第18話 『荊』 2



 それは唐突に起こった。


 一階のホールで、正面玄関を背にして、攻めてきた”オトルス”と、中に入らせないように応戦する”フェリ”、その均衡が崩れたのは。


 一人、”オトルス”の『荊』が倒れる。


 二人、”オトルス”の『荊』が倒れる。


 三人、”オトルス”の『荊』が倒れる。


 そして、”オトルス”の『荊』が倒れる。


 そして、”オトルス”の『荊』が倒れる。


 そして、”オトルス”の『荊』が倒れる。


 そして、”オトルス”の『荊』が倒れる。


 そして、


 そして、そして、


 そして、そして、そして、


 そして、そして、そして、そして、


 そして、そして、そして、そして、そして、、、


 一階のホールにいる”オトルス”の『荊』が、全員、何が起こっているのか理解もできず、何もなすこともできず倒れていく。


 ある者は見えもしない敵を探すため周りを見回し、ある者は我武者らに魔法を放ち、ある者は恐怖に体を抱えて。


 倒れた”オトルス”の後方、つまり正面玄関から、二人の男と女が入ってきた。


「リデルさん‼︎ どうしてここに」


 声をあげたのは”フェリ”の団員の一人。


「仕事です」


「仕事って……」


「彼の案内です」


 つまらなそうに周りを見回す男––––キザキを見て、答える。


「彼は?」


「彼が、ジェイソンが連れてきた助っ人です」


「彼が……?」


「はい」


「ねぇ」


 二人の会話に割り込むようにしてキザキが声をかけてくる。


「なんでしょう」


 リデルは少し驚いたような顔をして問いかける。


「このビルにはもう敵さんはいないんだよね?」


「そう聞いていますが……」


「じゃあ、いま例の転移の魔法陣を使おうとしている人がいるのはなんで?」


「……はい?」


 キザキは信じられないことを言い放った。


 現在、誰も転移陣は使わないようにと連絡しているはずだ。


 誰かが、転移陣を使おうとしているということは、すなわち敵ということになる。


「どういうことですか?」


「だから、転移陣だっけ? それを使おうとしてるというか使ってる人がいるんだけど」


 リデルは思う。


 そんなことはあり得ない、と。


 いや、あってはならない、と。


「キザキ、いますぐ倒してください‼︎」


「はいよ」


 キザキは目を瞑り、こめかみを人差し指で押さえながら熟考するような体勢をとる。


「もう転移しちゃった分は無理だけど、残ってる人たちは倒したよ」


「それは、倒れているだけですか?」


「いんや、ちょっと加減ができなかったから死んじゃってる」


「そう、ですか」


「まぁ、建物内にちょこちょこ侵入してる人もいるみたいだから、そっちを片付けようか。案内よろしく」


「……わかりました」


 キザキは半径10m内が攻撃のできる範囲だと言っていた。


 転移陣が真下にあったから良かったものの、これがキザキの攻撃をできる範囲外だったと考えると背筋が凍るような思いをしていただろう。


 そう考えながら、キザキを案内するためにエレベーターへ足を向ける。


 キザキは後ろから物珍しそうに建物を見渡しながらあとをついてくる。


 その様子を不気味に思いながら、その考えを振り切るようにして、案内する場所を考えるようにした。


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