かりそめの恋だとしても

青空

第1話

誰にも忘れられない恋がある。

私にも、たった一人だけ、今でも忘れられない人が居る。

 私には、テレビで芸能人同士がドラマ共演で結婚するニュースを耳にする度、思い出す人が居る。

今ではもう、それは遠い遠い思い出の中の出来事。

あなたはきっと、忘れているのでしょうね。

でも、私の中で……あなたと過ごした日々は今でも大切で、宝石のように輝いていた日々でした。


遡る事、20年前

当時、私は女優になりたくて小さな劇団でお芝居をしていた。

夢は演技派女優。

台本を渡され、自分の役をもらえるのが嬉しかった。

ステージという板の上で、家族じゃない人と家族になり、自分じゃない人の人生を演じるのが楽しかった。

その反面、稽古の厳しさは半端なくて……。

演出にダメ出しをされる度に、悔しくて帰宅後にお風呂場で何度も泣いた。

これで良いのか?

私の演技は、お客様に受け入れてもらえるのか?

自問自答の繰り返しで、本番前になると、台詞を忘れて真っ白になる夢や、舞台なのを忘れてステージに遅刻する夢を見たりしていた。

役者はステージに立つまで、そんな孤独な闘いを続けている。

でも、本番で自分の演技でお客様が泣いたり笑ったりと反応を返して下さり、カーテンコールでのお客様の拍手で、その苦しみが一瞬にして昇華されていく。

私は、そんな舞台が大好きだった。

でも、世間からは派手好きとか目立ちたがり屋の称号を与えられ、働きながら続けてはいたものの、中々大変な生活だった。

劇団の稽古は基本、週に2回。

舞台が決まると、舞台稽古は週に6日あり、土日は朝の9時から夜の21時まで稽古になる。

それに加えて、平日は仕事を終えてから走って稽古場へ向かう毎日。

休む日なんて無くて、毎回、公演が終わった翌日は死んだように一日中眠っているので、母親が生きているのかを確認する為に寝ている私の顔を触りに来る程だった。

それでもいつか、プロになるんだと上を目指して歯を食いしばっていた。

そんなある日、劇団で初めて恋愛作品を演じる事になった。

当時の私は恋愛作品が苦手で、拒絶反応を示していた。

現に、所属していた人情劇でさえ、共演者との恋愛関係のもつれで被害に遭ってばかりいたのでうんざりしていた。

私の恋人役の人が他の恋人役の人が好きで、全く演技してくれず、結局一人相撲状態になったり。

私と敵対する相手役の人に好かれて、お客様アンケートに「○○役の人、××役の人が好きですよね。頑張ってください」と書かれ、うんざりした。

その度、座長に「お前の芝居がダメだから、相手役が他に向くんだ」と言われたり「お前が誘惑しているから、客にこんな事を書かれるんだ」と言われて辟易していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る