ドラゴニア帝国陸軍飛竜騎兵師団の栄光と挫折

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 ──ドラゴニア帝国陸軍飛竜騎兵師団の栄光と挫折



 ドラゴニア帝国陸軍飛竜騎兵とも言えば、エリート中のエリートが集う兵科であった。彼らは高度な航法技術を学び、戦闘機動に耐えられる体を作り、長時間酸素が薄く、低温の環境で耐えられるように鍛える。


 志願者のうち飛竜騎兵になれるのは100分の1と言われている。


 そんな飛竜騎兵だからこそ、己の強さに自信があった。


 当初投入されていた第601飛竜騎兵師団の飛竜騎兵たちも自信満々で戦場に向かった。緒戦での華麗な勝利を収めた要因も飛竜騎兵による偵察と適切な航空支援があっての上である。スターライン王国残党の掃討でも彼らは大活躍──するはずだった。


 あの第2親衛突撃師団が壊滅した謎の魔術が行使される日までは。彼らは無類の強さを誇り、残党を追い詰められていた。


 だが第2親衛突撃師団の壊滅から様子がおかしくなり始める。


 無敵のはずの飛竜騎兵が次々に撃墜されるようになったのだ。敵の新しい魔術と思われるが、詳細は謎。飛竜騎兵は次々に損害を出し、最初は第601飛竜騎兵師団師団長のムリース・ツー・コリーニ中将が中央に呼び出され、それから副師団長のジャス・ツー・オズボーン少将が損害を出しすぎたと更迭された。


 ムリースは現場に復帰したが、飛竜騎兵の運用には極めて慎重になり、夜間攻撃と昼間強硬偵察飛行のみに作戦を限定した。


 しかし、彼の方針は第602飛竜騎兵師団の登場とともに編成された東部航空軍団のタイラー・ツー・ヴェルンホファー大将の着任に伴って変更される。


 タイラーは航空主兵論者であった。陸軍の中でも航空戦力を拡充させることで戦争に勝利できると考えるものであった。歩兵や魔術兵は補助的なもの。航空優勢を奪い、航空支援が行える段階になった時点で勝敗は決したと考えていいとすら彼は陸軍大学校の講義で述べていた。


 そんなタイラーにとって航空戦力を限定的にしか運用しないのは怠慢でしかなかった。航空戦力による攻勢を以てしてこそ、戦争の勝敗は決まる。彼はそう考えていたからである。隷下のムリースたちがこれまでの経緯を説明しても彼は納得しなかった。


「飛竜騎兵が地上からの攻撃で撃墜されるなどあり得ない。攻勢を実行せよ」


 こうして、ムリースたちの努力もむなしく、東部航空軍団隷下2個師団への昼間攻撃命令が決定した。ムリースは出撃不可能という飛竜騎兵を多くして戦力の温存を図ったが、未だに現状を知らない第602飛竜騎兵師団の師団長は全力出撃を決定した。


 そして、運命の日が訪れた。


「兵士諸君。誇り高くドラゴニア帝国陸軍飛竜騎兵の諸君。敵は確かに第2親衛突撃師団を壊滅させたと言われている。だが、それは飛竜騎兵のコンディションが悪かったためである。航空戦力が戦争の勝敗を決するという戦争の常識は変わっていない。敵を撃滅し、我らがドラゴニア帝国に勝利を。帝国万歳、皇帝陛下万歳」


「帝国万歳! 皇帝陛下万歳!」


 出撃前のタイラーの激励もあって、飛竜騎兵たちの士気はとても高いものになっていた。ムリースによって出撃不可能とされた飛竜騎兵も出撃したいと申し出る始末で、ムリースはとくとくと出撃不可能な理由を説いて、出撃を許さなかった。


 ムリースの心境を理解する損害を経験した将校たちは血の気の早い飛竜騎兵たちをなだめ、この先必ず出撃の機会はあるから心配するなと言った。


 そして、第601飛竜騎兵師団、第602飛竜騎兵師団の陣取る陣地──飛竜騎兵は不整地でも離着陸可能で、かつ高いVSTOL能力を有する故、滑走路などは少し開けた場所を準備するだけでいい──から飛竜騎兵が出撃していった。


