第15話 動き出す闇



 一人の男が跪き、頭を垂れていた。


 男の前には淡く光る小さな像。


 それだけ見れば、神、もしくはそれに類するものに祈る敬虔な信徒。


 されど、男の服装、様子は少なくとも、神に祈っているようには見えない。


 全身を覆う、黒のコート。


 男はダラダラと汗を全身から吹き出し、引きつった顔をしている。


 そこにあるのは畏怖。


「さて、セクスよ」


 男が平伏していた像から声が発せられた。


 その声は、相手に有無を言わせないような冷徹さを持っていた。


「は、はい」


 男は緊張により声が震えている。


「作戦は失敗と」


「誠に申し訳ございません」


「我は貴様の謝罪に付き合っている時間はないのだ。どうするか、それだけを答えよ」


「二度と、このようなことが……」


「我の言ったことが理解できなっかたのか愚物よ」


「奴らを滅ぼしてみせます」


「そうだ、次はないぞ」


「はい」


「では、作戦を伝える」


「ゴクッ」


 男は喉を鳴らし、続きの言葉を待つ。


「貴様にやってもらうのは”フェリ”の引き付けだ」


「足止め……ということですか?」


「そうだ。動きを把握しておけ。最悪、逃げられても場所が割れていれば問題ない」


「そのあとはどうするのですか?」


「ドゥオを向かわせる。」


「わかりました」


「今度こそしくじるなよ」


「はい」


「以上だ」


「はぁ〜」


 男は息を吐き出し考える。


 そうしてこうなった、と。


 途中までは順調だった。


 ”フェリ”をあと一歩というところまで追い詰め、あとは煮るも焼くもできると喜んでいた時だ、支部が潰され始めたのは。


 はじめは”フェリ”の隠し球かと思っていた。


 しかし、それではこれまで温存していた理由がわからない。


 何かしらの制約があるのか、それとも追い詰められて初めて腰をあげることにしたものがいたのか。


 あらゆる可能性を考えてみるが、決定的な証拠がなく、どの可能性もありえそうであり、排除ができなかった。


 しかし、これらの思考も”フェリ”の手の者ではないとわかった瞬間全ての可能性が瓦解した。


 一から対策を練る羽目になった。


 そして、相手が”フェリ”ではないとわかった頃には”フェリ”を落とすには心許ない人数しか残っていなかった。


 そうして、現在だ。


 ウーヌス様からは戦力外通告を受け、屈辱に歯を噛みしめることしかできない。


 チリン


 立ち上がり、近くの壁にかけてあった鈴を鳴らす。


「何用でしょうか?」


 扉の向こうから声がかかる。


「荊どもの準備をしておけ」


「承りました」


 男は笑う。


 憂さ晴らし程度にしかならなくとも”フェリ”に一泡吹かせようと策を練ることにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る