第19話 マーヴァミネ




「お主もそう思わんか?」


 俺にそう問うてくるのはマーヴァミネ──オトルスのトップだ。それに対して、俺は、なんとも言えない気分となる。


「お前に操られてて、可哀想だと思ったよ」


 彼女は、むしろ被害者だ。目の前のマーヴァミネに操られて、本当の自分の心も、感情も、全てを失って、そして、最後に死んだ。


 哀れで、無駄でしかなかったと、言いたくなる。


 ──あなたが殺したんですけどね。


 そうだな。けど、あの時はそうするしかなかった。あいつが、どんなやつで俺を、父親を殺そうとしたかなんて知ろうとも思わなかったしな。


 けど、あの時にそれを知っていたとしても、俺は同じことを間違いなくしただろう。


 人を殺そうとしたのだ。当たり前の結末だろう。


「そうか、確かにそういう見方もあるな。だが、私に言わせると、そうではない。やつは私に操られて幸せだっただろう」


「おいおい、マジで言ってるのか?」


「あぁ、神となる私に仕えてられて、彼女は天国で喜ぶことだろう」


 神となる、と壮大なことを宣ってきた。


「お主もそうであろう? お主も今まさに、神になろうとしているではないか」


 まるで、こちらのことを全て知っているとでも言いたげなセリフだ。


「お前は俺のなにを知っているんだ?」


「ほう……。気になるか?」

 

 彼は面白そうに、笑う。


「しかし、じゃ。お主はとても理不尽な力をしている。それで、わかると思うのじゃが?」


 ニヤニヤとしたり顔で言ってくる。あえて言わせてほしいが、とてもウザい。とってもウザい。


 マーヴァミネは俺がやつのことについて調べられていないことを知っていながら、そう聞いてきているのだろう。


 性格悪いとか言われたこと多そうだな(断定)。


 ── ……


 ん? どうしたオウラン。


 ──いえ、なんでもありません。


 どこか、呆れたような声色(念話なのにわかる)だ。


 なにを言いたいのか、俺にはさっぱりだ(すっとぼけ)。だが、スルーするべきだと、勘が言ってる。


「確かに、そうかもしれない。けれど、人の口から聞いた方が信憑性が増すだろ?」


 と、随分前から考えていた言い訳を言ってみる。自分の力では突破できないブラックボックスのようなものが存在していることは、知っていた。


 それは自分が完全な全能ではないからだろう。そして、また完全な全能になったとしても、オウランのいうことが正しければ、自分と同じような存在はいるのだ。


 つまり、自分と同じ力を持っている存在がいるのだから。この力が、結局はどこまで言っても完全な全能となることはないのだろう。


 視線の先では、俺の答えを聞いて満足気に笑っているマーヴァミネがいる。


「ふふふ、わからないと、そういえば良かろう」


「……ところで、そろそろナイオラを離したらどうだ?」


 俺はあからさまに話題を変えてみる。


「ん? む〜、確かに確かに、話すには邪魔じゃな」


 そう言って、マーヴァミネはナイオラを宙から落とした。いや、元々、込めていた力を無くしたのだろう。


 俺は、落下するナイオラをこちらへと引き寄せる。そして、すぐに彼女の家へと転移させた。桐沼がどうにかしてくれるだろう、と思いながら。


「さてと、なにについて話すんじゃったかな? 確か、お主がわしがなにを知っているのか、というところまでじゃったか?」


 面白そうに、こちらを見つめてくる。明らかに覚えている言動だ。挑発しているとしか思えない。


「わしはお主についてよく知っているとは言えんが、それなりには知っておる。お主がどこの誰でどんな力を持っていて、どこにいるか。わしはいつでも知れた」


 ストーカーかよと、突っ込みたくなった。だが、一応自重し口を挟むことを止める。


「それにしても、本当に、物事とはうまくいかんものだ。お主を亡き者にできれば、わしがここで手をわずらうことなどなかったというのに」


 笑みが消え、つまらなそうな表情が残った。


「そうか……」


 つまりは、戦わなければいけないと言うことだ。向こうは俺を殺す気満々で、あの時に死ねば万々歳だったのだ。しかし、俺が生きていたことによって、向こうは計画の修正をしなければいけなくなった、ということだろう。


「死ね」


 その言葉と共に、俺はエネルギーの奔流をマーヴァミネに叩きつけた。









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