第1話 ”フェリ”
月の光が降り注いでいる窓ガラス際に、一人の男が夜空を見上げていた。
男は長身で黒いスーツをまるでお手本のように着こなしている。
男がこちらを向いてきた。
「キザキ シュンスイ、だったね」
「そうです」
「私はジェイソン・パウエル。この”フェリ”の団長を務めている」
そう、パウエルは話を切り出してきた。
「”フェリ”は”オトルス”と最近よく小競り合いが続いていてね。本来だったらあまりお互いに干渉し合うことはないんだけど、ここ一年ほど”オトルス”は急にこちらの領域に人を送ってくるようになってきた。信じられなかった。”オトルス”は古く、格式を重んじる。相手に対しての少しの敬意と自分たちの高いプライドが何より大事だということは周知の事実だ」
そこで、話を区切り、パウエルがこちらに意味ありげな視線を送ってくる。
「けれど何かの間違いではという私の期待は裏切られた。彼らは勝手に自分たちの支部を作り出し、大々的に行動をし始めた。私たちにとって、それは自分の家にずかずかと上がりこんで一つの部屋を占領するような行為だ。当然、こちらは抗議の文を”オトルス”に送った。しかし、”オトルス”は無視をした。うちらのような闇社会では一度舐められたら後から後からちょっかいをかけてくる。うちの精鋭を送り、こちらの本気を分からせるつもりだった。しかし、結果は……全滅だ。その間には”オトルス”の勢力範囲はネズミ算式に増えていった。ここ数ヶ月ははっきり言って諦めかけていたんだよ、”オトルス”を止めることはできないってね」
疲労からか小さな溜め息をパウエルは吐く。
「その頃になって、噂話が聞こえてきた。君たちの噂だよ。一夜にして”オトルス”の支部、3つを壊滅させた化け物が現れたってね」
パウエルはその時のことを思い出しているのか虚空を見上げる。
「5つ潰したのが最高記録だったと思うんだが……(ボソッ)」
俺の声は聞き取れなかったのかパウエルは話を続ける。
「噂は噂。最初は信じなかった。しかし、藁にもすがるような思いで、調べるだけ調べるように指示を出すことにした。数日、面白い結果が報告された。噂は事実だと太鼓判が押された報告書だった。急いで、足取りを辿って、君たちを見つけようとした。まぁ、派手に活動してくれたおかげで簡単に見つけることができたが」
嬉しそうに言われても困るのだが……。
「これで、君をここに呼んだ理由はわかったかな?」
「……それだけではないのでしょう?」
「そうだな、頼みたいことがある」
これを聞いたら後戻りはできないぞ?というような視線を俺に送ってくる。
「なにを?」
「……君は”オトルス”の支部を潰している。それの手伝いをしたいと思うのだよ」
「手伝い?」
「まぁ、簡単に言えば食べ物、寝床など、必要なものを準備するつもりだ。どうだい?」
––––胡散臭いですね
オウランの言葉が頭に響く。
「理由は?」
「先ほどの説明で納得してくれないかい? 私は”オトルス”の進出の邪魔ができて万歳、君は仕事か私事かは知らないが”オトルス”の支部を潰すための味方が出来て万歳だろ?」
「……いいだろう」
納得したわけではないが、断る理由もない。
衣食住の心配をしなくて良いのだ。
これまで、手を焼いていていたことをしなくていいのは嬉しい。
裏があったとしても”オトルス”が潰れるまでは俺の安全は保障されているだろう。
––––”オトルス”と”フェリ”が裏で繋がっていて虎視眈々と隙をうかがっていたり……
その時は為るように為れだ。
それに、その場合でもやることには変わりはない。
–––– ……そうですね
こうして、俺は味方を手に入れた。
これが、これからの未来にどう作用するかは、まだ誰にもわからないだろう。
しかし、有意義なことになってくれると嬉しいが……。
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