第10話 ”フェリ”の隠れ家 4
リデルさんに案内されたのは、研究室から歩き始めて2分したほどの場所だった。
そこで、リデルさんは足を止め、壁に手を置く。
すると、リデルさんが触れた部分に魔法陣が浮かび上がる。
「ここに手をのせてください」
「はい」
桐沼が、我先にと、魔法陣の上に手を置く。
そして、桐沼は急に惚けたように口を開けて周りを見回し、歩き出す。
「へ?」
そして、そんなことを声を出している。
……何が起こったのだろう。
そんなに白い廊下を見ても面白いものなど何一つないだろうに。
「鬼崎さんも、やってください」
––––これは、何かありますね。
だな。
だからと言って、しないという選択肢はないんだろう。
覚悟を決めて、魔法陣の上に手を置く。
何かが、パリンと割れるような音がした。
そして、その音と同じように、白の廊下の天井が、壁が、床が、割れた。
文字通り、割れた。
ヒビが入り、割れた。
そして後には跡形もなく霧散するようにして消えていく。
そして、現れたのは巨大な地下都市いう言葉がピッタリな街。
天井には茶色の地層が覗いている。
よく、目を凝らせば、所々に黒色で魔法陣が描かれているのがわかる。
これで、落石などを防いでいるのだろう。
周りを見れば、とても近代的な建物の数々。
後ろを振り返れば、天井に接している……というより、天井を支えているようにすら見えるビルの群。
一箇所だけ、ビルではなくコロシアムのように円形の空間が空いているところが訓練所だったのだろう。
地面は石畳になっており、一切の隙間すら見えない。
顔を見上げ、リデルさんの方を見やれば、とてもいい笑顔をしていた。
してやったり、という顔だ。
「素晴らしいでしょう。ようこそ、ここが、”フェリ”の本拠地です」
俺と桐沼は『ほえ〜』というような感じの表情をしていただろう。
「さっきまでの説明って必要だったのでしょうか……」
桐沼がタブーを言ってしまった。
「ロマンというやつです」
……その答えはないだろ。
「それでは、これからあなたたちに住んでもらう建物について説明させていただきます」
そして、目の前に立っている建物に注目するように視線で促される。
「ここは、この地下内で一番大きい建物です。基本的に、人が住むことのみを目的としています」
「基本的に?」
桐沼が質問をする。
「一階には食料品や日用品などといったものが買えるため、基本的ということです」
「へ〜」
なるほど、この建物内だけで生きていくこともできるということか。
––––引きこもることを画策したりしないでくださいね。
善処するよ。
––––……
「それでは、中を案内いたします」
そう言って、建物の中へ入っていくリデルさん、桐沼はまるで友達同士のように肩を寄せ合って、その後についていく。
溜め息を吐きながら、迷子にならないように後を付いていく。
ここが、何々をするところですと説明をしてくれるが、はっきり言って半分も頭に入ってこない。
俺には使う予定がないようなものを説明しているのだ。
もちろん、説明をしている相手は桐沼だ。
これだけで、大抵の人にはわかるだろう。
部屋の外で、ブラブラと、二人が出てくるのを待つ。
先に住むことになっている部屋というやつを教えて欲しい。
切実に。
しょうがないので、二人が出てきたところで、話しかける。
「あの、部屋に入ることってできますか?」
「あぁ、わかりました。部屋の番号は3007です。2時間後ほどに団長がお呼びになるはずですので、その時は声をかけさせていただきます」
そう言って、リデルさんは、部屋の鍵を渡してくれる。
「部屋の中のものは自由に使っていいです」
最後に、そのように説明を終えると、桐沼と一緒に、建物の中を説明……というか遊びに(?)行ってしまった。
後には、ポツンと一人、立っている自分だけ。
––––……私がいますよ
哀れに思ったのか、オウランがそう慰めてきた。
鍵を眺めて、俺は、指定された部屋へと足を向けた。
後日、オウランが言うには、その時の俺の背中はとても哀愁が漂っているように感じたそうな。
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