航空基地を作ろう
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──航空基地を作ろう
戦闘機は当然ながら滑走路などの設備がなければ飛ばすことはできない。
だが、その点は問題なかった。スターライン王国抵抗運動には土魔術の使い手、ハーサンがいるのである。彼にかかれば、航空基地を整備することなど造作もなかった。
「そこに対空陣地。そこにレーダー基地。そしてここからここまでを滑走路」
「う、うむ。よく分からないが、分かった。攻すればいいのだね」
空軍を運用するのはそう簡単ではない。
レーダーは必要となるし、レーダーの情報を伝える通信設備は必要になるし、航空基地を守るための対空砲を設置する陣地も必要だし、航空機を爆撃や砲撃から守るバンカーが必要だし、当然ながら滑走路は必須だ。
ハーサンは鮫浦が指示を受けていた図面の通りにハーサンを動かし、各種設備を設置していく。対空陣地のための塹壕を作り、バンカーを作り、滑走路を整備する。
「おおーっ! 本格的な航空基地ができてる、できてる」
バンカーはコンクリート製で155ミリクラスの砲撃には耐えられる。つまりは大規模魔術攻撃が仮にこの航空基地に到達したとしても、航空機は無事。
さらに鮫浦はちゃんと考えていた。
「いいかな、天竜大尉。ここは大規模魔術攻撃は届かない。それに飛竜騎兵の航続圏外でもある。そのことは鮫浦殿が地図を使って説明してくれたから分かっているつもりだ」
「ええ。社長がしっかり調べましたからね」
鮫浦はこれまで飛竜騎兵が目撃された範囲と大規模魔術攻撃が着弾した位置をまず調べた。それから斥候の偵察によって判明している飛竜騎士団の基地と歩兵師団の基地。その両方を確認した上で、大規模魔術攻撃の射程圏と飛竜騎兵の航続距離を割り出した。
大規模魔術攻撃の射程は20キロ前後。ワイバーンの作戦半径は250キロ程度──ただし、不整地離着陸能力やVSTOL性能を有する。そう予想された。そして、その両方の射程外、作戦半径外に航空基地を整備した。
「だけれど、こんな後方に基地を設置して、我々の攻撃はドラゴニア帝国に届くのか? 我々はまだ戦闘機という武器について知らないが、ここまで離れていては敵陣地の上空に到達できないのではないか?」
ハーサンが分からないのはこの点だった。
仮に敵の攻撃が届かなくても、こっちの攻撃も届かないのではないかという問題だ。確かにここは敵陣地から400キロメートル後方と飛竜騎兵も大規模魔術攻撃も届かない位置で安全だろう。だが、そうであるが故に自分たちの攻撃も届かないのではないかと思わされるのだ。
「ご安心。我々が提供する戦闘機──MiG-29──近代改修化キット適応済み──では、その最大航続距離は通常状態で2100キロ。さらに増槽という燃料を増やすための装備をつけたものでは、2700キロの最大航続距離があります。ここから敵陣地まではそれこそ、隣の店に買い物に行く気分で行けます」
「に、2100キロ!? そ、そんなにも長く飛べるというのか。信じられない。400キロなんて本当にすぐそこだ。もちろん、敵陣地上空で戦闘を行い、帰るということを考えるならば1000キロ程度になるだろうけど、それでも驚異的だ」
ワイバーンの軽く4倍の作戦半径。
飛竜騎兵と違って、これほど大規模な空軍基地が必要になるが、それでも航続距離は抜群に長い。自分たちの基地から敵を完全にアウトレンジで攻撃できる。
「次は榴弾砲陣地作りましょう。こっちは射程は向こうより短いですからね。用心して設置しましょう。航空機による攻撃よりも砲兵による攻撃の方が持続的で、徹底して目標を破壊できるから砲兵は必須なんですよ」
「ううむ。平民、いや魔力のないものたちでも少人数で大規模魔術攻撃並みの射程が出せるだけでそれは凄いことだと思うのだが」
「こっちは物量で敵に負けているので、勝負は質で、ですよー。可能な限り、少人数で、それでいて敵よりも効果の発揮できるものを投入しないと、負けちゃいますからね。ご安心を。我が社の兵器は信頼と実績あるものばかりです」
「ああ。それは疑っていない」
それから敵陣地まで14キロの地点に榴弾砲陣地が設置される。
敵陣地との最前線は敵陣地から9キロの地点にまで徐々に前進した。敵地上軍は陣地に籠り切りで威力偵察もあまり行われず、動きがないため、飛竜騎兵の動きが鈍り、逆に飛竜騎兵に対して暗視装置により一方的な攻撃が見込める夜間に前線を密かに推し進めていた。だが、あまり前進しては後方の兵站基地からの補給が難しいとして、今の地点で停止している。
砲兵陣地で運用する火砲は決まっている。東側のものだ。
射程は15キロから27キロ。敵の陣地をすっぽりと包めるようにしてやや開けた場所に陣地は設置された。砲兵用のカモフラージュネットが支給され、砲兵陣地は隠される。
弾薬庫もコンクリート製のものが設置され、いつでも砲兵が配備できる状況が整った。砲弾は既に支払われたピンクダイヤモンドによって運び込まれ、弾薬庫に蓄積されて行く。間違っても敵のでたらめな大規模魔術攻撃の標的とならないといいのだが、と天竜は思うのであった。
そうして航空基地と砲兵陣地の整備が整うと、天竜は弾薬を運んだMTVR輸送トラックで倉庫に戻る。丁度、その時鮫浦からの着信があった。
「はいはーい。今日も元気な天竜ちゃんでーす」
『天竜。向こうの了解が取れた。レーダーと火砲を運び込んでおけ。まずはレーダーだ。扱い方はメモを残してあるから分かるな?』
「了解! けど、社長……。この細腕に力仕事を任せるのはもはやパワハラですよ」
『うるせえ。元特殊作戦部隊のオペレーターが細腕とか嘘ついてんじゃねーぞ。滅茶苦茶筋トレしてるだろう、お前。まあ、設置するのはまず牽引式の対空レーダーだけでいい。火砲は専門家の意見を聞いてから、入念に設置方法を決めたい』
「了解っす。では、仕事に取り掛かりまーす」
『おう。俺とサイードも2、3日中には帰るからな。少し待ってろ』
そう言って鮫浦からの着信は切れた。
「いよいよ来るわけですね。本格的な民間軍事企業が」
天竜も、サイードも、マクミランも、グッドリックも鮫浦が個人で雇ってる護衛に過ぎない。確かに扱う物からしてボディガードというよりも民間軍事企業のコントラクターといった方がいいだろうが、鮫浦のM&M貿易は民間軍事企業ではなく、あくまで商社である。扱うものが自動小銃から戦闘機までの商社なだけで、一般企業だ。
だが、次にここにやってくる集団は本物の民間軍事企業のコントラクターたちだ。
彼らは戦闘機を操り、火砲を操り、戦車を操る。現代兵器──特に東側の兵器のプロフェッショナルだ。
「いよいよ戦争も本格化。そうです、そうです。銃、対空火器、MANPADS程度で満足されては困ります。ここにある兵器はちょっとした小国を完全武装させる程度のもの。銃、主力戦車、歩兵戦闘車、装甲兵員輸送車、戦闘機、羨望爆撃機。ありとあらゆるものが揃っているんです。これらを全部ピンクダイヤモンドに変えて……。ふひっ!」
大儲け、大儲け。8億ドルもの東側の武器が10億ドル、15億ドルに変わる。
そこから民間軍事企業のコントラクターたちを雇う金を出してもばっちり儲かる。
「楽しみ、楽しみ」
天竜は鼻歌を歌いながら、野戦対空レーダーの設置に向かった。
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