航空優勢はお約束いたします
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──航空優勢はお約束いたします
スターライン王国女王シャリアーデは、鮫浦の案内を受けて、視察に向かっていた。
既に彼女はドレスを脱いで迷彩服とヘルメットを纏い、戦時指導者に相応しい姿をしていた。彼女の傍には元SAS隊員のマクミランとグッドリックがHK416自動小銃を手に警戒に当たっている。
「飛竜騎兵を空から駆逐すると?」
「ええ。その通りです。我々の設置した機械によって敵飛竜騎兵の動きは分かっております。そこに我々の航空戦力を投入します。この間ご購入いただいた戦闘機という兵器でして、我々の国でもメジャーなMiG-29戦闘機というものとなります」
ソーコルイ・タクティカルを雇う費用もスターライン王国抵抗運動側に負担してもらっている。鮫浦たちはただ戦闘機を売って、民間軍事企業を紹介しただけだ。それでも大金になっている。紹介料も貰っているのだ。
それに、何せ在庫のMiG-29が処分できるのだ。下手に近代改修化キットを当てているせいで、東側の兵器の需要が高い第三世界の国々への売却は見込めず、かといって西側の兵器に全面転換しつつある東欧諸国にも売れない。
インドが唯一興味を示していたが、鮫浦の経験上、インド人とのビジネスには時間がかかりすぎるという悪い点がある。
その点、即断即決で購入してくれたスターライン王国抵抗運動には感謝しかない。
「それでは上空をご覧ください。友軍戦闘機部隊による飛竜騎兵の排除が始まります」
各所に設置されたレーダーで敵の飛竜騎兵の位置は掴んでいる。
後はトリャスィーロたちの操るMiG-29戦闘機が予定通り現れてくれれば。
「飛竜騎兵だ!」
「凄い数だぞ! 敵はもう攻撃を諦めたんじゃないのかっ!?」
タイラーの下した総攻撃命令によって動員された飛竜騎兵が空を埋め尽くさんばかりの勢いでスターライン王国抵抗運動の立て籠もる森の上空に現れる。
「それではご覧ください。戦闘機の攻撃が始まります」
レーダーは高速で接近中のMiG-29戦闘機を捉えていた。
まずは短距離空対空ミサイル──R-73ミサイルが発射される。6機のMiG-29戦闘機の8ヶ所のハードポイントに装着された48発のミサイルが空中を走る。
そして、飛竜騎兵が弾け飛ぶ。
「おお……!」
兵士たちが感嘆の声を発する。
「あれが戦闘機の攻撃なのですね」
「そうです。彼らは我々が提供した地対空ミサイルと同じ敵を追尾するミサイルを装備しています。原理などは多少異なりますが」
まあ、この際6機のMiG-29では48発のミサイルしか積めないのは言う必要はない。
「ほら、ご覧ください。あれが友軍戦闘機です」
MiG-29が颯爽と姿を現し、飛竜騎兵を機関砲で撃墜していく。
トリャスィーロは鮫浦の要望通りに戦闘機の働きがよく見える方法で戦ってくれている。飛竜騎兵を機関砲で撃墜し、敵のブレスを避けて飛んでいく様子は圧倒的としか言いようがなかった。
「ま、魔術だ! あれは魔術を使っているのだろう!? だから、専門の傭兵を雇った! 違うか!? あれが魔術でないなどあり得ない!」
「残念ながらあれは魔術ではありません。確かに戦闘機パイロットになるまでには長い訓練が必要になりますが、やろうと思えばここの世界の魔力を持たない方々でも運用可能です。後でトリャスィーロ中佐たちに会われるとよろしいかと。彼らからは魔力を感じないはずですよ」
イーデンが叫ぶのに、鮫浦は淡々とそう説明した。
「メテオール候。お止めなさい。今は敵の飛竜騎兵が撃墜されている状況を喜ぶべきです。魔術であれ、魔術でないのであれ、我々には実現不可能な技術を鮫浦殿たちはお持ちです。それによって空から無敵と言われたドラゴニア帝国陸軍飛竜騎兵が撃墜されている。喜ぶべきことです」
