第16話 布団の魅惑



 布団。


 それは、人を魅了してやまないものだ(*個人の感想です)。


 人を堕落させる悪しきものだ(*個人の感想です)。


 しかし、俺はそれに今屈している。


 布団の上に身を投げ出し、その体を包む母なる大地のような感触に身を任せている(*個人の感想です)。


 布団。


 あぁ、なんと罪深きものなのだろう(*個人の感想です)。


 なんと耐え難き咎を与えるものだろう(*個人の感想です)。


 それは、いとも容易く人を陥れる。


 それは、いとも容易く人を誘惑する。


 あぁ、人は勝てないだろう。


 凡ゆる人々がそれを前にしては身を投げ出し、警戒を解いてしまう。


 恐るべきものだ。


 ––––どこの呪物ですか?


 布団だけど?


 ––––とても布団について語っているようには思えないのですが。


 それは、オウランが布団にまだ魅入られていないからだよ。


 ––––布団って魅入るものなんですか?


 そうだよ。


 ––––さも当たり前のように言わないでください。


 枕を腕に抱き、ゴロゴロと寝転がりながら思う。


 だって、布団なんだもん。


 ––––理由になってません。


 わかってないな。


 布団というだけで察せないと。


 ––––何をですか……。


 布団は人の三大欲求である睡眠を快適にしてくれるものなんだよ。


 布団の前では人のなんと小さく見えることか。


 ––––そうですか?


 あっ、物理的にも人は布団より小さいけど、そういうことを言いたいんじゃないのはわかるよね?


 人がいくら逆立ちしたって布団の素晴らしさには勝てないってことだからね。


 ––––布団を作ったのは人間のはずですが。


 違うよ。


 神が人に賜った英知の結晶の中に布団という素晴らしいものがあったんだよ。


 ––––神が賜った?


 そう、神が人に安眠ができるようにと与えてくださったものの一つが布団なんだよ。


 ––––それ、どんな神ですか……。


 布団神だよ。


 ––––ふざけてますか?


 真面目だけど?


 ––––はぁ〜。私たちが”フェリ”に来てかれこれ4日が過ぎようとしている今、そんなことをしていていいのですか?


 どんなこと?


 ––––寝てばっかりな生活のことです。


 寝てばっかり?


 ––––1日の9時間を睡眠に、6時間を布団の上で過ごしている生活を改善する気はないんですか?


 ……う〜ん


 う〜ん


 う〜〜〜ん


 ないね。


 ––––敵が攻めてきたらどうするのですか?


 その時になってから考えればいいんじゃない?


 あと、それフラグだよ。


 これで本当に攻めてきたらどうするんだよ。


 プルルルルル プルルルルル プルルルルル プルルルルル


 布団の脇に置いてある電話の鳴る音がする。


 ガチャ


 受話器を取る。


「はい」


「”オトルス”が攻めてきました」


「……どこにですか」


「上の建物にです。こちらにやってくるのも時間の問題でしょう」


「何をすれば?」


「今、上の建物に攻め込んできた人たちの対処をお願いします」


「生かしてとらえる必要は?」


「ありません」


「わかりました」


「それでは、案内をそちらに送るのでそれまでは待機していてください」


 プー プー プー プー


 電話が切れる。


 ––––仕事ですね。


 そうだな。


 必要最低限の仕事はしないとな。


 ––––そこは攻めてきたやつらは滅ぼすみたいな心構えじゃないんですか?


 …つかれるだろ、それ。


 どうせ、今回はちょっと手を組んだだけだ。


 本気を出す理由もないだろ。


 それに、”フェリ”もそれぐらいわかってるだろうしな。


 ––––まぁ、保険ぐらいにしか考えられてはいないと思いますが。


 そうだろ。


 布団から起き上がり、服の着替えに入る。


 案内さんにみっともない姿は見せられないしな。


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