第2話 ジェイソン・パウエルの考察



 魔法結社”オトルス”


 それは、欧州の魔法結社としては一大規模を誇る魔法結社の一つ。


 また、歴史も古く、それ故にか魔法結社としては広大な範囲で活動を行っている。


 多くの知識が、力が、富が、集約する組織。


 比肩するライバルが存在しないわけではなく一定数常に牽制をし合っている。


 また比肩しなくとも隙を突かれれば破れることもあろう存在は数多くいる。


 外敵だけが問題ではない。


 ”オトルス”の長い歴史の上で生まれた派閥同士が足を引っ張ることさえある。


 保守派、改革派、中立派、それだけではなく小さいながらもいくつもの派閥が入り乱れている。


 これらは”オトルス”を知っているというならば必要な最低限の知識だ。


 さらに、”オトルス”について詳しいというならば、今の話だけではなく、”オトルス”を誰が何の目的で、どうやって設立したのか、また現在どの派閥が力を持ち、組織を取り仕切っているか。


 ”オトルス”を警戒し、監視しているあらゆる組織、団体などがあらゆる手を使って知り得た知識。


 その知識を持っていてさえ、ここ一年ほどの”オトルス”の動きは理解ができなかっただろう。


 突如、とある島国の一軒家に向かって上級神の神罰を意図的に行使させ、先進国に勢力を伸ばそうとする。


 どれもこれも、理解できない。


 圧倒的に情報が足りない。


 自分たちが掴んでなく、”オトルス”が掴んでいる情報。


 それほど、”オトルス”が活動した範囲を洗ってみても、埃一つ出てこない。


 不自然なほどに、何一つとして。


 ”オトルス”が何を狙っているのか、多くの組織と軋轢をわざわざ生んでまで手にしたい目的とは。


 けれど、その目的の片鱗が見えたのだ。


 ”オトルス”の支部を潰して回っている二人組。


 彼らが、”オトルス”の最大の目的の一つだということに。


 しかし、理解できないことがある。


 ”オトルス”は彼らに攻撃を仕掛けたのだ。


 ”オトルス”の支部を潰して回れるような化け物どもに。


 もちろん、数名単位で”オトルス”の支部を潰すこと自体は、世界中を探せばそれなりにいるだろう。


 しかし、あえてそのような存在と敵対し、あまつさえ親族を殺すなど、それに見合うだけの価値がなければ動かない。


 そもそも、彼が目標なのか、彼の持つなにかに目的のものがあるのかそれさえわかっていない。


 それでも、それを探るしかない。


 戦力は向こうの方が上、こちらには交渉材料がない。


 今は、どれだけ相手に交渉できる材料を手に入れるか。


 そして、できれば彼らと協力して”オトルス”を壊滅させる。


 まるで綱渡りのようなことをしているのは百も承知。


 後には引けない。


 自分には破滅か現状維持か、隆盛か。


 どれにしろ、自分に選べる権利はない。


 選ぶ努力はするが、秀才止まりの自分には天才たちと渡り合う力はない。


 天に祈り、運に任せてただ走りきることしかできない。


 それが、地獄に続く道であっても。


 いかん、いかん、悲観的な思考はいけない。


 されど、自分は理解しておかなければいけない。


 最悪の自体を。


 そして、考えるしかない。


 最悪の自体になった時の準備を。


 今日、彼ら––––キザキと話したことを思い出しながら。


 自分には覚悟を決めるしかないのだから。


 これからどうなろうとも、己の責になる覚悟を。


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