第4話

それでも、最後にどうしても

「クラスは違っても、挨拶くらいは交わせる仲になりたい」

と願ってしまう。

今のように、ギクシャクして目も合わせずにすれ違うのは嫌だった。

そして時は流れ、2月14日がやって来た。

女の子が勇気を出して良い日だ。

私はチョコを忍ばせ、長塚君を放課後呼び出した。

何も言わずに来てくれた彼は、私がチョコを差し出して

「今まで迷惑掛けてごめんなさい!せめて、挨拶くらいは交わせる関係になりたいです!」と叫ぶ前に

「友達から始めてみない?」

と言い出したのだ。

「え?」

思わず驚いて顔を上げると、恥ずかしそうにはにかみ笑顔を浮かべた長塚君が

「俺、彼女とか始めてだから、取り敢えず友達から関係を作っていくのでも良い?」

って言われた。

(これって……夢?)

思わず呆然と長塚君の顔を見ていると

「やっぱり、恋人じゃないとだめかな?」

と聞かれ、思わず顔を左右に思い切り振って

「嬉しい!本当に?」

思わず渡す為に差し出したチョコを、ガッチリ握り締めていた。

長塚君は困った顔をして

「えっと……これは、くれるんだよね?」

と、受け取ったままの状態で固まっている。

「あ!ごめんなさい」

そう言って慌ててチョコの箱から手を離すと

「じゃあ、これからよろしくね」

って言いながら手を差し出された。

夢にまで見た、長塚君の大きな手。

私はそっとその手を握り、長塚君に

「ありがとう!私、頑張るから!彼女になれるように、頑張るから!」

そう言いながら、溢れて止まらない涙を拭った。

長塚君は多くは語らず、私の言葉に

「うん」

と答え続けてくれた。

私はこの後、幸せな未来が待っていると信じて疑わなかった。

でも、理想と現実を思い知らされる事になる。

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