第4話 露店
混沌とした街並みと人波。やはり、少し出るのが遅かったかもしれないと、後悔しながら、人混みを掻き分ける。
──暑苦しいですね
それな。
体感的に暑いと言うよりも、目に映る人の多さによって暑さを感じる。なんというか、気が滅入る。
──……そうですね。
ん? 何かあったか?
──いえ、後で話さなければいけないことを思い出しまして
話さなきゃいけないこと?
──今は前を見た方がいいですよ
そう言うと、オウランは黙ってしまった。
まぁ、何もしゃべらずに考えたいときもあるのだろうと、割り切り、意識を周りへと向ける。
桐沼が、よくわからない謎の野菜が山積みになっている店の前で何か交渉をしている。値切っているのだろうか?
よくわからない白色のカブみたいなのを指さし、話している。
それに応戦するように店主(?)は首を振って何かを言った。
一体、どんなことを話しているのだろうか?
気になって仕方がない。
聞こうと思ったら聞けるのだが、なぜか直感が触れてはいけないと騒いでいる気がする。
もしかしたら気のせいかもしれない。
そうしておこう。
お? 脳内で冗談を繰り広げている間に交渉は終わったようで、桐沼が、布袋の中に謎の野菜を入れて戻ってきた。
人波を横切って、道の端でボーっとしていた俺の眼の前にやってきた。
「いいご身分ですね」
体中から汗を流している桐沼が最初に言ったのは恨み言だった。
「いい身分だろ?」
全能神の力で俺の周りだけ温度が高くない。つまり、俺は汗ひとつかいていない。
この糞蒸し暑い砂漠の近くの街にわざわざ行かされたんだ。これぐらいの役得は許して欲しい。
──それなら桐沼さんにも同じことをしてあげた方がいいのでは?
そうか?
どうやら、オウランの考え事は終わったようだ。
──終わりました
お、おう。
──それより、桐沼さんを放っておいていいのですか?
イライラを前面に押し出している桐沼の様子を見て、気の毒に思ったのだろうか。
だけど、大丈夫だ。あれは本当に怒っている顔ではない。
「無視するんですか?」
ほら、この言動からしてそうだろ?
──怒られますよ
もう怒られてるから怖いものなんてない。
「……」
痛い痛い。無言の睨みが痛い。
桐沼とオウランの突き刺さるような視線。Mだったら嬉しいのかもしれないけど、残念ながら、今のところその扉は開いていない。
──開かれても困りますよ
そう言われると開きたくなる……。
──どうやって開くんですか……
俺には全能の力がある!
──力の無駄遣いにもほどがあります
誰に何と言われようとも、俺の心は決まっているし、止めることはできない!
── …………
「……帰るか」
「そうですか」
淡々と、まるで興味がないかのように桐沼は言った。
少しはリアクションを取って欲しいなどと、高望みをする。
──高望みだということがわかっているんですね。
「それじゃあ……ん?」
「どうしましたか?」
──あ~。隠れるの忘れてましたね
左手からこちらへ向かってくる二人の男女。
これまで絶対に会いたくないと思っていた。これからも、オトルスが片付くまでは会うつもりはなかった。
どこかで、気が緩んでいたのだろうか?
いや、間違いなく、緩んでいたのだろう。
俺は、動くこともできず、二人がやってくるのを黙ってみるしかなかった。
桐沼は何事かと俺の視線を追い二人を見ている。
オウランは、俺の記憶を知っているので二人が誰なのか今更言うまでもないが、驚いている様子だ。
こうして、俺は、不本意ながら、両親と顔を合わせることとなった。
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