第5話 魔女の隠れ家 3
そして、その弱い魔女ナイオラが、こちらを向き、口を開いた。
「反応してくれないかな?」
……一瞬、考えを読まれた気がしたが、気のせいだろう。
いや、女の直感は馬鹿にならないから俺の考えを当たらずとも遠からずなぐらい当てているかもしれない。
なので、重い腰を上げて、ナイオラの話を聞く姿勢を俺は整えることにした。
にやにやしているナイオラの表情がとても怖いのだが、やっぱりこれから寝てはダメだろうか? と考えてしまった。
「それで?」
「起きて最初の言葉がそれかい?」
「寝起きで頭が回っていないんだ。しかたがない」
「よく言うよ」
そこで、ふと気になり、質問をする。
「オウランは?」
「そこにいるよ」
そう言ってナイオラが指差した場所は、棚の上、大きな鳥籠(鍵はかかっておらず空いている)の中でオウランがとても嬉しそうに餌を頬張っていた。
そして、俺の視線に気づいたのか、オウランはこちらに目をやり、憎たらしい笑みのようなものを浮かべ、鼻で笑ってきた。
「お、オウランめぇぇぇぇぇぇぇっっっ !!!!!!!!!! 」
オウランはさらに調子に乗ったのか餌(丸められたもの)を嘴で空中に放り上げ、そのまま口を開いて食べる。
そして、こちらを見てきてドヤる。
とてもうざい。
とっっっっっっっっっても、うざい。
うざい×不可説不可説転。
恨みと妬みと嫉み、怒りと憤りが頭の思考を占めていく。
それだけしか考えられなくなっていく。
––––ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、止めてください‼︎
闇堕ちなんて笑えませんよ‼︎
闇堕ち? 俺は至って冷静だ。
安心していいよ。
痛みは感じないだろうから。
––––それって殺人予告ですか⁉︎
そんなわけないじゃないか、これは強制執行だよ。
––––どんな罪に問われていたんですか⁉︎ 私‼︎
うざい
––––ダジャレを言いたかっただけですか‼︎
それもある。
「……オウランちゃんと話すのはそこまでにして、質問していい?」
魔女ナイオラは会話に入れないが、俺とオウランの脳内やり取りは裏技を使って傍聴することができると言っている。
なので、空気を読んでタイミングの良い時に話しかけてくる。
「いいですよ」
「それじゃあ、”フェリ”と手を組むことにしたの?」
「はい」
「……そう」
「”オトルス”が”フェリ”から手を引いてくれるまで、ですが」
「じゃあ、向こうで住むの?」
「はい」
ナイオラは、口を開きかけて、口を閉じる。
そして、意を決したようにこちらを真剣な眼差しで見つめ、再び口を開く。
「寂しく、なるね」
「また、暇だったら来ますよ」
あえて明るく言葉を返す。
「そうだね、その時はお土産があると嬉しいな」
「……考えておくよ」
「期待してるね」
––––押し切られてますね
「えぇ、その時は綺麗な部屋で出迎えてくれると嬉しいです」
「ど、努力するよ」
ナイオラは目を泳がせながらそう答えた。
とても心配になったがこれでも数百年生きてる魔女だ。
ちょっとやそっとじゃ体調不良さえ起こさないだろう。
「それじゃあ、お祝いしないとね。新しい門出を」
そう言って、ナイオラは部屋を出て飲み物や食べ物を取りに行く。
その後ろを静かに様子を窺っていた桐沼が
「手伝います」
と言って追いかけていく。
そして俺は、二人が戻ってくるまでにこの部屋を片付けようと周りを見渡す。
散乱した書類や、積み上がった本の山、使い道さえよく分からない容器や物体。
……心が折れかけた。
桐沼、お前、逃げやがったな。
しょうがないので全能の力を使い、的確に片付けを開始する。
オウランはいつの間にやら鳥籠から外に出ており、棚の上にとまって、こちらを見下ろしている。
その目には嘲りの色がありありと見て取れた。
そして、
––––ふっ
と、言ってきた。
この時ばかりは本気でオウランにキレかけた。
もちろん、桐沼とナイオラが帰ってくるまで頬をひくつかせながら大人の対応でどうにかやりきった。
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