テロリスト御用達
……………………
──テロリスト御用達
ムリース・ツー・コリーニ中将はヴァルカの予想通り、ドラゴニア帝国中央に呼び出された。その間、第601飛竜騎兵師団は休憩というわけにも行かず、何かしらの作戦行動を行うことになった。
「私は考えたのだ。敵が射程外から攻撃してくるなら我々も、と」
ムリースが呼び出されている間、副司令官のジャス・ツー・オズボーン少将が第601飛竜騎兵師団の指揮を取ることになった。
「少将閣下。こちらも射程外からとは? 過去に飛竜騎兵による火炎樽での攻撃の経験はありますが、あれも高度は500メートル、高くて800メートルでした。その高度でも敵は我々を遠距離から撃墜してくるのです」
「航空攻撃は考えていない。第10歩兵師団と共同で大規模魔術攻撃で敵の対空攻撃を行っている陣地を叩くのだ」
ジャスが作戦内容を説明する。
まず航空偵察部隊が敵の対空陣地を昼間飛行にて確認する。
その位置と座標を地図に記し、第10歩兵師団の魔術連隊に通達する。
完全に敵の射程圏外と思われる位置から弾着を観測し、敵の対空陣地を潰す。
確かにこれならばアウトレンジで敵の対空陣地を破壊できる。最初の偵察飛行で飛竜騎兵は撃墜されるだろうが、もはやその損害も含めての作戦だ。既に1個大隊がやられているのだ。この際、数体が犠牲になって1個大隊の報復ができれば安いもの。
「危険な任務になるため任務は志願制とする。志願するものだけ前へ出よ」
全員が前に出た。まだドラゴニア帝国陸軍の士気は高い。そして、ちゃんと統率されている。彼らは任務を果たすだろう。
「志願に感謝する。諸君らの健闘はドラゴニア帝国軍史に刻まれるだろう。出撃!」
そして、偵察飛行大隊が3個の中隊に別れてスターライン王国抵抗運動の支配する南東地域上空を飛行した。誰もが死を恐れてはいなかった。誰もが任務果たせず、おめおめと帰還することだけを恐れていた。
「赤の発煙矢!」
「敵の対空陣地を発見! 記録しろ!」
位置が速やかに記録される。
偵察飛行部隊に向けて対空砲が火を噴き、口径23ミリの曳光焼夷榴弾が飛竜騎兵の相棒であるワイバーンを物言わぬ肉塊に変える。偵察飛行部隊は直ちに引き返し、自分たちを攻撃した“悪魔”の位置を報告。第10歩兵師団に連絡が届く。
そして、対空陣地への大規模魔術攻撃は速やかに行われた。
飛竜騎兵1体が警戒しながら飛行する中を、大規模魔術攻撃が大地を抉って着弾する。飛竜騎兵は直ちに修正射撃を要請し、対空陣地を捉える。そして、効力射が対空陣地を襲った。85式対空砲は破壊され、操作していた兵士も死亡する。
このような攻撃が繰り返され、第601飛竜騎兵師団も、スターライン王国抵抗運動も損害を出し続けることになった。
「まあ、近いうちにそうなるだろうことは予想できたわな。こっちには榴弾砲がなくて、向こうには大規模魔術攻撃とかいう遠距離攻撃手段があるんだ。対空陣地だって犠牲を覚悟で確認すれば、砲撃で潰される」
いくら塹壕で守っていようとも、と鮫浦は言う。
「どうするんです、社長? 絶対文句言ってきますよ」
「俺がここ数日遊び惚けていたとでも思ってるのか? まあ、確かにクラブで豪遊したり、お高いお姉様たちと遊んじゃいたがな。こいつを見ろ」
ばさっと鮫浦が覆いを被せてあったものを見せる。
「ああーっ! 社長、社長! これってそういうことですよね!?」
「そういうことだ! こいつを売りつけるぞ! 代金はピンクダイヤモンドで!」
「わーい! 天竜ちゃん、ピンクダイヤモンド大好き!」
鮫浦が提示した兵器というのは──。
「鮫浦殿! 対空砲を追加発注できないだろうか! 次々に撃破されてしまい……」
ハーサンが顔面蒼白でそう訴える。
「ご安心を。今回の教訓は動かないものにはいずれは攻撃が降り注ぐというものでしたね。では動き続ければどうでしょうか?」
「ああ。陣地転換というものだな。我々は軍馬の数が不足しており、なかなかそのようなことは難しいのだ。撤退の際に軍馬をほとんど放棄してしまった」
「いえいえ。軍馬はこちらで準備させていただきます。これが我が社の軍馬です!」
エンジン音を響かせて登場したのはピックアップトラック──に85式対空砲をマウントしたものだった。
そう、テロリストから軍閥まで御用達のテクニカルだ。
「こ、これは?」
「自動車というものです。マース子爵もトラックはご覧になったでしょう。あの機械と同じ分類のものです」
「あー! あれか! あれが小さくなっているのだな。そうか。これで動き回りながら射撃すれば、位置は特定されない。陣地転換の必要性がなく、軍馬も必要ない」
「その通りです。女王陛下に是非ともご購入のご提案をなされてください」
「分かった! すぐにお伝えしよう!」
ハーサンはすぐにと言ったが、正規の手続きを踏んで女王に謁見するのは時間がかかる。だが、途中で事の重大性に気づいたシャリアーデが古参貴族たちの妨害で止まっていたハーサンの訴えを聞き、鮫浦からのテクニカルの購入を決定した。
「まずは自動車教習だ。頼むぞ、天竜、サイード」
「これも給料のうちですか?」
「特別報酬を出してつかわそう」
「いえいっ!」
天竜とサイードはスターライン王国抵抗運動に自動車教習を行いテクニカルの基本的な操縦方法を教えた。期間は1週間。その間にも対空陣地には被害が出ており、彼らは必死で自動車の運転技術を身に着けた。
そして、ついに──。
「赤い発煙矢!」
「敵対空陣地を発見! 座標──」
対空陣地を発見した飛竜騎兵が位置を記そうとしたとき、突如としてワイバーンが弾け飛んだ。だが、彼らも対空陣地からの攻撃が直線であることには気づいており、回避機動を取る。だが、そこでさらに被弾したワイバーンが現れる。
「他にも対空陣地がある!」
「確かめろ!」
飛竜騎兵が高度を落とす。
「あ、あれはまさか!」
彼らはテクニカルから砲撃する対空砲を発見した。
「馬車の荷台に乗せて射撃を行っている! 捕捉は不可能! ひとりでも帰還して、このことを司令部に伝えるんだ! 急げ!」
テクニカルに追い散らされる形で飛竜騎兵は撤退した。
「やったぞ!」
「すぐに移動だ! 移動しろ! 大規模魔術攻撃が来るぞ!」
テクニカルはその機動力を活かして、森の中を機動する。
これで飛竜騎兵の脅威はなくなった──かに思われた。
だが、まだまだ問題点は残っていた。
主に地形の問題だ。
……………………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます