第13話 致命的なミス
空気を伝わる振動ですら、痛みを感じるような衝撃と、直視すれば失明してしまうような光の奔流。その中心に立つ二人の男女は、ナイオラとマーヴァミネだ。
神と神の力のぶつかり合い。そうと錯覚してしまうが、あながち間違いでもない。
二人の使う魔法は同じ源流であり、それは神から力をおろすという形式的な儀式によって使われる魔法なのだ。そして、老獪な魔法使いたちの魔法は神の力を自らのものにするまでに至る。
あらゆる神話の主神が持つ力を強引に下ろすマーヴァミネと多神教の特徴を生かした多種多様な力を扱うナイオラ。両者とも、魔法の力を自らのものにまで昇華しているのだ。
恐ろしく、また神の力を己のものにすると言う傲慢さ故か、彼らの戦いは荒く、力任せだ。そして、彼らの一撃は今なお、拮抗し合っている。
本来であれば、ナイオラがネチネチした攻撃をし、それをマーヴァミネが力で捻じ伏せる構図になるのだ。少なくとも、ナイオラがマーヴァミネに住み込みで学んでいたときはそういった戦い方で始まっていた。
けれど、目の前の光景はどうだ?
まるで予想を裏切っている。それは、マーヴァミネも同じだ。けれど、彼の表情は驚いているようなものではない。好戦的な笑みが張り付いている。
「ハハハ、強くなったな」
「戦闘中に喋ると足元掬われますよ」
ナイオラはつまらなそうにそう返答し、両手を前方に掲げる。
──閃光が瞬き、光の濁流が収束する。
それは、淡い光を放ち、不気味に揺らめく。
草原だった見るも無惨な剥き出しの大地が、ナイオラを中心に砂と変わる。
そして、一気に飲み込む。
ナイオラは光を砂となった大地に叩きつける。
辺り一帯が消し飛び、クレーターが出来上がる。巻き上がる砂埃を煩わしそうにマーヴァミネは魔法で吹き飛ばす。
そして、そこにナイオラはいない。マーヴァミネにはしっかりと存在が確認できると言うのに、だ。
生まれたのは一瞬の隙、あってはならない隙だ。
炎が地面から炸裂し、咄嗟に庇ったマーヴァミネの右腕と魔法杖を焼く。急造とはいえ魔法を無効化する魔法を込めていた。それなのに、腕一本と杖を炭に変えられた。
今なお燃える肩先の炎をかき消す。燃え爛れた肩先を止血する必要はない。
興奮と怒りと、弟子の強さに敬意を表し、マーヴァミネは地中に隠れたナイオラに、天より豪雷を落とす。
雲もなく、むしろ天の川さえ望める星空から、自然界ではあり得ない雷が降り注ぎ、大地を抉った。
クレーターの隣にこれまた大きなクレーター。『ここは月面ですか?』なんてツッコミをしたくなる光景だ。
その光景も目まぐるしく変わる。大地が砂へと変動していく。それは、大地に浸透している二人の魔力がお互いに主導権を奪い合おうとしているからだ。全体的に見ればマーヴァミネが優位だが、攻撃に転じるほど掌握はできていない。ナイオラが
それだけでは埒があかないと悟ったのか、マーヴァミネは同時並行して他の魔法を準備する。
「チッ」
と彼は急に舌打ちをした。地中の攻防に集中していたことで、空気中の酸素濃度が低下していることに気付くのが遅れたのだ。酸素がなくなっても生きていられるが、それは魔法を発動しなければいけない。
生命活動を維持するための魔法を常時展開しながら、ナイオラと闘う。地中にいる彼女と条件は同じように見えるが、あちらは元々こういう戦い方を好んでいるため慣れているのだ。
マーヴァミネはここ最近このような戦いをする機会など、とんと無かった。つまり、厄介なのだ。できると、するとは別問題である。この言葉が表すように、マーヴァミネは慣れていなかったのだ。だから、致命的なミスを招く。
マーヴァミネが魔法で支配していた部分が、そのまま沈んだ。ナイオラは彼との駆け引きは部が悪いと思い、相手の想像を上回る方法で戦うことにしたのだ。
そして、ナイオラの策は今まさに完成しようとしている。
没落した大地を閉じ込めるように、マーヴァミネを取り込んでいく。
ここで、マーヴァミネは今大地に浸透させている魔力を使い、ナイオラを押し返すか、魔力を諦めて新しい魔法を使うか逡巡した。
致命的な間だ。そして、彼は生命活動維持の魔法を使用していた。それさえなければ、もっとスムーズに魔法を放てていたかもしれない。
凡ゆる複合的な原因が重なったことで、彼はなす術もなく、地中へと埋もれていく。
ナイオラの魔法は封印の力が込められている。マーヴァミネに出来ることは、もうない、はずだった──。
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