「し、しかし、陛下。これ以上、民に魔術を軽視されますと……」
「今さら何を言っているのですか。魔術の必要ない56式自動小銃、80式汎用機関銃、85式対空砲、地対空ミサイル。どれも魔術ばかりを重んじて、他を軽視してきた私たちが逃してきたものではありませんか」
ぐっと拳を握り締めてシャリアーデが言う。
「我々が魔術に囚われている間に、東方の民は魔術によらない発展を成し遂げたのです。彼らはきっと平民と貴族という垣根すらも乗り越えたのでしょう。我々は猛省するべきです。これまで国の発展を妨げていたことを」
「陛下……」
この武器が、魔術によらない武器があれば、きっとシャリアーデの父が戦死した戦いも変わっていたはずだ。そう思うと悔しくてしょうがない。スターライン王国もドラゴニア帝国同様に平民の登用を行うべきだったのだ。
シャリアーデはそう思いながら空を見上げる。
飛竜騎兵は逃げるように撤退していき、MiG-29戦闘機は勝利を祝うように派手な機動を描いて飛行すると航空基地の方に戻っていった。
この戦闘で第602飛竜騎兵師団の1個大隊の戦力が何もできずに殲滅された。
「勝ったのか……?」
「だが、あの飛竜騎兵の数を見ただろう。こっちは無双とは言え6機しかあの戦闘機という兵器がないんだ。いずれ数に押されてしまうよ」
「そこは俺たちが対空砲や地対空ミサイルで援護するべきだ」
兵士たちは勝利の宣言を待ちわびてそわそわしている。
「皆の者。我々は今回は勝利したとは言えません。我々は傍観していただけです。あの戦闘機を操っていたのは傭兵。我々に雇われているとはいえ、私の民でもなければ、我々の兵でもありません」
兵士たちはシャリアーデが勝利を宣言しないことに戸惑っていた。
「ですが、これからの反撃に彼らが力を貸してくれるとならば、私は先陣に立ち、王都テルスの奪還に向かいましょう! 我々の戦いはこれから始まるのです! 我々はこの森に籠って、生き延びればいいわけではありません! 囚われた民を、あなた方の家族や親類、友人たちを助け出すのです!」
「女王陛下万歳!」
おやおや。女王陛下は随分と乗り気のようだ。
だが、敵から首都を奪還するにはどうあっても航空優勢の確保が必要になる。そうしなければ上空から飛竜騎兵のブレスを浴び、大規模魔術攻撃の攻撃を受ける。
これまでの戦局の移行を見てきたところ、敵はできる連中を揃えている。
前線部隊が危険ならば、後方の兵站線を狙って攻撃を仕掛けるだろう。そして、兵站が切れた現代の武器ほど弱いものもない。それこそ剣と魔法で戦った方がマシだ。
航空優勢が確保できればその心配はなくなる。
問題はそこに女王陛下が気づいてくれるかどうかだが……。
「鮫浦殿。あのMiG-29戦闘機というものを追加で6機発注できますか?」
「もちろんです、陛下。航空優勢の確保はお任せあれ。スターライン王国の空はスターライン王国の民のもの。あるべきものをあるべき場所に戻すお手伝いが出来れば光栄であります。どうぞ今後ともよろしくお願いします」
「ええ。こちらこそ、あなた方の活躍には期待しています」
こうして追加発注で在庫のMiG-29戦闘機がほぼ捌けた。
予備パーツの払底に伴う共食い整備の必要性を考えると、残りはまだ売らない方がいいだろうと鮫浦は考える。
「異世界の空はどうだった、トリャスィーロ」
「地球と変わりないと言いたいが、広く感じるね。この星の1日の周期や1年の周期はどうなっているんだろうな?」
「さあな。ただ、言えるのは──」
鮫浦がトリャスィーロと瓶ビールで乾杯する。
「兵器はどこでもその役割を果たすってことだ」
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