売り上げ好調
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──売り上げ好調
“神の血”ことピンクダイヤモンドに買い手が付いたことを鮫浦はスマートフォンで聞いていた。最高で6000万ドル、それと同じような値段が5つで2億7000万ドルもの売り上げだ。それも東側のちゃちな銃火器を1個師団分程度準備しただけだ。
「ありがとう。手数料? ああ。構わん、構わんぞ。これからもっとデカいのが届くから客をワクワクさせておけ。イギリスの国宝も真っ青のダイヤモンドが届くからな」
鮫浦は笑いが止まらない状況だった。
「社長、社長。技術支援は無事に第一陣が成功しましたー」
「おう。ご苦労さん。こっちもダイヤの買い手が付いた。早速金が入ったから来月の給料に技術支援料として追加の報酬を加えてやる」
「イエーイ! ダイヤとカラシニコフの絶妙なハーモニー!」
「まるで1990年代に戻ったみたいだな、ええ?」
アフリカ諸国が内戦の真っただ中にあった時期、ダイヤモンドは取引材料になり、血塗れのダイヤモンドが売買されていた。軍閥はダイヤモンドで武器を買い、子供兵を動員して殺戮を繰り広げ、ダイヤモンドは西側諸国で給料3か月分として売買された。ダイヤモンドは永遠の輝きとは言ったものだ。
「それから社長、いいニュースです。顧客のひとりが戦車に興味津々です」
「戦車に目を付けたか。だが、こいつは運用するのに人を雇わなきゃならん。もっとダイヤモンドを売らねーとな! その金で民間軍事企業の連中を雇って、戦車がギャラギャラ、戦闘機がビュンビュンだ!」
戦争ってのは本当に儲かるぜと鮫浦はにんまりと笑う。
「でも、まずは手堅くいくんでしょう?」
「まあ、最初はな。銃火器でショックを与えたところに、もう一撃ほど連中の扱える武器を与えておきたい。それで確実に信用を掴み、いずれはもっと大規模な取引を、だ。俺としては与えるインパクトとして大きい、飛竜騎兵というドラゴンを撃ち落す兵器を供与したいと考えている」
「まあ、まずは銃火器の扱い方を覚えてもらわないとですねー」
「そう、そこからだ。それから敵が攻めてきてくれれば最高なんだけどな。今は1個大隊だっけ。それだけだろ。これからもっと銃火器を手に入れようと必死になるように敵にちょいちょいと攻めてきてもらいたい。成功経験がつけば、武器は信頼性を増し、より多くの武器が売れるって寸法よ」
そう言いながら鮫浦はMTVR──アメリカ海兵隊とアメリカ海軍が使用している6x6輪駆動の輸送トラックを見る。武器の売却が決まってから、武器を運ぶために新たに中古市場から購入したものだ。2両ある。
「もう1個大隊。工兵大隊が導入に意欲を示しています」
「そうか。サイード、天竜と一緒に頼むぞ」
「はい、社長」
サイードが頷く。
「じゃあ、社長。追加発注分、早速運びます?」
「飯食って、シャワー浴びて、寝てからでいいぞ。お前たちも銃火器の指導で疲れただろう。ゆっくり休んどけ。飯は冷蔵庫にデイバリーのピザが入ってる。好きなだけ食え」
「わー。社長が優しい。何かの病気だ」
「馬鹿言え。景気がいい時は人は寛容になれるんだよ。金があれば寛容になる。戦争が起きるのは金がなくて余裕がないからだ。世の中の大抵のことは金があれば解決できるってもんだぜ」
鮫浦は気分上々だった。
これほどぼろい商売もない。相手は馬鹿みたいに希少価値のあるピンクダイヤモンドを大量に持っていて、こっちはいらない在庫兵器が8億ドル分。これから上手くやれば10億、いや15億ドルか稼げるのではないかと思われる。
差額はすっぽり利益として鮫浦のポケットの中。儲かる。実に儲かる。
「神はいる。そして、武器商人を祝福してくれている」
それでも鮫浦は心配だったので、裏のゲートは少しだけ開けておくことにした。いざ次にゲートを開いたとき、同じ場所に繋がらないのは困る。
だが、次の日もゲートはちゃんと異世界に繋がっていた。
「行け! 今日も武器をデリバリーだ!」
「了解」
MTVR輸送トラックで大量の銃火器をスターライン王国抵抗運動に運ぶ。
「ああ。来てくれたか、鮫浦殿!」
「何やらきな臭い雰囲気ですな。どうされました?」
「斥候が敵が攻撃準備に入ったことを確認した。今、大急ぎで陣地を構築している。その、武器があるとありがたいのだが……」
「もちろん、持ってまいりましたよ。2個大隊が完全武装できるだけの武器です。ささっ、代金は受け取っておりますのでお受け取りください」
ドラゴニア帝国の馬鹿野郎どもに乾杯! 敵は思った先から攻撃を仕掛けてきてくれやがった! 最高の気分だ! 鮫浦はほくそ笑む。
「ありがたい! あなた方の貢献は歴史に記されるだろう! おい! 武器を運べ! 急げ、急げ! ドラゴニア帝国はいつ攻撃を仕掛けてくるか分からないぞ!」
「了解、少佐殿!」
2両のトラックから兵士たちが武器を下ろして運んでいく。弾薬もたっぷりとある。2個師団が攻めてきても足止めできるだけの量の弾薬だ。
「銃火器の訓練はちゃんとできてるんだろうな?」
「できてますよー。分解整備まではまだですけど。でも、カラシニコフがまず動かなくなることなんてないでしょ?」
「ああ。中国製だろうとな。ばっちりだ。これで成功してくれよ……」
鮫浦は敵の進行を喜ぶ反面、迎撃に失敗したら武器の信用が落ちることを心配しだした。なんとしてもティノとハーサンには迎撃に成功してもらわなければならない。
「ティノ少佐殿。敵の進軍経路などは予想できるのですか?」
「ああ。この間威力偵察が行われた場所が頻繁に狙われている。騎兵にはそこしか通れないらしい。それからこちらの斥候が歩兵部隊が別のルートから侵攻しようとしているのを確認してる。そちらも纏まった戦力が機動できるルートは限られる」
「では、心配することはありませんな。念のため私の部下たちも参加させましょう」
「おお。それは心強い。是非とも天竜大尉とサイード曹長には参加してもらいたいと思っていたところなのだ」
ティノが喜びの表情を浮かべる。
「さあ、蹴散らしてこい。天竜、サイード。俺も観戦しておくからな」
「もー。社長ー。死んだらどうするんですか?」
「お前は未だに鎧付けてお馬さんでぱかぱかやってる連中に殺されると思ってるのか? それはないだろう?」
「へへーっ! まあ、任せといてください!」
天竜はサイードを連れて、ティノと行動を共にすることになった。
「ここにおられましたか、鮫浦殿」
「これは女王陛下。武器については早速引き渡しを始めておりますよ。技術指導も行ったところです」
こんな前線になるかもしれない場所に女王が出て来て大丈夫なのかよと鮫浦は悪態を吐いた。この女王が死んだら、あの話の通じない馬鹿年寄り貴族が取引相手になっちまうんだぞ? と。
「ティノ、ハーサン、フロックは我々が王都を脱出するときに活躍してくれた英雄たちです。彼らを信じています。そして、あなたの武器を信じています、鮫浦殿」
「それは大変光栄。ですが、ここは攻撃が予想されます。離れておかれた方がよろしいかと存じますが」
「ハーサンが塹壕を掘ってくれています。そこからこの望遠鏡で戦況を見守りたいと思います。できれば私も武器を取り、彼らとともに戦列に並びたいほどです」
「流石は戦時指導者ですな」
頼むぜ。死んでくれるなよと鮫浦は古今東西の神々に祈った。これを知ったら敬虔なクリスチャンであるサイードは嫌な顔をするだろうが。
『社長、社長。敵、来ました!』
「ぶち殺せ。さあ、女王陛下。敵の攻撃が始まりました。塹壕へ」
そして戦闘が始まった。
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