第18話 ベラス
思考が加速しているのがわかった。父親が吹き飛ばされていないのではない。
俺が俺に仕込んでいた、防御機能が発動しただけだと気付くのに、体感で5秒かかった。
首をゆっくり動かす、背後には俺を背中から刺客。顔はフードで覆われて、わからない。
けど、そんなことはどうだってよかった。
防御機能の迎撃機能を強化する。向こうが、何かを懐から取り出すより速く、エネルギーの奔流でもって、細胞一欠片も残すことなく、吹き飛ばす。
もちろん、その時に相手の記憶を奪うことも忘れないでおく。力を阻害されるようなものを感じたが、無理矢理やる。
そして俺は『彼女』の記憶を手に入れた。
そして、その記憶を精査する前に、傷の回復を行う。まず、父親の方から刃を引き抜き、傷口を塞ぎ、治す。
しかし、力がうまく発動しない。何か、いや、この刃に込められた力に阻害されているようだ。
その、力をねじ伏せて、取り除き、回復させた。
そして、自分の胸に刺さったままにしていた刃を引き抜く。そして、同じように、力を取り除きながら回復させる。
いつも以上に、力を消耗した。
──それ以上力を使うと負担がかかりますよ?
それでも、『彼女』の記憶は見ないといけない。
脳内に、莫大の記憶が、感情が流れ込んでくる。
そして、『彼女』の感情の起伏のなさ、そして、彼女が洗脳されていたことを理解する。
『彼女』はオトルスのトップである『マーヴァミネ』にっとっての都合のいい駒でしかなかったのだ。
『彼女』はベラスと言う名であった。フェリの一員であった両親を持つも、二人はオトルスと戦い、当時2歳であったベラスは両親を失う。
ベラスの両親と深い親交のあったジェイソン・パウエルは、彼女のことを不幸に思い、育てることにするが、オトルスの襲撃にあった時、ベラスは一人取り残されることに。彼女の力に目をつけたのはその時の襲撃者を率いるオトルスの幹部だった。
幹部は、ベラスを連れて帰り、洗脳をしてオトルスの一員にしようとした。途中までは上手くった。しかし、その幹部が亡くなったことによって、彼女はマーヴァミネの配下に加えられることになった。
ベラスは、素晴らしいことに、魔道具の力を増幅する力を持っていた。それに目をつけたマーヴァミネは、彼女を自ら育てることにした。
そして、彼女は組織でもトップクラスの力を持つまで至った。マーヴァミネはその力を確かめるため、幾つもの任務を彼女に行わせた。
フェリも、彼女が壊滅させた。自らの手で、育て親たるジェイソン・パウエルを殺した。それも、とても巧妙に隠し、『俺』にも気づかないような魔法を使って。
魔神を殺した『神殺しの剣』を彼女に渡し、『鬼崎駿翠』と可能なら『鬼崎一郎』を殺すように言い渡す。
──実際、『神殺しの剣』は恐ろしいほど殺意に溢れた剣だった。相手の肉体の崩壊、精神や魂の分解から始まり、それらが効かなかった時の呪いを含んだ猛毒、相手をとにかく死へと追いやるために創意工夫されたものだった──
そして、マーヴァミネは鬼崎一郎にメールを送り、いくと決まった日に、邪魔なナイオラを呼び出し、亡き者に────
「行くぞ」
──そうですね。桐沼さんはどうするんですか?
置いてくしかない。
──それもそうですね。
俺は、ナイオラがどこにいるか調べる。
けれど、地球のどこを探しても見つからない。
そして、しようがないので、俺の力を欺いている場所を探す。
そして、それは意外とあるのだ。
特に神への信仰が強ければ強いほど、その力は強固になり、全能でも暴けない。
──ナイオラの転移から割り出せばいいのでは?
それだ!
俺は、急いでナイオラが使った転移陣の情報を割り出す。
場所は、すぐにわかった。
それじゃあ、行くぞ。
──はい
そうして、俺は転移を発動する。
そこは、混沌とした風景だった。
溶岩の大地、息を吸うだけで、普通の人なら咽喉が焼けるような、そんな有様。
その上に、一人の老人と、ナイオラがいた。
力つき、宙ぶらりんとなっているナイオラ。彼女が死んでいないのは、目の前の老人がそうしているから。
けれど、老人は決して善意でナイオラを宙に浮かしているのではない。それが、俺にはわかった。
「おや、あやつは失敗したのか。あそこまでお膳立てしてやったと言うのに」
その老人を、俺は彼女の記憶で見ていたからだ。
「お主もそうは思わんか?」
俺にそう問うてくるのはマーヴァミネ──オトルスのトップだ。
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