第4話

はぁ?私が散々、止めてと言っても聞かなかったくせに、座長に言われたら止めるんですか?

本当に嫌な奴!!

私がムツとしながらお酒をあおるように飲むと、私の手からグラスを取り上げて

「飲み過ぎです」

そう言って私の手にお水が入ったグラスを握らせる。

(年下の癖に本当に嫌な奴!)

そう思いながら私は伝票を掴み、自分が飲み食いした分のお金を叩きおくと

「飲み過ぎらしいので帰ります!」

と言って、立ち上がった。

……そう、立ち上がったつもりだった。

しかし、へにゃんと椅子にお尻が着いてしまう。

「だから言ったじゃないですか!」

呆れた顔をされて言われ

「うるさい!元はと言えば、あんたのせいなんだからね!」

と、明らかな八つ当たりをしてしまう。

すると鈴代はゆっくり立ち上がり、私に背中を向けた。

「ちょっと、何してんのよ?」

「歩けないんでしょう?駅まで送ります」

そう言われて

「はぁ?なんであんたなんかに送られなくちゃならないの?」

酔った勢いとは恐ろしいもので、私は鈴代に悪態を吐きまくった。

「大体、私より年下の癖に生意気なのよ!」

「沙耶ちゃん、落ち着いて!」

鈴代に文句を言い続ける私に、絢ちゃんが慌てて止めに入る。

「絢ちゃん、止めないで!私は今日と言う今日は、こいつにガツンと……」

そこまで呟き

「うっ……気持ち悪い」

吐きそうになって呟く。

「はあ!待て、ここで吐くな!」

座長の声が遠くに聞こえる。

「沙耶さん、大丈夫ですか?」

鈴代の声に

『馴れ馴れしく沙耶って呼ぶな!』

って叫びたいのに、気持ちが悪くて言葉さえ吐き出せない。

するとふわりと抱き上げられて

「我慢出来ますか?」

と、鈴代に聞かれて口を押さえてコクコクと頷く。

鈴代は私を女子トイレまで運ぶと、個室にそっと下ろして

「外で待っていますが、辛かったらドアを叩いて下さいね」

そう言われて、頷いてからドアを閉めた。

ひたすら吐いてスッキリした頃には、終電はとっくに終わっている時間になっていた。

座長と絢ちゃんは鈴代に私を任せ、先に帰ったらしい。

(薄情者め!)

と思いながら

「鈴代君も帰って良いよ。私は終電無いけど、鈴代君はまだ大丈夫でしょう?」

そう言って、何故か鈴代におんぶされながら店を出た。

「俺が帰ったら、沙耶さん一人になるじゃないですか」

「大丈夫だよ。何処か、ビジネスホテルに泊まるから」

ゆらゆらと揺れる鈴代の背中が、段々と眠りを誘う。

逞して大きな背中は、なんだか安心してしまう。

「じゃあ、ホテルで部屋が決まるまでは一緒に居ますよ」

いつも稽古場で聞く、生意気な口調では無い優しい声。

「沙耶さん?」

ウトウトしている私に、鈴代の声が遠くに聞こえる。

「沙耶さん、まさか……寝てないですよね?」

慌てる鈴代の声に

(ざまぁみろ!もっと困れ!)

なんて思いながら、私はゆっくりと意識を手放した。

鈴代の背中の温もりと、困ったように必死に私に声を掛ける声が温かくて、なんだか幸せな気持ちになりながら……。

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