第3話

「腹が立つ!!!!!」

この舞台稽古が始まってから、たまに稽古後に主役の石田絢ちゃんと飲んでから帰っていた私は、この日、我慢の限界だったので絢ちゃんにお願いして、稽古後にお酒を飲んでいた。

私の冒頭の雄叫びに、絢ちゃんが

「まぁまぁ……」

って苦笑いを浮かべている。

「絢ちゃんは良いよね!相手役が亮太で!」

そう叫ぶ私に

「でも、鈴代君も悪い人じゃないと思うよ。第一、芝居上手いじゃない?」

と言われ

「え?そういう問題?だって靴下だよ!

毎回、毎回、毎回、毎回!場所変えても、いっつも私の隣に着替え置いて!!!どんなに芝居が上手くても、有り得ない!!!!」

私が叫ぶと

「好きなんじゃない?」

と、絢ちゃんが呟いた。

「はぁ?」

目を据わらせる私に

「鈴代君、沙耶ちゃんが好きなんじゃない?」

って言い出した。

「ナイナイナイナイ!絶対にあり得ない!」

飲んでいたサワーをテーブルに叩き置いた瞬間だった。

「でっけえ声だな、津島」

と、背後から座長の声。

私が一瞬固まってから振り返ると、座長の隣には鈴代が立っていた。

「ひぃぃぃぃぃぃ!座長!(と、鈴代!)」

「お前、そんだけ元気があるんなら、明日から腹筋の回数増やすぞ」

って言いながら、何故か座長は絢ちゃんの隣の席に座った。

……と言うことはですよ。

そう、当たり前のように、鈴代が私の隣に座りやがった!!!!

「な!……なんであんたが隣に座るのよ!」

「はぁ?他に何処に座れと?」

感情が全く読めない顔で言われ、カッチーン!

「絢ちゃん、私……帰るわ」

そう言って立ち上がると

「まぁまぁ、津島。良いから座れ!」

座長にそう言われ、不満気に座る。

「座長、いつから?」

絢ちゃんが聞くと

「あ?店に入ったら、津島の『ナイナイナイナイ!』が響いてた」

って笑われてしまう。

私が苦笑いすると

「津島さ、もう少し鈴代と仲良くしたら?」

そう言われて

「はぁ?それは、私の演技に問題があると?」

目を据わらせて聞くと

「そうじゃないけどさ。なんて言うの?相手役な訳だろう?普段から仲良くしたらどうだ?」

と呟いた。

私は目を益々据わらせ、口をへの字にして

「座長、言わせて頂きますけどね。前回公演の時、私が小原を誘惑してるって言いましたよね!」

と文句を言うと、座長は苦笑いを浮かべて

「あ〜まぁな。あれはほら、お前の面倒見の良さが仇になったっていうの?」

と言って絢ちゃんに救いを求める視線を送った。

絢ちゃんが座長の目配せに苦笑いしていると

「誘惑って、何したんすか?」

って、鈴代が座長に質問しやがった!

(はぁ?そこ、深堀しますかぁ?)

と私が睨むと

「俺には常に、こんな感じですけど?」

そう言って私を指差したのだ。

その指を見た瞬間、カッチーンと来て思わずその指に噛み付いてしまった。

「……」

「……」

何も考えずに行動した私は、指された指を齧った状態で固まる。

鈴代も指を齧る私の顔を、唖然とした顔をして見ている。

そんな私達を、座長と絢ちゃんが固まって見ていた。

すると鈴代が「ぷッ」と吹き出し、大爆笑し始めたのだ。

「普通、指を齧ります?」

「あんたが指を指すからでしょう!」

店員さんにお手拭きをお願いして、受け取ったお手拭きを鈴代に投げ付けて反論すると、鈴代は手を拭きながら

「津島さんって、本当に反応が面白いですよね」

って笑ってる。

「あんた……まさか私の反応を楽しんで、わざと私の着替えの上にあんたの靴下を毎回載せてる訳!」

ゴジ○が火を吹くが如くに叫ぶ私に

「だから、わざとじゃないですよ」

と、飄々と答えるコイツがマジで腹立たしい!

イライラしている私に

「え?鈴代、津島の着替えの上に、お前の靴下を置いてるのか?」

驚いた顔をした座長が呟くと

「いやぁ~、何故でしょうね?自分の着替えの上に置いた筈の靴下が、毎回、津島さんの着替えの上に居るんですよ」

って答えやがった!

「あんたねぇ~……」

ワナワナと震える私に

「鈴代、それは他の劇団員にバレるとマズイから、程々にしとけよ」

と座長が呟いた。

「え?」

鈴代が驚いた顔をすると

「コイツ、こんなんでも狙ってる奴等が他に居るからさ。バレたら俺が殺される」

そう言って座長が「ガハハ」って笑いだした。

(こんなんでもは、余計ですが?)

座長を睨み付けた時

「分かりました。気を付けます」

と、頷いたのだ。

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