第14話 家出息子




 森と草原との境界線、そこに彼、俺の父親は立っていた。


 魔女の家を出た場所で、待ち構えている俺が見えたのか、父親が立ち止まる。


「ここまで来て、なんのよう?」


「わかっているだろ」


 くだらない質問をするな。そう言いたげな言葉だ。


「それでも、一応確認ぐらいはしたほうがいいだろ?」


 俺に、帰れというなら、そうちゃんと口にしないと、帰るつもりはない。まぁ、言われても帰るつもりなんてないんだけど。


「この前、連れて帰ると言ったはずだが?」


「嫌だ、って言ったはずなんだけど」


「ふん、子供の我が儘を全て通すことなどできん」


 腰から木刀を取り出しながら、そんなことを言い出してきた。


「そもそも、どうやってここを突き止めたのさ」


 一応、全能の力で探ってみたが、誰かがメールを送ってきたことしかわからない。メールの全文を読んでみても、送り主に繋がるような情報はなかった。何かに遮られている。


 完全な全能の力になってはいないし、完全な全能になっても、本当の意味での全能ではないことぐらい、自分自身よくわかっている。けれど、だからと言って出来ないことはそうない、とも言える。


 けれど、相手は、不完全でも全能の力を退けたのだ。ダメ元でも、糸口があったら突き止めたい。けれど、父親の答えは──


「誰かは知らないが、メールが来た。最初は疑ったんだが、占いで事実だとわかった」


 興味のなさそうな解答が返ってきた。実際、誰が送り主かは二の次三の次なのだろう。両親が俺を探していることは、あの業界じゃよく知られるようになっている。親切な第三者かナニかだと思っているのか、それとも警戒しているが気にするだけ無駄と割り切っているのか。


「さてと、これで気が済んだか?」


「気は済んでないけど、俺に勝てると思ってるの?」


 全能の力を手に入れたばかりならまだしも、全能に至るまで秒読みみたいな俺に無傷で勝てる相手なんて片手で数えられると思う。


 ──……一応、まだ全能でないので宇宙に目を向けると100は超えますよ?


 おっと、オウランの鋭いツッコミ。これはもう立ち上がれないか?


 ──そのまま伏せっていてください。それが世のためになります。


 そこまで言うか? 僕ちん泣いちゃうよ?


 ──やりたいならどうぞ?


 おうおう、今日もキレッキレですね。精神的に真っ二つになりそう。


「お前が、私に勝てるとでも?」


 おぉっと、素が出ちゃってますよ?


「無限大数分の一ぐらいの可能性で負けちゃうかもしれませんね」


 あながち、的外れではない数字だろう。


「一度、父親の偉大さを教える必要がありそうだな……」


 怒りのあまり血管が切れそうな表情だ。まぁ、これでも地球で上から数えた方が早い強さを持っているのだ。侮るなんてことはしないが、そもそも力が離れすぎている。俺に傷をつけることもできなさそうだ。


 一瞬、面倒だから転移で家に直接送り返すって方法が頭をよぎったが、多分これからも追っかけてくるだろう。ここら辺でちゃんと決着をつけておくのも手だ。


 そう思いながら、一応、腰を下げて向かい合う。


 さてと、お手並み拝見ですね。


 父親が、木刀を振り上げるのを眺めながら、そう思った。




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