第7話 永遠の関係




 酷い夢を見たような気がする。


 寝起き直後に思った一番最初のことだ。


 なぜ、そんなことを思ったのか、考える。すると、一つだけ思い当たることがあった。


 つまり、だ。うなされていたような気がするということだ。

 

 実際のところはわからない。


 ただ、そういう気がしただけなのだから。


 けれど、それを気のせいで片付けるのは釈然としない。ここは、全能の力で真実を知るべきか?


 そんな考えが頭をよぎる。


 ──うなされてましたよ


 オウランが迷ってる間に答えを言ってしまった。


 けれど、やはり気のせいではなかったらしい。なんとも、微妙な気分だ。


 ──まだ気がすぐれないようでしたら、寝てはどうですか?


 ……幸いなことに、気がすぐれないと言うわけではないのだ。気疲れはまだあるのだが、それぐらいどうってことはない。別に、いざとなれば全能の力で解決することもできる。さす全。


 ──そうですか。それは何よりです。


 かたい、かたい、かたい。なぜか距離を感じる。


 ──そう、ですね。少し真剣な話をしたいから、なのですが。


 真剣な話?


 ──買出しの時、思い出したことです。


 そう言えば、話がある、なんて言ってたね。


 ──覚えていたようで何よりです。もう、こんな時期になってしまいました。


 ……どういうこと?


 日が落ちた夜中、部屋の中はとても暗い。


 明かりをつけていないため、また普段であれば窓から射す月や星々の光も曇り空なのか、ない。


 する必要もないのに、息を深く吸う。動揺しているのかもしれない。


 何か得体のしれないことか、それとも知りたくなかった秘密か……。そんな予兆を感じてしまうのは、全能の力のせいか。いや、そんなことはない。俺は知っている。だけど、そこから目を逸らしたかっただけだ。


 くだらない。


 そんなことに、怯えている。


 哀れで惨めな、自分という存在を突き付けられる。


「言わなくても分かってる」


 ──そうですか


「お別れ、だろ?」


 言ってしまった。


 もう、止められない。


 ザァァァ、と家に打ち付ける雨音が部屋に鳴り響いた。




────────────────────────────




 私は、いまどんな顔をしているだろうか?


 今ほど、自分の体が人でないことを喜んだことはないだろう。もしも、彼と同じ姿だったら、私は間違いなく酷い顔をしていた。


 いつものこと、だなんて割り切れはしない。


 だって、地球ここは私の故郷。彼は、かつての私の種族。


 だからだろうか。愛着が湧いてしまっている。


 雁字搦めに縛り付けられて、もう動けないように、私の心はなってしまっている。


 彼に『私を助けて』なんて言えば、彼はきっとそうしてくれる。


 だけど、彼の日常を、家族を壊した私が、そんなことを望んでいいのか?


 どの口が、そんなことを言えるのか?


 本来の形に戻った方がいいのだろう。


 彼は支配者。


 私は従者。


 これまでもそうだったように、これからもそうなる。


 そして、私は役割を終え、新たな支配者へと向かう。


 それで、いいの。それが、正しいことなの。


 そう、言い聞かせる。


 私は、なんて惨めなんだろう。






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