第2話

芝居だけで精一杯なのに、何故こんな事を言われるのだろう?と何度も泣いた。

そしてとうとう、うちの劇団でも恋愛作品を上演する事になった。

脚本は劇団オリジナル。

当初、私はこの作品の出演を辞退していた。

(恋愛作品は、基本的にNGにしてもらっていたのよね)

制作側に行く筈だったのに、本来のキャストが決まってから役者が怪我で降板になってしまい、その代役に何故か私に白羽の矢が立ってしまったという訳。

私がもらった役は、男勝りの主人公の親友役。親友が不治の病に侵され、彼女を元気付ける為に通っていた病院で、親友の妹が通う高校の教師と偶然出会い一目惚れされ、熱烈なアタックに段々と絆されてく役だった。

普段は劇団員でキャストが決まるのだが、この作品に限っては、主宰が突然「外部の空気を入れたい」と、男性の役者さんが全て客演という形になったレアケースだった。

慣れない共演者ばかりの中、私の相手役は自分よりかなり背の高い人で、正直、第一印象は最悪だった。

本読みをするのでテーブル移動が必要となり、テーブルを移動させているのに何故か男性陣が全く動かない。

女性だけで移動作業をしていたのに腹が立ち

「ちょっと!女にばかり力仕事させないで、男なら手伝ってよ!」

と言うと、私の相手役の人はムっとした顔で

「うるせぇな!」

って呟いたのだ。

(な!なんて嫌な奴!!!!)

カチンと来ていると

「あ!ごめんね。手伝う、手伝う」

と、主役の相手役をする相模亮太が間に入ってテーブルを動かし始めた。

今回の客演さんはそれぞれタイプの違う役者さんで、主役の相手役を演じるのは、人当たりが良くてムードメーカーの相模亮太。

身長は176㎝の、ふんわりとした雰囲気のある役者さんだ。

私の相手役は、身長が180㎝超えの、基本無愛想で何を考えているのか分からない鈴代颯。

そして主人公の主治医役の、人懐っこくてワンコタイプの石井司の3人だった。

基本的に、私は誰とでも打ち解けるのは早いタイプではあったけど、初対面の鈴代の印象が悪過ぎて、鈴代とだけは打ち解ける事ができなかった。

座長にも

「私の相手役、司だったら楽なのに……」

とぼやく程には、苦手な相手だった。

「お前の演技の幅を広げる為に当ててやったんだ!文句言うな!」

そう一括されて、取り合ってはもらえなかった。

基本的には、弟が居るので同じ歳から下はすぐ仲良くなれる筈なんだけど……。

実際、お姉ちゃんが居る司とはすぐに姉弟のような関係になった。

亮太とも、同じ歳という事で気が合って仲良しではあったが、鈴代とだけは中々仲良くする事が出来ずに居た。

顔合わせの後、舞台稽古が始まり、本読みをして驚いたのは……鈴代の芝居が群を抜いて上手かった事。悔しいけど、文句言えないと思った。

(ただの無愛想じゃなかったんだ……)

思わず感心していると、座長から

「津島!お前、鈴代の足を引っ張るなよ!」

って怒鳴られた。

(はいはい。劇団員が、客演様の足を引っ張ったら大問題ですよね)

心の中でボヤきながら、私はその日から台本と睨めっこの日々が始まる。

通勤はもちろん、稽古場へ向かう電車内でもブツブツと台詞を覚える努力をする。

早く台本を離して演技をしないと、台詞が台詞のままになってしまうのよね。

今回の客演の方々は、主宰があちこち巡って探してきた人達だったので、劇団員同士の芝居には無い緊張感が漂っていた。

私達劇団員も、さすがに「この劇団は下手な役者だらけだな」と言われる訳にはいかず、普段より更に厳しい座長の檄を浴びる毎日。

本読みが終わり、立ち稽古に入った頃だった。

小劇団の稽古場は、地域センターの会議室や和室を借りて行う。

よって、稽古場に更衣室などというモノは存在しない。

大体は、人が入れる広い掃除道具入れとかに入って女性は着替えを済ませ、男性はその場で着替え始める。

(お陰で、男性のパンイチ姿にはすっかり慣れた)

着替えた衣類は左右に置かれたテーブルに置くのだが、立ち稽古が始まった辺りから、何故か私の洋服の上に見覚えの無い靴下が置かれ始めた。

最初は誰かの置き間違いだと思い、私の洋服の上から靴下だけを机に移動させていたんだけど……。

何故か毎回置かれていて、さすがに私がその靴下を見て

「この靴下誰?」

と叫ぶと

「あ……悪い。俺」

って言いながら、鈴代がその靴下を私の洋服の上から持って行った。

その時は、彼の着替えが私の隣にあったので、単純に

(あぁ…隣だから間違えたんだ)

と思っていた。

が!!!!!

それ以降も、稽古が終わる度に私の洋服の上には靴下が……。

着替えを置く場所を変えても、毎回、私の着替えの隣に鈴代の着替えがあって、私の洋服の上には鈴代の靴下が置いてある。

「鈴代君!毎回、毎回、私の服の上に靴下を置くのを止めてくれないかな?」

良い加減、腹が立って文句を言うと

「あ……悪い」

の一言。

悪い?悪いじゃないでしょう!!!

私のイライラはMAXだった。

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