第21話 『荊』 5
空気が爆ぜる。
何も為すことができず、壁に叩きつけられる。
全身に痛みが走り、骨の折れる感触を味わうことになる。
そして、顔を上げ、周りを見渡すと、死屍累々といった有様の”荊”が目に入る。
しかし、自分も似たようなもの。
”荊”にとやかく言える状態ではない。
「これだから最近の若者は、と言いたくなる光景だ」
「化け物が……」
「努力の賜物だよ」
にこやかに笑うジェイソン・パウエル。
未だ一歩も足を動かしていないのが彼に対する苛立ちを助長させる。
「やれ‼︎」
作戦通りに”荊”に命令をする。
室内の死屍累々としている面々ではなく、建物の外で待たせていたほうに。
壁が崩れる。
そこから”荊”が押し入ってくる。
彼がそれらに意識を向けている間に、”重力反転”の魔法を使い、天井に張り付く。
体を下に起こし、頭を下にして立ち上がる。
下では”荊”とジェイソン・パウエルが戦っている。
9対1であるというのに、押しているのはジェイソン・パウエルの方だ。
視界に入る空間を自由に操ると言われるジェイソン・パウエル。
彼は”荊”の変則的な攻撃を物ともしない。
炎が建物を舐めるように彼に迫っても、炎の空間だけズラすことで消火。
飛び道具などもいとも容易く無効化している。
……というかあの化け物、魔法無効化の飛び道具を無効化ってどうやってるんだよ。
更には、攻撃が少しでも緩むと首を刎ねにくる。
しかも、足を動かせ無くしてから刎ねにいく徹底ぶり。
”荊”は怪我を負い、ジェイソン・パウエルの方は一切怪我を負わない。
唯一の救いは彼の方には決定打がないということだ。
真剣に彼の動きを見ながらそう考察する。
とは言っても、彼は一切足を動かさず、手を動かすだけで魔法を発動している。
それも、必ずというわけではない。
死角からの攻撃も目を向けるだけで無効化、物によっては見もせずに無効化をしている。
「固有魔法、発動」
その時、彼が固有魔法––––超能力を発動する。
そして、数分間に及んだ戦いは途切れる。
窓ガラスは全て割れ、建物の骨格となる部分以外の壁は割れて落ちていく。
多くの”荊”もそれに巻き込まれる。
残っているのは一人の”荊”と天井に立つ自分だけ。
ここが最上階で良かった。
それに天井が天然の岩石だから崩れる心配をしなくて良い。
これが、上に何階もある場所だと考えるとぞっとする。
「おや、意外に残った。これで終わったと思ったのだが」
彼の言葉には反応せず、首にかけていたネックレスの指輪を左手で握りしめて引きちぎる。
バラバラとネックレスの残骸が床に散らばる。
左手に握りしめられた指輪を右手の人差し指に嵌める。
この指輪には嵌めた者に対して10分間、触れた魔法を無効化する防壁を体の周りにまとわせることができる魔法がかかっている。
今回の戦いのために自腹を切って買ったものだ。
「不思議なものを持っているね。それで、私に勝てるとでも?」
こちらを見上げながら彼は変わらない笑みを口元に湛えている。
「あぁ、これがあれば可能性が数パーセントぐらいは高まるさ」
「ほう、それはそれは。頑張って足掻くといい」
変わることのない傲岸不遜の態度に腹が煮え滾るような思いをしながら、相手を見つめる。
「あぁ、そっちもうっかり死なないように注意するんだな」
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