勝利もつかの間
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──勝利もつかの間
ドラゴニア帝国陸軍による無差別攻撃が始まった。
「塹壕! 塹壕に退避!」
命令が下され、銃の訓練中だったスターライン王国抵抗運動の将兵たちが塹壕に飛び込む。
上空からワイバーンのブレスが放たれ、地上の森を焼く。だが、今は雨期が終わったばかり。湿った木々に火は回らず、攻撃は限定的なものとして終わった。
「畜生。撃ち落してやる」
「やめろ。当たらない」
血気盛んな兵卒を下士官である元衛兵たちが押しとどめる。
残念だが、今のところ800メートル近い上空を高速で飛行する飛竜騎兵を撃墜する手段はなかった。80式汎用機関銃ならば弾幕を展開できるだろうが、兵士たちにはまだまだ移動目標を攻撃するほどの腕はなかった。
「畜生。いつか叩き落としてやる」
ティノは忌々し気に空から無差別攻撃を行うワイバーンを見つめていた。
「対空攻撃兵器があると聞きましたか、女王陛下はまだ購入を?」
フロックが塹壕から頭を出して尋ねる。
「考えておられる。今のところは本当に嫌がらせ程度でしかない。だが、乾季を迎えて森の木々が燃えやすくなると、飛竜騎兵のブレスは危険だ。それに今のところはまぐれ当たりしてないだけで、連中も有効射程外と分かっていても、まぐれ当たりを出すかもしれない。女王陛下にはもう一度直訴をしてしまった。二度目があれば女王陛下も俺を処分せざるをえないだろう」
「少佐殿がいなくてはなりません。銃の有効性と戦術を伝えるには」
「分かっている。だが、歯がゆいものだ。きっとこの銃を作った国だ。対空攻撃の手段も凄まじいものだろう」
まだ見ぬ対空火器にティノは希望を抱いた。
その頃、鮫浦たちはと言えば──。
「あれまー。滅茶苦茶やってますね」
「ここが森でよかったな。人口密集地だったりしたら、あの精度でも地獄絵図だったぞ。けど、そっちの方がよかったか? ケツに火がつかないと人間ってのはなかなか動かないものだからな」
「社長、残酷ー」
「うるせえ。こちとらこの武器の山を片づけたいんだよ。俺たちは銃以外にも武器をたっぷりと抱えているんだ」
鮫浦たちは倉庫の裏のゲートから飛竜騎兵による無差別攻撃を眺め、続いて倉庫の中に目を向けた。そこには東側の
次は対空火器を売るというのは鮫浦の狙いだった。
騎兵も、歩兵も排除された。塹壕と自動小銃、機関銃を前にしてはまだ銃火器の普及しない時代ごろの武装では相手にならない。仮に相手がマスケットを持っていて、戦列歩兵を送り込んできても結果は同じだっただろうが。
例の防護のエンチャントとやらも、銃弾を防ぐほどではない。
となると、次に脅威になるのは空飛ぶ連中、飛竜騎兵だ。厳密にはドラゴンではなく、ワイバーンというそうだが、いずれにせよそいつらは機関銃の銃弾すら弾き、それでいて銃の有効射程圏外から無差別に攻撃を浴びせられる。
「最近はドローンうやらなにやらで対空防御が重視されてきたから、中東のあのクソ将軍も対空火器多めと発注しておきながら、取引を破談にしやがったんだたもんな。どうやってでも連中に対空火器を買わせる。それから対空ミサイルもだ」
「おー! でも、具体的には何するんです?」
「待つ! 果報は寝て待てというだろう。このまま戦局が膠着状態のまま過ごすのか、それとも祖国奪還に向けて動くのか。そこら辺を今、話し合っているところに違いない。祖国奪還に動くならば、航空優勢の確保と機甲戦力は必要だ。武器が売れるぞ」
「膠着状態のまま、相手が消耗するのを待つ場合は?」
「あー。まあ、なんかあるだろ。司令部が流れ弾を受けるとか。それでケツに火が付けば、どうあっても俺たちから武器を買うことになるはずだ」
「悠長ですねー」
「仕方ないだろ。まだ向こうは銃についてすら完全に飲み込めてないんだ。焦らず着実に、だ。押し売りして、向こうの信頼を損ねたらピンクダイヤモンドがパーだぞ。これだけのクソみたいな在庫がピンクダイヤモンドに変わるチャンスを台無しにはできん」
「そうですねー。売るなら相手が欲しがるとき!」
そう言いながら、鮫浦たちは地上攻撃を繰り返す飛竜騎兵たちを眺めていた。
飛竜騎兵は相変わらず何を狙っているのか分からないような攻撃を繰り返している。森が少し焼けるがそれだけだ。ブレスは対人殺傷能力は高い部類に入るのだろうが、地球のナパーム弾やサーモバリック弾に比べれば子供の玩具。
それでも繰り返されたら嫌な攻撃には変わりない。
鮫浦たちが眺める中、夜にも攻撃が繰り広げられた。
「サイード。暗視装置」
「はい、社長」
「規模は小さくなったが、夜も眠らせないってのは考えたな。敵も結構頭が回るらしい。このまま心理戦に持ち込まれると脱走兵やら何やらが出始めて軍が崩壊するぞ」
「ええ。テロリスト相手にも通じる手段です」
サイードは元SASとして対テロ作戦にも従事しているし、心理戦も熟知している。
「問題はあの女王様とその側近がそれを理解しているかだ。これに気づかないような間抜けでは困るぞ。ちゃんと気づいて、対処してもらわないとな。そのためには対空火器を買うのがよろしいでしょう!」
「彼らに対空火器が扱えるでしょうか?」
「特に人材のいないテロリストにだって扱えるんだ。まして、早いとは言えど、現代の航空機に比べればずっと遅い目標だ。当たらなきゃ、おかしいって話だよ」
整備や兵站維持はまた別の問題になるだろうがと鮫浦は言う。
「いずれにせよ、もう少しばかり眠れない夜を過ごしたら、向こうも音を上げるだろう。こっちから申し出るまでもなく俺たちの抱えている武器を買い取りたいって言いだすはずだ。それから、だ」
ズウンと重々しい爆発音が響く。
「あの砲撃。あれも魔術なんだって? あれを止めるために敵陣地を攻撃する必要がでるはずだ。その時は榴弾砲が売れる。弾着観測用のドローンが売れる。ドローンを飛ばすための航空優勢を確保するための戦闘機が売れる!」
現代の兵器体系は複合して利用することで大きな効果を発揮するようになっている。野砲とドローンの組み合わせは猛威を振るったし、そのドローンを撃墜しようとする敵機を排除する戦闘機も必須だ。
「そんなにトントンと行きますかねー?」
「そこら辺は武器商人の腕の見せ所だな。まあ、まずはあの飛竜騎兵って奴の排除だ。頼むぞー。対空火器買ってくれー。それから対空ミサイルも買ってくれー」
スターライン王国抵抗運動はそれから眠れぬ夜を過ごすこととなった。
昼夜を問わず無差別に行われる飛竜騎兵の航空攻撃と無差別砲撃。
シャリアーデも空襲警報が鳴るラッパで知らされる度に地下に隠れることになり、スターライン王国抵抗運動はドラゴニア帝国の狙い通りに衰弱しつつあった。
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