ゲリラ戦のお供に

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 ──ゲリラ戦のお供に



 朝一番に鮫浦は出発して、合流地点に向かった。


 合流地点では早朝にもかかわらず、ティノとハーサン、そしてフロックがいた。


「お待たせしました、皆さん。お求めの商人を持ってまいりました」


「おお。その木箱の中身がそうなのだろうか?」


「ええ。その通りです。では、ご購入前の定番のパフォーマンスをいたしましょう」


「よろしく頼む。ここ最近、再び飛竜騎兵が活発化し始めた。こちらが対空砲を上手く扱えていないのを分かっているようだ」


 それは好都合。武器を売り込むには敵がいなければなと鮫浦は心の内でほくそ笑んだ。全く俺たちはまさしく死の商人じゃあないかと鮫浦は思うのであった。


「それからこちらは女王陛下に。戦場を歩かれる女王陛下には役立つ品かと」


「ふむ?」


 鮫浦はロシア軍横流し品のデジタルフローラの迷彩服とヘルメットを手渡した。


「それでは参りましょう。この兵器が配備された暁には敵の飛竜騎兵は全滅することでしょう。空はあなた方のものです!」


「期待している。行こう、鮫浦殿」


 そして、鮫浦たちは木箱を抱えて、スターライン王国抵抗運動の陣地に向かっていく。木箱は抵抗運動の兵士たちが運び、天竜とサイードが監督した。


「女王陛下。鮫浦殿が新しい兵器を」


「待っていました、鮫浦殿。どうか私たちに新しい武器を見せてください」


 ハーサンたちが膝をつくのに、鮫浦も膝をつく。


「はい。こちらは携帯式防空ミサイルシステム──MANPADSと呼ばれるものです。これはこれまでの銃や対空砲とは異なり、目標を照準すれば自動的に相手を追尾して撃墜するというものでございます」


「何を馬鹿なことを。魔術も使わずそのようなことが可能なはずがない。魔術ですら自動的に相手を追尾するなど不可能。まして、魔力のない平民の扱える武器にそのような機能が備わっているものか。女王陛下、騙されてはなりませんぞ」


 鮫浦が説明するのに、イーデンが鼻で笑い、シャリアーデにそう言った。


「では、パフォーマンスをご覧ください。サイード、やってくれ」


「了解、社長」


 上空を再び飛竜騎兵が飛び始めている。対空陣地のほとんどは破壊されるか、破壊されることを恐れて沈黙しており、飛竜騎兵はまた無差別航空攻撃を行っていた。


 サイードはMANPADS──ロシア製の9K38イグラ携帯式防空ミサイルシステムの照準を飛竜騎兵に定めロックオンするとミサイルを放った。


 対空ミサイルは何の妨害を受けることもなく飛竜騎兵に迫り、それに気づいた飛竜騎兵が回避機動を取るも対空ミサイルは目標を追尾し続け、飛竜騎兵に肉薄し炸裂した。騎手とワイバーンの両方が致命傷を追い、墜落していく。


 鮫浦たちを除く全員が呆気に取られていた。


 確かに対空ミサイルは目標を追尾した。だが、どうやって? 魔術も使わずにどうやってそんなことが可能になるのだ? あり得ない!


 古参貴族たちは困惑するばかりだった。


「魔術だ。魔術を使っているに違いない。これは魔道具だ。そうなのだろう?」


「いいえ。魔術など一切使っておりません。試しに……フロック曹長!」


 フロック曹長が再び呼ばれる。


「サイード曹長に撃ち方を教わってあの飛竜騎兵を撃墜してみてください」


「分かった」


 フロックはサイードたちは魔術師ではないことを確信している。もう彼に躊躇いはない。サイードから撃ち方を教わり、サイードの言う通りに目標を照準し、対空ミサイルを発射する。


 イグラ対空ミサイルは湾岸戦争でイギリス空軍機を撃墜した記録もある兵器だ。実績がある兵器というものはいい。顧客が信頼するのでよく売れる。


 ここでも実績を作り、売り上げを伸ばさなくてはと鮫浦は思った。


 そして、フロックが対空ミサイルを発射する。先ほどと同じように対空ミサイルは目標を追尾し、逃げようとした飛竜騎兵を捉え、凄まじい速度で肉薄すると、炸裂した。飛竜騎兵がまた1体、地面に向けて墜落していく。


 誰もが呆気に取られていた。平民が扱えたのだ。魔術師たる貴族でも成し遂げられなかったことを成し遂げたのだ。平民たちはついに歓喜の声を上げ、若手貴族たちは新しい時代の到来と勝利の予感に身震いし、古参貴族たちはただただ恐怖する。


「スターライン王国万歳! 女王陛下万歳!」


 万歳の声がこだまし、鮫浦は満足そうにそれを聞いていた。


「鮫浦殿。これをあるだけ買い取りたいと思います。報酬はいつものもので?」


「ええ。それで結構です。もし足りなければ取り寄せましょう」


 地球では旧式の部類に入るイグラ対空ミサイルがピンクダイヤモンドに化けるなんて、他の武器商人が知ったら殺到するだろう。これは絶対に内緒にしておかなければならないなと鮫浦は思った。


「陛下。鮫浦殿より陛下へと」


 そこでハーサンが迷彩服とヘルメットを差し出す。


「これは……」


「な、なんだ、この染みだらけの服は! このようなものをよくも陛下に差し出せたものだな! 商人としての誇りはないのか! このようなみっともないものを献上品にするなど論外である!」


「いえ。メテオール候。違います。これは地形に溶け込む模様。そうですね?」


 おやおや。女王陛下は側近が必要ないほど頭が冴えておられると鮫浦は思った。


「その通りです。これは迷彩服と言いまして、周囲の地形に溶け込み、発見させることを防ぐという効果があります。まずは女王陛下にサンプルをと思いまして。ドレスでは泥の弾った塹壕などを歩くときに苦労されるでしょう」


「ええ。これならば気になりません。これも銃と同じく全軍に配備したいと思います。可能でしょうか?」


「可能です。取り寄せましょう」


「それからこの兜も機能的です。これも全軍に」


「畏まりました」


 こりゃぼろ儲けだなと内心で笑いが止まらない鮫浦。


「皆の者! また戦いが始まります! 新しい武器を一日も早く使いこなし、敵の飛竜騎兵を祖国の空から駆逐するのです! 勝利は近くにあります! さあ、戦いましょう! ともに勝利に向けて!」


「王国万歳! 女王陛下万歳!」


 チャーチルもびっくりの戦時指導者だ。これから迷彩服を着てヘルメット被り、戦場に出るならば、それこそ正真正銘の兵士を鼓舞する指導者だ。


 だが、死なれては困る。シャリアーデが死んでしまうと、次の交渉相手はあの頭に脳みその代わりにクソでも詰まってるんじゃないかと思われるような宰相が相手になる。女王陛下には身の安全にも気を配って貰わないとなと鮫浦は考える。


「サイード。お前の昔のコネで元SASの連中を2、3人雇いたいんだが」


「当たってみます」


「頼んだ」


 サイードは鮫浦が所属していた民間軍事企業から高給で引き抜いた経緯があるが、サイードは今も元SASの連中とコネがある。女王陛下の護衛に元SAS隊員をつけておくというのは悪いアイディアではないはずだ。


 天竜の方は無理だ。彼女は鮫浦が日本情報軍を除隊する際に一緒に引き抜いて来たからだ。日本情報軍は今でも鮫浦を憎んでいる。優秀な特殊作戦部隊の隊員を引き抜かれて、いい気分のする人間はいない。


 だから。サイードの方に元SASを当たってもらう。


 護衛の給料はこの際鮫浦が払おう。これもまた顧客サービスだ。


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