第11話 布団に勝てるものはいない(多分)



 布団のとても暖かく、ふわりとした感触が俺を包み込む。


 くっ、どうやら布団に安眠の魔法陣でも描かれているのだろう。


 ––––描かれてはいないですよ……


 だからだろう


 ––––だから描かれてないですって


 俺は今すぐ眠りにつきたいという欲求に囚われている。


 くっ、俺は屈しないぞ‼︎


 ––––……


 そして、俺は魔性の気を放っているのかと言いたくなる布団を相手取るも、遂には敗れた。


 即ち、気が付いたら1時間ほど寝ていた。


 なんたる屈辱。


 この屈辱、どう晴らしてくれようか。


 この布団を灰すら残さず燃やし尽くせばいいだろうか。


 ––––怒られると思いますよ


 止めないでくれ‼︎


 男は、やらなきゃいけない時があるんだ‼︎


 ––––少なくとも、現在はその時ではないですね


 なっ、本当にそう思うのか‼︎


 ––––……


 心が折れちゃうから無視しないで……。


 ––––折れるような心が残っていたんですか。


 驚いたようにオウランが言ってくる。


 酷いことだ。


 まるで、俺が心のない化け物のような言いようじゃないか。


 ––––……全能神は化け物に入らないんですか?


 ……。


 リデルさん、そろそろ2時間経つからこないかな〜。


 ––––話を強引に変えないでください。


 チッ、そんなうまくはいかないか。


 だけど、オウラン、俺は『化け物』じゃなくて『全能神』だから、『神』なんだよ。


 ––––自分で言いますか? それと、完全に『神』になったわけではないのでまだ化け物枠だと愚考するのですが。


 ふ、まさに愚かな考えだな。


 ––––……日本語理解できてますか?


 なにを言うんだ。


 生まれも育ちも日本だぞ。


 ––––それなら意味わかってますよね。


 これが冗談だというのがわからないオウランはセンスがないようだ。


 ––––冗談のセンスを欲しいとは思いませんが。


 リン リン リン リン


 ベルの鳴るような音が聞こえる。


 ––––誰か来たみたいですね。


 リデルさんかな?


 俺は、布団から立ち上がる。


 部屋を出て、廊下を歩き、玄関の前に立つ。


 扉の横に備え付けられている外の様子を映し出す映像を見れば、そこにはリデルさんがいた。


 カメラのレンズを覗き込んでいるのか顔面がアップで映し出されている。


 これ以上、待たせるのはどうかと思い、チェーンを取り、鍵を解除して、扉を開ける。


「はい、何の用でしょうか?」


 顔を覗かせ、質問をする。


「団長がお待ちですので、案内をさせていただきます」


 とても簡潔で事務的な回答が返ってきた。


「わかりました」


 服は着替えていない。


 身嗜みも見苦しくはないはずだ。


「ついてきてください」


 そう言って、リデルさんは歩き始める。


 俺は慌てて靴を履き、扉を閉め、鍵をかける。


 鍵をポケットに捩じ込み、リデルさんを追いかける。


 幾つもの扉を通り過ぎて、廊下を歩く間、気まずい沈黙が流れる。


 そして、エレベーターの前にリデルさんは立ち止まり、上りの方のボタンを押す。


 数十秒したのち、エレベーターの扉が開く。


 リデルさんの後に続いてエレベーターの中に入ると、扉が閉まる。


 何階にいくのだろうとボタンを見てみれば、24階、即ち最上階のボタンが光っている。


 最上階にジェイソンさんはいるのね、と思いながらエレベーターの中で気を引き締めた。


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