第15話 鬼
魔力で木刀を覆っているのは、俺を殺さないためか。
そんなことを思っていると、木刀がもう目の前に迫っている。
振り下ろされた時の空気を切る音が「ヒュン」と鳴り、「ガギン」と音を立てて、空中で止まる。
肉薄してきた父親の驚いた表情がよく見える。しかし、驚いたのも束の間、木刀を強く握りしめ、連打。
ガガガガガガガガガ
と、鼓膜を震わす。
もはや、木刀には破壊することを目標にしかしていない。先ほどまでは威力を高めないようにしていたと言うのに、切り替えが速いのは普段から戦闘に慣れているからか。
「それじゃあ、効かないよ」
少し、煽りも兼ねた事実を口にすれば、憎々しげな表情を見せてくる。
実際、俺の使っている防御は全能の力で俺の周りの空間を固定しているのだ。空間を固定すれば、その固定された空間に作用できる力を持っていなければ攻撃を俺に与えることは不可能。純粋な魔力や力でこれらを突破するにはそれなりに時間がかかる。戦闘中に、これを破壊することは一流どころでも厳しいのでは? と我ながら自画自賛している。
──前使っていた絶対防御の結界とかやらないのですか?
あぁ、あれね。あれ壊すの、無理じゃね? いま舐めプしたいから。それに、なんか、嫌な気配がするんだよな。無駄に力を消耗したくない。
今の俺は全能の一歩手前であって全能そのものではないのだから、一日に使える力にも限界があるのだ。力を使い過ぎれば身体や魂に悪影響が出る。けれど、力を使わなければ全能の力が完全になるには長い時間が必要になる。
そのようなジレンマの中日々生きている俺の精神は……うっうっうっ。
──……楽しいですか?
とっても楽しいです。
安全圏から相手を相手にもしないそんな俺って、カッコよくない?
──そんなことを考えている時点で、相殺ですね。
そうか……、そんなことを考えていると、嫌な雰囲気を感じた。
──ッッッと音にならないような音が鳴り、俺の固定した空間が割れた。
そして、俺の胴体に定められた突きが、腹をえぐらんとして、
吹っ飛んだ。
体を錐揉みさせながら、空中を対空し、森の木に体を打ち付ける。
地面から1メートルほど上空の幹にぶつかったからか、木はそのままなすすべもなくへし折れ、そのまま落ちていく。その折れた木の上に、体制を立て直し立つ父親。
何が起こったのか、理解できないと言う顔をしている。何せあと一歩で木刀が腹に叩き込まれるはずだったのだ。それが、自分の方が攻撃を受けて、木に叩きつけられた。
認め難いだろう。その心中はよくわかる。自分も同じ立場なら呆けてしまうだろう。
けれど、やったことはいたって簡単。木刀に意識が少しでも向いていれば、意識外からの攻撃には対応しづらくなる。なので、父親の腹の辺りに指定方向への空間爆発を起こしたのだ。それに、反応も出来ず、飛ばされて行ってくれた。当たり前の結果だ。それに、俺の攻撃はエネルギーを集めてから発動するまでにかかった時間は0.01秒もない。
逆に反応できたら父親の人外っぷりに呆れてしまう。
これで、大人しく帰ってくれたら嬉しいのだが。
「強くなった、というのは本当のようだな」
服についた木の粉を払いながら、そんなことを言ってくる。
おっ、これは帰ってくれるか? と期待したが
「それならば、全力で相手をしよう」
……
── ……
……まだ全力じゃなかったん?
「お前には教えていないが、我が家に代々継承されてきた力だ。安心しろ、腕を捥ぐぐらいだ」
全然安心できない。
魔力の高まりを感じる。その魔力は一瞬にして、全身に巡っていき、明らかに、やばいやつだ。空間の結界だと、ゴリ押しで対処されてしまいそうだ。
これは、絶対防御を使うべきか? 概念系のやつはどれもレベチだから勝負にならなくなるんだけど……。
「いくぞ」
その言葉とともに、空気が爆ぜた。
普段と同じ程度の思考加速では対応できないほど速い動きに、思考をさらに加速させる。
だというのに、木刀が力いっぱいに上段から振り下ろされる。木刀は絶対防御の結界にぶつかり耐えられず、砕け散った。だというのに、結界の方に罅がはいった。
絶対の防御にすら容易く罅をいれる父親を見つめる。
父親は赤いツノを生やした鬼の姿だった。手元だけ残った木刀を捨て、腰に挿していた刀を引き抜く。あまりに鮮やかな動作。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
──ふざけてないで、ちょっとは真面目にやってはどうですか?
確かに、ちょっと頑張んないと。手を抜いて負けましたじゃやってられないしね。
絶対防御の強度を上げながら、拳を構える。
いい感じ。
前哨戦は終わり。本当の戦いが始まる。ニヤけるのを抑えながら、迎え撃つ。
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