第17話 『荊』 1



 ”オトルス”の幹部セクスが”フェリ”に差し向けたのは『いばら』と呼ばれるものたちだ。


 彼らは”オトルス”に反抗していたものたちの生き残り、”オトルス”内部にありながら命令違反などで処罰されたものたちで構成されている。


 そして今、彼らは”フェリ”の本拠地に行くためのビルに攻め入っている。


 建物は複雑な構造をしているわけでも、分かりにくい構造をしているわけでもない。


 だというのに、『荊』が手を焼いている理由は、そのビルにいるのが”フェリ”の戦闘員だからだろう。


 数百年この地に根ざし、活動を続けてきた”フェリ”の力は単純に強い。


 これが、『荊』だけではなく、魔術の本場––––化け物どもの巣窟に住んでいる”オトルス”が総力をあげて攻めてきたならば話は違っただろう。


 しかし今、この戦いに投入されている戦力は『荊』のみ。


 地の利は相手にあり、実力も相手の方が少し上かといったところ。


 つまり、『荊』は今、とても危ない状態であると言えるのだ。


「くそ、あいつらめ、俺たちを使い捨てにするつもりだ‼︎」


「それが事実だったとしても俺たちに出来ることは生き残るように努力することぐらいだ‼︎ わかったら口じゃなくて手を動かせ‼︎」


 そして、一番不幸であったのは『荊』の監視役として連れてこられた”オトルス”の団員たちだ。


 大雑把な指示では作戦に支障が出る可能性があり、細かいところまで練った策を伝えたとしても、少し計画にズレが出ただけで破綻してしまう可能性がある。


 以上が、『荊』を緻密な作戦に使うのはとてもリスクが伴うことであり、敬遠される理由だ。


 しかし、それでも今はそんなことを言っていられない。


 なぜならば猫の手も借りたいような有様であるからだ。


 そうした理由から、『荊』の戦闘員、監視役&指揮を担当している”オトルス”の団体という変則的な組み合わせで”フェリ”に攻めているというわけである。


 これが、伝えられた作戦内容。


 実情は、囮作戦。


 全27組にも及ぶ”オトルス”の『荊』と団員たちが向かわされた場所がそのことをよく表わしてくれる。


 そう、”フェリ”の本拠地の地下都市の門とも言えるビルに放り込まれたのだ。


 そして、そこには”フェリ”の戦闘員が待ち構えていたのだ。


 正確に言えば、事前の準備によって待ち構えていると相手側が勘違いするほど迅速な対応をしたのだ。


 かくして、戦いは”フェリ”が優位な状況で動いている。


 かろうじで部隊の壊滅を免れている”オトルス”側の『荊』と団員は早く終わってくれと祈っている。


 ”フェリ”の中には銃弾に魔法をまとわせるなどという厄介極まりないものを持ち出してきていたり、壁紙の後ろに書かれた魔法陣を起動したり、とこれでもかと凶悪な搦め手などを仕掛けてくる。


 これで、”オトルス”の部隊が壊滅しない最大の理由は『荊』の存在だ。


 『荊』は”オトルス”に再び歯向かわないようにと制約を課されている。


 その中に一つ特異なもの、『死することのない呪い』という魔法を『荊』になった時にかけられる。


 この魔法は読んで字のごとく死なない。


 すなわち、首と体を切り離すか、頭を潰すようなことでもしない限り死なないというものだ。


 さらには、肉体の再生までかかる時間が極端に長くなってしまう部位の欠損でもない限り、すぐ戦闘に復帰してしまう。


 ”フェリ”はその武力で相手を倒し、”オトルス”はその決して倒れることのない『荊』の力で相手を務めている。


 そうして、”オトルス”と”フェリ”の戦いは膠着状態といっても良い展開に入っていったのであった。


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