第3話
彼との出会いは、桜舞い散る入学式だった。
校舎へと歩いていると、ふと桜の木を見上げている人影が目に入った。
その人影に視線を向けると、彼がゆっくりとこちらに視線を向けた。
その時、突風が吹いて目の前に桜の花びらが舞い散った。
そんな中で、切れ長の目がこちらを静かに見つめていた。
桜の花吹雪の中、佇む切れ長の目に鼻筋の通った綺麗な顔立ちの彼に私は一目惚れしたのだ。
クラスに行くと、ラッキーな事に同じクラスだった。
それから彼に自分の事を覚えてもらおうと、必死に挨拶作戦をした。
そして出会いから2ヶ月後の放課後、意を決して告白してみたが……結果は「ごめんなさい。好きな人がいます」だった。
(だよね〜!世の中、そんなに上手くいかないよね〜!)
と、失恋してこっそり涙した。
が!私はそこで諦めるようなヤワな女じゃ無かった!
好きになっても、そんなにすぐに諦められない。だったら、一人静かに好きでいよう!と考えていたのだ。
でも、私が静かに……なんて無理だった。
わざとじゃないのに、長塚君とすれ違う時に緊張し過ぎて転んでプリントを吹っ飛ばしたり。
廊下掃除をしていて、モップを踏んづけて転んだところに偶然長塚君が居て下敷きにしたり。
黒板消しをはたいていたら、風下に偶然長塚君が居て咳き込まれたり。
わざとじゃないの!わざとじゃないのに、こんなアクシデントに見舞われて、おそらく長塚君の中での私は「変な女」になっているに違いない。
神様の意地悪!!と嘆いてみても、着いてしまったイメージは変わらない。
そのうち、私とすれ違う時に長塚君が「プッ」っと笑うようになってしまったのだ。
(ガーン!もう終わりだわ!)
ガッツリ落ち込んでも、時間は流れて行く訳で。
学校の研修で山登りに行った時、残念ながら同じ班にはなれなかったけど、一緒に旅行に行けるだけでも楽しみだった。
きっと良い思い出が作れると、ウキウキしていたのに……ハプニングの神様に愛される私。
研修所を掃除していた時に、虫が乱入して大騒ぎになった。
なんとか虫が大丈夫な子が、窓の外に逃してくれたんだけど、逃げ惑って転んで雪崩を起こした私達が起きあがろうとして、私の上にかぶさっていた人の髪の毛が私のファスナーに引っ掛かってしまったのだ。
みんながなんとか協力してファスナーから髪の毛が取れた時だった。
「取れた!」
の声に
「やったー!」
と両手を挙げた瞬間、ファスナーが降りていたのを知らなかったので、はらりと前が全開になってしまった。
その時、これまた偶然通り掛かって事の成り行きを見守っていたであろう長塚君の視線がギョッとした後、慌てて真っ赤になって視線を逸らしたのに気付いた。
何事?っと、自分のジャージを見下ろすと、全開になったジャージの中は下着姿だった。
「ぎゃー!」
の悲鳴に、長塚君達に背中を向けていて気付かなかった女子達が
「大丈夫!誰も見てないから!」
って叫び、後を振り向いて偶然居合わせた男子数人(長塚君の姿は既に無かった……涙)を睨むと
「男子達、何も見なかったよね?」
と、脅すような笑顔を浮かべていたのは言うまでも無い。
こんなハプニングに、私は絶対に長塚君に嫌われたと思っていた。
振った事を「ラッキー」と思っているに違いない!と。
トホホ状態で歩いていると、偶然、長塚君とバッタリ出くわしてしまう。
長塚君は私の顔を見るなり、真っ赤な顔をして視線を逸らして足早に横を通り過ぎて行った。
好きな人に避けられるというのは、中々、辛いものである。
林間学校から戻ってからも、長塚君との関係はギクシャクしたまま。
このまま、ギクシャクしたまま終わるのは嫌だった。
まぁ、そもそもが親しい間柄では無かったから、このままクラス替えがあっても今まで通りなんだろうと思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます