第24話 『荊』 8
魔法が乱舞していた。
そして、それに比例するように人が一人、また一人怪我を負い、命を落とす。
血が地を濡らし、染める。
戦う者たちは倒れたものには一定以上の興味を示さない。
生きているか生きていないか、それだけだ。
可哀想とも、残酷だとも、誰も思っていない。
ただ、ただ、目の前の憎き相手に敵意を剥き出し、一人でも、一人でもその命を奪うことに全力で行動する。
そこに、善はない。
憎しみと、怒りと、悲しみを綯い交ぜにしたような感情に圧し潰れないように復讐というものに縋るもの。
ただ、命令を遂行している、とそれだけを考え、奪った命には目もくれず、いや、目をそらし、それでもなお殺し続ける
その戦いの真っ只中で、カレブ・トウィクは思う。
どうして、どうしてこうなってしまったのだろう、と。
先ほど、やってきたパークスの話では、相手は”荊”と呼ばれる”オトルス”に罪人という烙印を押されたものたちで構成されているという。
彼ら、彼女らは、自らの意思ではなく、操られ、戦っている。
これではただの潰し合いではないか。
相手にもちろん数名”オトルス”の正規員もいるというのは知っている。
だが、それらを倒したとして、今後、”オトルス”に勝てるだけの戦力が残っているだろうか。
目の前では幾つもの命が散っていく。
炎に焼かれ、肉体を切り刻まれ、それでも、止まることなく、戦い続ける。
そして、”荊”の最後の一人が倒れた。
彼らを殺したのは自分たちだ。
自ら、生き延びるために、自分は彼らを指揮し、魔法を放ち、”荊”の命を奪った。
街並みは燻り、破壊と暴虐のあとが生々しく刻み付けられている。
自分たちは戦い、勝った。
だが、後を引くような気持ち悪さが自分にのしかかる。
そして、それは自分だけではなく一緒に戦った仲間たちも同じだろう。
正しいということがわからなくなった。
”オトルス”と戦い、抵抗し、退けた。
だが、それは”オトルス”にとって捨て駒。
その捨て駒ごときに、我々は馬鹿にならない被害を被り、その被害を補填する力すら持っていない。
崖っぷち。
なんと自分たちにぴったりな言葉だろう。
「カレブ」
後ろにパークスがいた。
「なんだ」
「”オトルス”、”荊”ともに倒された。我々の勝利だ」
「……勝利か」
「どうした」
「この勝利なんの意味がある」
「……時間稼ぎができたな」
「そうだろ。何人も何人も殺して、死なせて、時間稼ぎ程度しかできなかったんだ」
「だが、この時間は何よりも変え難い時間だ。死んでいった彼らのためにも無駄にはできん」
「……そうだな」
「これしか我らには道はない。今、彼らに思い知らせてやろう。我ら、ここにあり。我ら、”オトルス”の障害となる存在である、とな」
「そんなのでいいのか」
「次の世代のために、だ」
遣る瀬無い心が自分を押し潰すように痛みを与える。
再び、周りを見渡す。
廃墟といっても差し支えない自分たちの住処。
幾つもの死体が転がり、凄惨さを嫌という程見せつけてくれる。
手を握りしめる。
掌に爪が食い込み、血を流すのがわかった。
それでも、さらに手を強く強く握った。
この戦いに意味はあった。
それだけに縋ってしまう自分が情けなく、愚かだということには目を背けて、その場を立ち去った。
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