第9話 手紙
夜闇の空から一羽の鳥が飛んでくる。それにいち早く気付いたのはナイオラ。それは、ある当たり前のことであっただろう。
彼女の家にいる
ただ、ナイオラは違う。ここは彼女の住処であり、ほとんどの人がこの家を認知できないようにしている。そしてまた、この家に近づいたものを知ることができるようにもしてあった。
大空の下、悠々と家の上空を飛び回る鳥。近づいてみれば、それが鷹と呼ばれる外見をしているということがわかる。だが、外見が鷹なのであって、その存在自体は生物ですらない。けれども、ここではわかりやすく“鷹”と呼称しておく。
そして、その鷹が上空を飛び始めて約1分後。何が楽しいのか、未だに高度を下げず飛び続ける鷹。早く来いよ、とナイオラが思ったことをとがめる人はいないだろう。
数分ほど滞空していた鷹だが、飽きたのか、なんなのかはわからないが、滑空をしはじめ、さらに数分後、ようやく家の窓辺に降り立った。
自室の窓辺に降り立った鷹をナイオラはどこかイラつきを含めた眼で見つめる。
当の鷹は『なにかしちゃいましたか?』とナイオラを煽る。
もちろん、これはナイオラの私見、と言いたいところなのだが、不思議なことに当たっている。
そして、『飼い主に似たな』などと失礼なことを考えていたりもする。
鷹が加えている手紙を見ずに誰から来たのかわかるとは、親密な関係なのか、などと邪推したくなる。残念なことに違うのだが。
鷹は、ナイオラが気付いているくせになかなか窓を開けないのを見て、しようがなく、窓を足で叩く。
さっさと開けろよ。そんな声が聞こえてきそうである。
「はぁ~~~~~~」と長い溜息をついて、ようやっとナイオラは椅子から立ち上がる。
そして────窓の横にある戸棚を開けた。
『なんで!?』と鷹は驚いた表情。とても滑稽である。多くの人はこれだけでご飯10杯はいけること間違いなし。
ナイオラはその表情に吹き出してしまった。腹がよじれる、まではいかないものも、涙がこぼれ落ちている。
笑い終えると、溜飲が下がったのかナイオラは窓を開ける。
因みに、戸棚を開けたのには理由があったらしく、手には鋏を持っている。
開いた窓口から手紙を放り込んだ鷹は、もう用はないと、後ろを顧みず飛んでいく。もしかしたら、ナイフを持っているから一目散に逃げたのかもしれない。真実は鷹のプライドを守るため伏せておくとしよう。
鷹の後ろ姿を見送っていたナイオラは、その様子から『立つ鳥跡を濁さず、とはまさにこのことか』などと考えていた。
残念ながら、ここにその間違いを正す人は存在せず、今後もその間違いが正されることはなさそうである。
鷹がもはや肉眼では捉えられないほど高くに姿を消すのを見届けると、床に落ちた手紙をナイオラは拾った。
茶封筒にナイオラと宛名が書いてある。
口をナイフで切り、中から便箋を取り出す。流れるような崩し字で書かれた辞世の句を読み飛ばし、本文に目を通す。
そこには、嬉しくない内容が書かれている。
「いや、当たり前か。いや、まだマシな方か」
何と比較しているのかは知らないが、マシな方らしい。
さて、そのまだマシか、内容はというと、簡単に言えば、呼び出しであった。ある場所に何日の何時に来るように、と待ち合わせに必要な最低限度の記載されている。持ってきて欲しいものはないなどと付け加えられていることから、細かく書いていると言っても良いかもしれない。
だが、これだけなら誰も嫌がりはしないだろう。少なくとも、予定がかぶってたり、家にずっといたいなんて人でない限りは。
はぁ~、と深い溜息を吐いて、ナイオラは天井を仰ぐ。
「まったく、なんで今頃呼び出された? 考えられるとしたら……駿翠か?」
思考が纏まらないのか、考えてごとが口から出てきている。
無意識なのだろう。それとも、わかっていながら、己の性分だと割り切って諦めているのか。
ランプの光が揺らめく。光と影のコントラストが、どこか落ち着かせない心地にする。
ナイオラの思考は、朝まで続いた。
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