第6話 門出
二日酔いというのを初めて体験した。
これは全て昨日酔いに酔っていたナイオラが俺に酒をこれでもかと飲ませてきたせいだ。
もちろん、最初の一杯を飲んだ時はもうこれだけでいいやと思っていた。
しかし、祝いの席だとナイオラが俺と桐沼のジョッキに溢れんばかりに注いだのだ。
その時、俺も酔っていたのだろう。
深く考えもせずに、注がれたそばから飲み干し、飲み終わったジョッキに再び酒を注ぐという悪循環が出来上がった。
途中から桐沼は酔い潰れ、俺とナイオラがありえない量の酒を飲み続ける勝負のようなものが始まってしまった。
そして、そこからの記憶は一切ない。
ただ、俺は昨夜、お酒を飲んでいた部屋におり、周りには死屍累々としたナイオラと桐沼は机に俯せになり、そしてどうやらお酒を飲んでいたらしいオウランは机の上で寝ていた。
というか、オウラン、鳥なんだから酒を飲むなよ……。
––––お酒は水と同じ枠です……。
オウランが首だけこちらに向けて、どこかのダメ人間のようなことを宣う。
こんなんオウランじゃなくてダメな鳥、略して駄鳥だ。
––––駝鳥じゃなくてオウギタイランチョウです。
……まだ酔ってるのか? こいつ。
駄鳥と駝鳥を間違えてるし。
まぁ、漢字は似てるけど。
––––うぅ、酔ってないです〜。
こいつ、まだ酔いがまわってやがる。
もう、これはダメだ。
オウランは放っておこう。
視線をナイオラに向けると、こちらを見返す目があった。
「起きてたのか?」
「いや、今起きたところだよ」
「そうか」
「行くのか?」
「こいつらが起きたらな。まぁ、思考がちゃんとしていないとすぐには出れないが……」
「確かに……」
床に転がっているたくさんのビール瓶。
中には割れて欠片が散乱しているものまである。
しょうがないので、桐沼とオウランの二人は寝かせておき、ナイオラは……掃除の邪魔になるので動くなと厳命して、全能の力を行使する。
割れたビール瓶を元に戻し、溢れたビールは集めて下水に流す。
一応、こんな家だがインフラは整っているのだ。
ちなみにだが、その時、ナイオラが汚れててもいいから飲ませろなどと、とんでもないことを言っていたので丁重に実力行使をして椅子の上に座らせておいた。
まったく、おちおち掃除をするのも難しいってどういうことだよ。
まぁ、全ての元凶はナイオラのせいだが。
そのあとは、昨日掃除をしなかったところもきっちり埃やゴミを捨ててまるで新築の家と同等になるまで綺麗にしてみた。
オウランや桐沼が酔いから覚めたとき、どん引かれたのは秘密だ。
そうして、立つ鳥跡を濁さずの精神に則って、その日のうちにナイオラの隠れ家から”フェリ”で指定された場所へと移動することにした。
もともと、荷物と呼べるようなものは少ないので、オウランはもちろん俺も手ぶら、桐沼が小さな鞄を持っているぐらいだ。
玄関の扉を開けて、外へ出る。
後ろでは、ナイオラが珍しく見送りに来ている。
目が合う。
言葉はなかった。
ただ、なんとなく相手の言いたいことがわかった。
『また来いよ』という視線。
それに、『あぁ』と肯定の意を視線で送ってみる。
まぁ、通じたどうかはわからないが。
やることが終わったら言われた通り手土産を一つ持っていくのもいいかなと思った。
そんな時が来るかはわからないが。
そう思いながら、俺、桐沼、オウランは、ナイオラの家を背にした。
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