第7話 ”フェリ”の隠れ家 1



 ガラス張りのビルを見上げる。


 俺らが”フェリ”の団長ジェイソンに来いと言われたところは、ビルが立ち並ぶ都会。


 その中でも今いる場所は特に高いビルが密集している場所だ。


 街の中核を担っている重要な施設や、有名な大企業が特に集中して立ち並んでいる。


 そのような建物の一つが、”フェリ”の本拠地だそうだ。


 ––––絶対嘘ですよね。


 多分……。


 嘘かもしれないし、嘘ではないかもしれない……微妙なところだ。


 この前、団長のジェイソンに会った場所はそれこそ普通のいかにも中小企業が使うような大きさの建物だった。


 そう考えれば、この建物が”フェリ”の本拠地だと否定できないところがある。


「ここが……?」


 後ろで桐沼が頭に?マークを浮かべているのが目に見えるようだ。


 だよね、どう見ても歴史のある魔法組織の本拠地には見えない。


 辺鄙な山奥の更に地中をくりぬいて作ったところとか、誰も入れないように魔法で認識阻害系の結界をかけたりした樹海の中とか、そんな場所を思い描いたのだが、これではまるで表立って魔法組織だと謳っている法人団体のようだ。


 ま、まぁ、どちらにせよ俺に疚しいところはないし、決して建物の大きさに気圧されたりだとか、きっちりとした服を着た人が入っていく中を私服で入っていくのが精神的ダメージを受けるだなんて考えているわけではない。


 ––––思いっきり考えてるじゃないですか。


 う、煩い。


 考えてないって言ったら考えてないんだよ。


 ––––顔、引き攣ってますよ?


 聞こえない〜、聞こえない〜、俺は何も聞こえない〜。


「入るんですか? ここに?」


 わかるよ、桐沼、これは……きつい。


 居た堪れない視線の中、入っていく自分たちの姿が頭に浮かんでくるよ。


「ですよね……」


 …ん?


 今、声を出してたか?


 ––––あっ、何を考えてるか教えてあげました。


 訳:無視されたのが嫌だったので恥かかせようとしてみました。


 ……悲しいよ。


 俺は猛烈に悲しいよ。


 今から膝を地について顔を覆っておいおい泣いてしまうよ。


 そして、周りの人に聞こえるように怨嗟の声を喋るんだよ。


「やめてくださいよ……」


 オウラン‼︎


 まだ桐沼に教えてたのか‼︎


 スパイだ‼︎


 裏切り者だ‼︎


 人でなしだ‼︎


 ––––オウギタイランチョウですからね。


 人の心を持たない化け物め‼︎


 ––––急に心に刺さることを言ってきますね。


 もう、俺に構わないでくれ、もう十分だろ、復讐は済んだだろ……。


「……なんか、ごめんなさい?」


 桐沼が謝ってきた。


 もう、復讐は済んだだろ……。


 ––––いつまで遊んでるんですか……


 俺は遊んでない、と思ったとき、後ろに気配を感じた。


 後ろを振り向く前に声をかけられた。


「こんにちは」


「こんにちは、桐沼 咲と言います」


「ご丁寧に、私の名前はアリソン・リデルです。あなた方の案内を頼まれています。よろしくお願いします。」


 返答に窮した俺を置いて、”フェリ”の構成員と思われる女性と桐沼が会話を進める。


「……鬼崎 駿翠です。よろしくお願いします」


 会話に入りそびれた俺は、挨拶と名前だけは名乗っておこうと場を見計らって喋る。


「はい、よろしくお願いします」


 営業スマイルで返答された。


「それでは、案内いたします」


「はい‼︎」


 そう言って、すっかり意気投合しているリデルさんと桐沼の後をついていく。


 オウランはただのオウギタイランチョウで通すつもりか、俺の肩にのって静かにしている。


 私服で入るのでさえ居た堪れないのに肩に鳥が止まっている状態でビルの中に入るというのは改めて考えてみると変人だ……。


 しかし、そんなことでは、俺の心は折れない。


 無心になって俺はビルに入ることにした。


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