 残ることになった飛竜騎兵たちは涙を堪え、敬礼を送って彼らを見送った。


 出撃した多数の飛竜騎兵は三波に別れて攻撃を仕掛けることになった。


 第601飛竜騎兵師団からは3個大隊、第602飛竜騎兵師団からは6個大隊が出撃し、3個大隊ずつ地上に向けて航空攻撃を仕掛ける手はずだった。1個大隊は大よそ270体の飛竜騎兵で編成される。


 飛竜騎兵は予定通りの進路でスターライン王国抵抗運動が立て籠もる森林地帯に侵入し、高度を落とそうとし始める。


 そこで爆発が生じた。


「緑の発煙矢! 敵の攻撃だ!」


「まだ地上まで900メートルはあるぞ!?」


 これまで損害が報告された高度より上空で飛竜騎兵が攻撃を受ける。あり得ないと誰もが思っていた。だが、実際に飛竜騎兵は次々に撃墜され、一気に48体の飛竜騎兵が葬り去られた。


 この時点で彼らは引き返すべきだったかもしれないが、もう遅すぎたかもしれない。


「敵の航空戦力を視認! 何だあれは……?」


 魔道具の使えないものが操る飛竜騎兵同士でのコミュニケーションは難しく、事前の予定されていた動き以外のことはほぼ行えない。


 だが、敵は恐るべき相手だった。


『アーチャー・リード、ボギーキル』


『アーチャー・ツー、ボギーキル』


『アーチャー・スリー、ボギーキル』


『バーサーカー・リード、ボギーキル!』


『バーサーカー・ツー、ボギーキル』


『バーサーカー・スリー、ボギーキル』


 そう、6機のMiG-29戦闘機である。


 イスラエス製の近代改修化キットを適応されたMiG-29戦闘機は主力戦闘機として申し分なく、まして相手が飛竜騎兵などというものでは、相手にもならない。


 アーチャー・リード──スヴャトポールク・トリャスィーロは機体を飛竜騎兵の大軍に突っ込ませる。


『ガンズ、ガンズ、ガンズ』


 機関砲発射の合図とともにGSh-30-1機関砲が密集している飛竜騎兵を薙ぎ払う。


 ソーコルイ・タクティカルは単なる東側の兵器を運用する民間軍事企業というわけではない。彼らは東側の兵器を運用する軍隊を教導することもあるし、西側諸国の演習でアグレッサー部隊として戦うこともある。


 それに伴い世界基準となっている西側のやり方をほぼ真似ており、無線通信は英語が基本。コントラクターには英語は必須の他、アラビア語、ペルシャ語、中国語などの言語取得が求められている。


 NATO諸国の演習でもMiG-29やSu-27で第5世代戦闘機のF-35を撃墜判定に追い込むほどの技量の持ち主たちだ。飛竜騎兵など止まった的に過ぎない。


「応戦しろ! 敵の航空戦力を狙え!」


「速すぎる! 一体どうやって動いているのだ!?」


 トリャスィーロは飛竜騎兵を翻弄し、6機のMiG-29戦闘機は次々に目標を撃墜していく。6機2個編隊のMiG-29戦闘機は次々に飛竜騎兵に遅いかかり、飛竜騎兵は壊滅に追い込まれて行く。


「青の発煙矢だ……」


「撤退、撤退。攻撃中止」


 攻撃第一波の撤退とともに第二波、第三波も撤退していく。


 攻撃を受けた第一波以外の飛竜騎兵は何が起きたのかも分からずに撤退を強いられ、まだ見ぬ敵に怒りとともに恐怖を覚えた。


『敵ワイバーンの撤退を確認』


『アーチャー・リードよりコントロール、RTB。それからあのトカゲは5体落として1体撃墜判定とする』


『弾薬が勿体ないですね』


『次はガンポッドでも積んで挑むさ』


 トリャスィーロはそう告げると基地への帰還の途に就いた。


 そして、地上ではMiG-29対飛竜騎兵のワンサイドゲームを見つめていたものがいた。


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