督と傍らの女性参謀、シュライヒャー中佐は各艦・各機の位置を表す戦況図を見守る。正面に4隻・49機を展開し、急速で先行させ伏兵とした2隻・23機が側面から敵艦隊へ向かっている。主力の分割はシュライヒャーの発案だった。
「艦隊の迅速で柔軟な機動がこれからの艦隊戦を決します。それは明白なのです」
「さきほどは正面に全力で十分だったが」
「だからこそです。情報は相手にも伝わっているでしょう。同じことの繰り返しでは早晩、痛い目を見ます」
「それは道理だな」
戦力の分割は…しかも、戦力に劣る側が分割して包囲するような戦術は愚策である。しかし、今回の戦争には常識は通用しないというのが冥王星軍艦隊司令部の共通認識だった。
≪碧、大丈夫だな?≫
「はい!エンジンは吹かしてません!」
熱源探査されないように、カタパルトから射出されたまま慣性で進む、23機の艦載機部隊は無線封鎖もされている。半径500m圏内でのみ通用する範囲通信で搭乗員同士でしか連絡を取り合っていない。
≪次こそはC小隊で3隻をやる!あなたが言ったんだから、頑張りなさい!≫
「はい!頑張ります!」
≪距離2000。そろそろ、範囲通信も封鎖だ。攻撃開始まで喋るんじぇねえぞ?≫
電波が発されている限り、敵に感づかれる。それでは奇襲にならない。
「敵がいる…!」
碧の目の前には、今は何もないが、後数分もすれば30隻近い大艦隊とはち会う予定だ。左方向にいくつもの灯りが見える。
≪ほら、おっぱじまったぞ!≫
再度、通信を開いたシュナイダー。正面に展開した冥王星軍艦隊主力が戦端を開いたのだ。敵艦隊の注意が前方だけに集まっていく。
≪よし、行くぞ!≫
「燃料活性、ロケット点火、砲門開け!」
目標との距離は1500。レールガンの一斉射撃の後、一度、突き抜けて再攻撃の手筈となっている。
「あの、戦艦!」
碧は一番近くを航行している戦艦に狙いを付けた。狙いは艦橋だ。
「行けえ!」
23条の電磁の螺旋は、敵艦隊に吸い込まれて行く。
「なんだ!?」
「敵伏兵です!磁力反応確認、敵小型電磁砲!」
木星宇宙軍第8艦隊の司令官はクロパトキン中将。対地球国家戦で多くの武勲を挙げた叩き上げだ。彼の乗艦はたまたま艦隊の左方を航行していたため、右側面からの第1射目には幸運にも無傷だった。
「損害は!?敵機動兵器ならば、艦隊を密集させて、対空砲火を厚くする!」
クロパトキン中将は第3艦隊の惨状を伝え聞き、対抗策をついさっきまで考えていた。敵の自由な機動を封じることと接近を許さないこと。
「申し訳ないが、被害艦を壁に密集だ!護衛艦は残っているな!?」
機銃をハリネズミのように備えた護衛艦。対空砲火の要が何隻残っているかが勝負の分かれ目だ。
「航行可能は5隻!」
「よし!輪形陣!揚陸艦を守れ!海兵隊を死なせるな!」
歴戦の提督の評価に恥じぬ迅速な指示を下していく。未知の兵器との遭遇戦の2戦目にして、クロパトキンは自信を持っていた。
「クロトワ、お前の犠牲は無駄にしない…!」
戦死した第3艦隊司令官のクロトワ中将は、彼の無二の親友だった。
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